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第六章 サヨナラは八月のララバイ - Sleep, Baby sleep - 1

 前章までのお話。


 ひょんなことから、「異世界人」アウディを拾ってしまった贅理部御一行様。

 紆余曲折ありつつも、彼女を故郷へ返してあげましょう、という話になりまして、

 (三人それぞれの思惑は異なるものの)

 デロリアンまがいの大科学実験を敢行してみたら……結局、次元転送など起こらず。

 それどころか、図らずも輪廻転生の輪から、偉人の魂を招き入れてしまう始末。

 女子高生の肉体に奴隷解放の英雄と反差別の黒人指導者。

 余計こんがらがっちゃったぞ?

 落とし所が見えないぞ? もう六章なのに?


 どうする? どうなる、ゆにばぁさりぃ!


 怒涛の第六章、開幕です!

「こんばんはー☆」

 小洒落たホテルのラウンジみたいな店内には、ムーディな間接照明が奢られて。

「ルイーズでぇーっす」

 革張り風のソファで待ち惚けしてたオジサマへ、精一杯の営業スマイルをサービスサービス☆

「よろしくお願いしま~す☆」

 馴れ馴れしく「彼」の隣へ座る私、パーリーピーポーも顔負けの非日常系衣装を着けて。

 まさか私が、夜の蝶的なエロカワ服を着ることになるとは……馬子にも衣装というか、着せられてる感が半端じゃない。パッと見、お姫様系の衣装にも見えますが、本物の姫様はこんなにも丈の短い破廉恥スカートを履いたりしない。一瞬でも気が抜けない太腿丈は、常時パンチラのピンチ。

 イミテーションだろうが何だろうが、取り敢えず光らしとけば大丈夫、と言わんばかりのアクセサリといい、どっからどう見ても《お水の花道》です。

 ま、私に似合ってようが似合ってなかろうがどうでもいいんですが。

 男性(お客様)的には「着飾った若い女の子」という記号性が最も重要らしいので。

 心ゆくまで記号性を愛でて頂くのが嬢の務め。

 どんだけ舐め回すように凝視されても忍の一字。

 間違っても【セクハラ!】などと糾弾してはいけないのです。

 我慢もお給金の一部なので、このお店は。

「お客さん、もしかして戦国武将の人ですか?」

「分かる?」

「なんてゆうか、オーラあるじゃないですか戦国武将って☆」




 ――時は「ゆにばぁさりぃ作戦会議」へと遡る。


「相手は国会議員ですよ?」

 アウディが導いた《奇跡のセッション》のお陰で、霊から肉体の主導権は取り戻せたものの……

「意識高い系だからね」

「そりゃ、敏感で頑固ぞな」

 未だ悠弐子さんの意識に留まるリンカーン大統領とB子ちゃんに留まるキング牧師、両名から『悪徳国会議員を討て!』との【御神託】が下されまして……

「満足するまで出てって貰えない雰囲気。大統領」

「常人離れした意志の強さぞな」

 と、シャーマニックプリンセスの二人(悠弐子&B子)は他人事みたいに。

「とは言ってもですね、教科書に載る偉人でも、女子のプライバシーは尊重して貰わないと……」

 いい迷惑です、女子高生的には。

「じゃあ……」

「やるしかないぞな」

「やれることやっちゃうしか」

 『偉人さんの霊』にお帰り願うには、殺っちゃうしかないんですか? 彼らの望み通り?




 そんな、止むに止まれぬ流れで『悪徳議員×懲罰作戦』が発動されたワケですが……

(なぜ私が……)

 こういう世界とは最も縁遠いはずの山田わたしが工作員に選ばれちゃいまして。

 お水系のハニートラッパーなんて、私には適性の欠片も存在しないのに……

 華美なドレスも似合わないし、オジサマを翻弄するトークスキルも持ち合わせていない。

 いきなり「お前、工作員だろ!」って議員さんから指弾されてしまうんじゃ?


 …………と、ビクビクしながら夜の社交場へ潜入したんですが……

「やだもー、お客さんったら☆」

 あ……あれ?

 不思議と馴染んでる私……そこまで違和感ないんですけど?

『男の生理は複雑なのよ』

 と訳知り顔の悠弐子さんは語ってました。

 経験の乏しい山田には男心の機微なんて理解不能ですが。

「サリィさん指名入りましたぁー」

 頃合いを見計らって、ボーイさんが嘘の指名で私を中座させてくれた。

「ごめんねぇー、今度はぜーったい指名してネ♪」

 助かった。乏しいトークの馬脚を現す前にトンズラできました。

「はぁ……」

 バックヤードへ下がってガックリと頭を垂れる。

「取り敢えず、お疲れ」

 ボーイさんに扮した悠弐子さんが、冷たい乳酸菌飲料を手渡してくれた。

「ぷはー!」

 乳酸菌飲料にしては喉越しのいいドリンクだけど、例に漏れず容器が小さい。

 なので続けてもう一本。失ったエナジーをゴキュゴキュ補給。

「思った以上に疲れますね、このお商売……」

 いきなり面識のない異性と、それも異なる世代の人と何を話せばいいのか、どのような話題を振ってあげれば喜ばれるか。大変に脳が疲れる。精神力がガリガリと削れていきます……

「予行演習を疎かにしてはいけないわ、桜里子」

 ええそうです、悠弐子さんの言う通りです。目的を見失ったら本末転倒。

 いつ現れるかも知れない本命(綿貫議員)を、アウディ並みの一撃必中しなくてはいけない。

「桜里子の見せ場、幕は待たない!」

 そして、この役目(潜入工作員)は私にしかこなせない。

 何故なら、この店が「安い」から。

 肩で風切るお大尽が見栄を振り撒く高級店とはお世辞にも言い難い。

 備品も二流品以下だし、裏へ戻ると濡れた床の臭いがします。

 ならば当然、嬢のレベルも「それなり」。

 もしもこんなニッチな店が悠弐子さんやB子ちゃんをスカウトしたら――秩序が崩れる。

 アナタハンの大混乱必至。国会議員相手の極秘潜入工作なんて、夢のまた夢となる。

 ニッチ?

 ええニッチですとも。このお店をニッチと言わず何を言う?

 誰でも分かります――一瞬で分かる。



「やぁやぁ我こそは新免武蔵守藤原玄信しんめんむさしのかみふじわらのはるのぶ!」

 フロアから勇ましい名乗りの声がする。

 普通なら正気を疑われかねない自己紹介も、ここでは日常の光景。

 てか、わざわざ客が殿様の格好に着替えて現れるって、どういう趣向ですか……????

 お殿様扱いして欲しいってこと?

 つか、対応する嬢は普通のキャバ嬢スタイルなのに? 大奥風の打掛姿でなくともいいの?

「安っぽいのがいいの」

 まるで武将男子の心を読んだかのような口ぶりで悠弐子さん。

「こういう店に通う男は、娼婦らしさを愛してる」

「はぁ……」

「会いに行ける売女よ」

 会えなかったら逆に問題ですよ悠弐子さん……業界的に。普通は会えます。合うところまでは誰でもできます。お金さえ払えば。夜のお店ですし。

 というか悠弐子さんの【中】のリンカーン大統領は、お咎め無しですか?

 意識高い系の人権思想家なら、性を売り物にする界隈とか、チョー渋い顔されちゃう気がしないでもないですが……

「――汝らは奴隷には非ず」

 ビクッ!

「過酷であっても、見合う対価を得ている」

「そ、そうでしょうか?」

 急に出てきた。悠弐子さんの姿なのに、異なる自我――エイブラハム・リンカーンさん。

「身柄を拘束して働かせ放題、そんな人身売買とは本質が異なる」

「はぁ……」

「娘らは己の判断で職を選んでいるのだろう? 誰に止める権利があるのか?」

「それはそうですが……」

「元来、娼婦とは女に与えられた救済、の側面も持つ。蹉跌の克服を望む、彼女らの再出発手段を第三者が奪って然るべきか?」

「必要悪って言いたいんですか?」

「政治家としてはコメントしかねる」

 黙認(お目溢し)が世界を円滑にする、それも政治家の度量かもしれないけど……

「サリコ……潔癖なお嬢さんは正義の味方になりなさい」

「リンカーンさん……」

「清濁併せ呑んでも腹を壊さない、そんな俗物が政治まつりごとを担えばいい」

 自嘲の笑みを浮かべて悠弐子さん――に憑依した偉大な政治家リンカーンは助言をくれた。


 ヴヴヴヴヴ!

 心臓に悪い着信のバイブ!

『本命来タレリ』

 B子ちゃんからのLINEに背筋がピンと伸びる!

 ※見ていた人は一発で分かると思いますが、この店の元ネタは戦国鍋です。

  まんまです。

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