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第五章 私を異界に連れてって - 7

 狂気の次元転移実験「異世界へ繋がる井戸作戦」、その正体はウイドーメイカー号をデロリアンに仕立て上げるという、どう考えても頭のおかしい作戦でした。


 悠弐子、B子、桜里子、アウディ。

 果たして、誰だったのでしょう?

 ちょうどいい塩梅で落雷を受けてしまうほど、日頃の行いが悪かった子は?

 天空の神様に「ちょっとこいつ、懲らしめたほうがいいな……」と思わせちゃった子は。


 それはそれとして、

 実験の結果、次元転移ではなく、謎の人格変化が悠弐子とB子の身に降りかかる!

 どうする桜里子?

 またもや孤立無援、孤軍奮闘の危機到来?


 分からないことはネットに訊け。ネットさんは何でも教えてくれる。

 B子ちゃんのノートで、あれやこれや探してみれば、


 問い:なぜ外国人の霊が日本語を話せるのでしょうか?

 答え:チャネラー(媒介)の言語中枢を通じて話しているので、日本語になります。


 スピリチュアルの総本山みたいなサイトで、懇切丁寧に解説してあった。

「す、すごいなスピリチュアル系の論理は……」

 「霊魂は見えない」という事実【だけ】を拠り所にメチャクチャな論理を通してくる。なんでもアリですオカルト界のバーリトゥードです。

 この論理を使えば、どんな偉人の発言だって捏……降霊させられるし、守護霊云々の特別オプションを用いて、まだ生きてる人の言葉すら偽……聞き取れちゃう。

 一種の【発明】ですね。

 これなら「自分は羽柴秀吉の生まれ変わり」も正当化できますよ。

 あくまで本人じゃなくて【守護霊的存在】だから訴えられる危険性も排除……


 ……は、できないにしても、マトモに扱っても仕方がない、関り合いになる方が面倒くさいと思わせるのは強い……

 いや、昔から【霊】は使い勝手のいい方便で、洋の東西を問わず採用されてきた論理ではある。カトリックですら霊的な物を用いて教義を説明してきたわけですし。

「それはそれとして!」

 もはや理屈など後回しでいい。

「まずは二人をなんとかしなくちゃ!」

 勝手に行動されると収拾がつかなくなっちゃうので、悠弐子さん(記憶障害)とB子ちゃん(記憶障害)には取り敢えず部室へご足労頂いた。姿格好は全く変わってないので、怪しまれる部分はないにしても……

「まさか百年経っても、そんな有り様だとは」

「百年後に生きる者として、お恥ずかしい限りです。ミスター・プレジデント」

 言葉よりも行動が先走る無軌道女子高生とは思えないほど、思慮深い議論を交わしてます……

「違う……」

 あれは違う。私の知ってる彩波悠弐子じゃないしバースデイ・ブラックチャイルドでもない。

 てかそもそも二人は紅茶を飲みながら穏やかに談笑する仲じゃない。

 顔を合わせれば、物理であれ論理であれ、相手を打ち負かそうと殴り掛かる関係です。

 お互いに敬意を払いながら社会問題を語り合うとか、ありえない。

「彼? この彼が先代の大統領!?」

「黒人が!?」

 ネットニュースを見たB子ちゃん、飛び上がらんばかりの勢いで驚いています。

 本人の自己紹介に拠れば「我が名はマーティン・ルーサー・キング・ジュニア」と……そんな真っ白なキング牧師がいたらKKKもビックリです。ブラックパンサー党も改名不可避ですよ。

「百五十年以上掛かって、ようやく人種差別は解消されたのか!」

 残念ながらリンカーン元大統領、世界はそこまで平和じゃないんです。奴隷制度とは違う、社会の分断が世界に蟠っています。

(それより!)

 世界の不幸を嘆いている場合じゃない! 山田桜里子わたし的には!

 今そこにある危機。

 落雷によるショックでチャネラーへと変貌してしまった二人を!

 悠弐子さんとB子ちゃんを元に戻すことが最大の懸案です!

「これは是非、祝杯を挙げたいものだキング先生」

「シャンパンは……ワインでも構わないのだが、君?」

「あるわけないじゃないですか…………ここ学校ですよ?」

(ダメだ……)

 チャネラーとして憑依の深度が深い……ちょっとやそっとの刺激では元に戻りそうもない……

(てか、このまま戻れなかったら……)

 新しいペルソナが癒着して、剥がれなくなってしまったりしたら……

 それはつまり、元の自我、悠弐子さんとB子ちゃんとの永遠の別れを意味する!

(そんなの絶対にダメ!)

 じゃあどうするの?

 再度ウイドーメイカー号でフィラデルフィア・エクスペリメントする?

(無理ですよ)

 黒く厚い積乱雲は盆地を去り、空には虹がかかってる。

 そもそも【実験】の成功は、偶然に偶然が重なった事故みたいなもので…………もう一回やれと言われても、再現不能な離れ業ですよ?

「もう、どうしたらいいの!」

 埒が明かないのを分かっていながら、叫ぶ衝動を抑えられない。

 そんな私を見て、女のヒステリックは犬も食わない、とばかりに肩を竦める【紳士】二人。

 自分たちだって女の子のくせに! 同性が羨むほどの美人のくせに!

 分からず屋の旦那みたいな顔が癪に障る!

(違う!)

 あなたは! あなたとあなたはそんな子じゃない!

 泣いてる女の子がいれば寄り添って頭を撫でてくれる、「どうしたの?」って抱きしめてくれる同級生じゃないですか!

 女子供の面倒をみるより天下国家を論じるのが本懐だと、信じて疑わない、昔気質のアッパークラスじゃないのに!

「ううう……悠弐子さん……」

 救世主は目の前にいるのに。どんな難局も抉じ開ける悠弐子さん(あなた)が。

 なのにあなたは素知らぬ顔で、他人事の視線を向けてくる。

 勝手に落ち込んで情緒不安定になっている、可哀想な女子を憐れむ目で。

「もう…………どうしたらいいの?」

 神様ひどいです!

 こんな取り上げ方を! 私の大事な友達を取り上げちゃうとか!

 せめてどちらかでも正気でいてくれたのなら、こんなに追い詰められたりしないのに……

「こんなことになるのなら!」

 強引にでも止めるべきだったんだ。もっと早い段階で無謀な実験を!

 力なく膝を着いて、ガックリ項垂れる。

「積み」です。

 よもや天下無敵の贅理部がこんな終焉を迎えるなんて……


 タンッ!


「えっ?」

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