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第五章 私を異界に連れてって - 6

「行くよ、新次元!」

「新世紀のフィラデルフィア・エクスペリメントぞな!」

 そんな勇ましい意気込みで挑んだ『異世界へ繋がる井戸作戦』だったが……


 憐れ、ゆにばぁさりぃ……憐れ?

 いやむしろ大当たりなのではないのか?

 盲滅法の次元転移を企んで、想定通りの落雷をキャッチできるとか、インスタ映えで人気者間違いなし、では?

 まぁ、渦中の本人にはそんな余裕なんてない。

 実際のハプニング映像でも、よくある話だけど。


 はてさて、我らがゆにばぁさりぃの運命や如何に?

 取り敢えず「雷に打たれても、車内に居れば大丈夫!」とは聞くけど……?

 バコン!

 滑らなくなったスライドドアを蹴っ飛ばし、這々の体で外へ転がり出る。

「ゲホッゲホッゲホッゲホッ!」

 煙の充満した車内から、酸素を求め。

「死ぬかと思った……」

 車内なら落雷に遭っても平気。どこの誰が言った都市伝説か知りませんけど、

(大丈夫じゃないです! 全然大丈夫じゃない!)

「はぁ……はぁ……」

 まさかちょうど火の見櫓の袂へ差し掛かった時に、落雷に見舞われるとか!

 思えば火の見櫓は、樹木並みの高さを誇る上に全身が金属。それ自体が避雷針みたいなもの。

(にしたって!)

 ――――このタイミングで落ちる!?

 よっぽどの幸運というか悪運の持ち主がいるに違いない。私たち、四人の中に!

「はっ!」

 そういえば皆は?

「悠弐子さん! B子ちゃん? アウディ!」

 即座に振り返ってみれば、濛々と煙が立ち込める車内に特徴的な耳のシルエットが!

「うぇぇぇぇぇ……ゲフッゲフゥッ!」

 倒れそうな足取りで車から出てきた彼女を抱き留める。

「アウディ! 大丈夫アウディ?」

「ぷへぇ……」

 ぐるぐる目のアウディは緑髪がバルデラマ状態、口からは白煙を吐いてる。

 てか私もか? おそらく山田(私)もバルデラマ?

(確実に寿命を縮めてる気がする! ゆにばぁさりぃに関わってから!)

 もう脱退してやる! こんなんじゃ命がいくつあっても足りない!

「死んでないよ……生きてる……」

 そうよアウディ、私たち生き残った! セフセフ! 生き残ったら勝ちです!

「うぅ……」

 車内から別の声がする! 落雷の直撃でも生き延びたラッキーガールは私たちだけじゃない!

「悠弐子さん? B子ちゃん? 生きていたら返事して下さい!」

 火の見櫓から水路の止水板を拝借、ブンブン振り回して白煙を振り払えば、

「う……ううぅ……」

 助手席に座る彼女が息してる! バルデラマでも息してる!

「大丈夫ですか悠弐子さん?」

 扉を開け放って煙地獄から彼女を引き摺り出す!

「……ここは一体……」

「火の見櫓の下ですよ! ヒルバレーの時計台を模した!」

「櫓? …………何かね、それは? インディアンでも見張っているのか?」

「……は?」

 落雷のショックで記憶が飛んじゃった?

 インディアン? 西部劇のゲームでもやってるつもりですか?

「ど、どうしたんですか悠弐子さん?」

「ああ、申し訳ないがご婦人」

「は?」

「人違いではないか? 私はユニコなどという名前ではない」

「は!?!?」

 これはマズい! かなりヤバめの記憶混濁が起こっているのでは????

「動かないで下さいね悠弐子さん! 救急車呼びますから!」

「問題ないよ、自分にも従軍経験がある。それよりこれは何かね? 南軍の砲撃か?」

「な、南軍?」

 なんですか南軍って? 吉野朝廷を正統とみなす勢力のことですか?

 じゃああなたは楠木正成や新田義貞や北畠顕家と戦った…………足利尊氏?

 いや、あの頃は「砲撃」など存在しない。だって鉄砲すら伝来してない時代だもん。

「てかてかてか!」

 そんなことはどうでもいいんです! 悠弐子さんがどんな創作上の主人公とアイデンティティを取り違えしていようと。

「やっぱり! こんな無謀な実験はやるべきじゃなかったんですよ!」

 何がフィラデルフィアエクスペリメントですか?

 何がバック・トゥ・ザ・フューチャーですか?

「無理にアウディを異世界へ帰さなくたって……『みんな一緒に、幸せに暮らしました』で、いいじゃないですか!」

 お伽噺の大団円を享受すれば!

「そもそも現状維持の何が悪いんですか?」

「それは違うな、お嬢さん」

「えっ?」

 運転席から声がした。

「虐げられる者がいれば救わねばならない。理不尽が幅を利かすならば正さねばならない」

「B子ちゃん?」

 髪はチリチリの爆発パーマですが、声は確かにB子ちゃん……

 B子ちゃんの声なのに……B子ちゃんじゃないみたい。

 姿形は一緒でも、雰囲気が、口癖が、世界を見る目が全然違う気がする……

「戦わなくては」

 確かにB子ちゃんなのに。見栄えは間違いなくB子ちゃんなのに。

「それにしても今回は些か大仕掛ではないか? よほど腕利きの殺し屋を雇ったと見える」

「こ、殺し屋?」

 なに言ってんですかB子ちゃん? 私たちは雨中を暴走して、雷に打たれたんですよ? 鉛弾に命を狙われたワケでは……

「狙われるのは慣れっこだがね」

 悠弐子さんだけじゃなくてB子ちゃんまで記憶障害に!?

「差別主義者には目障りで仕方ないのだ、この私は」

 なんだ? なんだこっちは? 自分を誰と勘違いしてるんですか?

「おや、それは聞き捨てなりませんな?」

 自己を倒錯するB子ちゃんの話に――悠弐子さんが食いついた。

 いえいえ。悠弐子さんであって悠弐子さんじゃない。今の悠弐子さんは――悠弐子さんにして悠弐子さんに非ず。記憶障害で、何かの登場人物と自我を取り違えている、可哀想な悠弐子さんです。

「貴国でも差別主義者が社会を牛耳っているのか?」

「誠にお恥ずかしいことながら……我が国では公共交通機関や学校から、果ては水飲み場やトイレまで差別がある。謂れなき憎しみが蔓延している」

「遺憾に存じます、ミスター……」

 殊勝だ! 殊勝です悠弐子さん! こんな、しおらしい悠弐子さん見たことありません!

「世に蔓延る悪弊は我々自身が正さねばならぬ!」

「立派な志の持ち主か!」

 意気投合してますけど……悠弐子さん(記憶障害)とB子ちゃん(記憶障害)。

 い、いいのか?

 これいいの?

 記憶障害の人と記憶障害の人が普通に会話してますけど……これ、いいの? 止めるべき?

「もし宜しければ、お名前を頂戴しても構いませんかな?」

「無論です。貴方のような紳士の知己に加えて頂けるのなら、光栄の至り」

 ニッコリ微笑んだ悠弐子さん(記憶障害)、自分の胸に掌を当てて自己紹介。

「エイブラハム・リンカーンと申します」

「「リンカーン!?」」

 思わず私とB子ちゃん(記憶障害)、素っ頓狂なユニゾンで鸚鵡返し。

「これが……我が姿????」

 スマホのインカメラで自分の姿を見せてあげると、悠弐子さん、というかリンカーンと名乗った記憶混濁少女は驚きの声。本当に自分が第十六代合衆国大統領だと勘違いしているらしい。

「これは如何なる怪異現象か?」

 自分の顎を摩りながら、超有名なトレードマークである髭の不在を不思議がってる。

「さすれば!?」

 リンカーン(自称)のスマホを奪い取ったB子ちゃん(記憶障害)、悠弐子さんと同じようにインカメラで自分の容姿を確認すると、

「女性!」

 同じく驚愕。

 さも、「自分は男だったのに!」とでも言わんばかりの驚き方で。


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