第五章 私を異界に連れてって - 3
謎の身元不明少女・アウディの、あまりにあまりな豹変ぶりに、「どうしてこうなった?」と戸惑うこと仕切りの桜里子さん。
勝手にアマゾンGO! しちゃったらしい弓の爆買いまで見せつけられては仕方ない。
ほとんど思考停止状態へ陥ってしまっても、致し方なし。
だけど桜里子さん――――忘れていけないこと、あるよね?
どうして、贅理部は謎の身元不明少女を匿うことになったのか、
彼女を公に出来ない理由、あったよね?
そこを解決しないことには、一歩も先へ進めないの、ゆにばぁさりぃ。
さぁ、訊いてみましょう、
彼女のこと。
彼女のキモチ。
「第二回! チキチキゆにばぁさりぃ査問会議ー!」
バックからのサブミッション拘束でアウディの自由を奪った悠弐子さん、変形二人羽織のまま贅理部室へ連行の上、尋問開始です。
「さて……アウディ、あんたの名前と所属を応えてもらうぞな」
人間拘束具と化した悠弐子さんに代わって、B子ちゃんが問えば、
「アウディ」
とアウディは即答した。
まぁ本当の名前を発音されても、私たちにはカタカナ変換もできませんが。
「……ま、いいぞな」
便宜上それが好ましかろう、と合理的判断のB子ちゃん、いよいよ本丸へ斬り込む。
「アウディあんた、どこから来たぞな?」
「こことは違う、世界」
「それは中東の極悪テロリストが支配する地域、という意味?」
「中東? 見たことも聞いたことも行ったこともない」
(良かった……)
つまりアウディは日本死ね死ねテロリストの関係者ではないってことですね! 無関係!
朗報ですよ! これで疑いが晴れました!
思わずアウディと手に手を取って万歳三唱……
「万歳って何?」
あ、そりゃ分かんないですよね。これは日本の民俗的な歓喜の表現で……
「というか待って待って!」
問題はBANZAIじゃなく!
「そういえば! 日本語喋れたのアウディ????」
めっちゃナチュラルに会話してるから、すっかり失念してました!
まさか喋れるのを隠してたんですか? 「実は緑髪の日本人でした!」みたいなオチ?
「覚えた」
「覚えた…………?」
私たちが貸し与えたタブレットとフリーの日本語教習動画で?
すぐ飽きてましたよね?
「これ」
悠弐子さんの拘束サブミッションから右手を伸ばしたアウディ、タブレット画面をタップ。
「……アニメ?」
これは《 あの時 》 ――第一回査問会議の後、どん詰まりの袋小路へ陥った時―― 何故かアウディが反応を示した動画ですね?
「マグナロックオンライン・ジ・アニメーション……」
MMOとして一世を風靡したネトゲのアニメ化作品です。
超メジャータイトル相応の期待感で迎えられたのに、早くもオンエア直後には黒歴史化した、曰く付きの作品ですね……ファンの心をエグる、ヘナヘナ作画のせいで……
「――最高かよ!」
そんな作品をアウディ、目を輝かせ訴える。
「お、おぅ……」
今でこそジャパニメーションの審美眼もグローバライズされてきましたが、一昔前なら、バタ臭いアメリカンカートゥーン愛好者とは相容れませんでした。
嗜好の違いは理性で説明できるような生易しいものではありません。
「ここ、ここ!」
何度見ても大興奮! のアウディ、特にお気に入りは弓手が放つ必殺技のシーン。
バンクなので他のシーンより明らかに丁寧に描き込まれてて、そこだけは秀逸な出来です。
「お気に入りアニメを繰り返し繰り返し観てるうちに……日本語を習得してしまったと?」
「うむ」
「で、この必殺技を射ちたくて、弓まで購入してしまったと?」
「ついカッとなってポチってしまった。今は反省している」
と犯人は述べているものの、「我が人生に一片の悔いなし」とでも言わんばかりの笑顔です。
「ほ、本当なのアウディ…………?」
俄には信じられない……
私たちのいない間――「いない間」と言っても、たかが二泊三日ですよ?
それでここまで、文明開化しちゃえるものですか?
「しちゃえる」
言い切った。悠弐子さん真顔で言い切った。アウディの拘束を解いて、仁王立ちの主張。
「桜里子!」
「はい?」
「【孤独の毒】に抗える最高の解毒剤は――好奇心よ!」
「好奇心!」
「人間は興味を生き甲斐にできる生き物なのよ!」
「生き甲斐!」
「どんな苦境へ追い込まれても、好奇心が人を活かすの!」
納得するしかないじゃないですか、好奇心の塊、みたい人に言われたら。
陰謀論すら取り込んで好奇心の駆動力にしていく人に諭されてしまったら。
「――ここで一旦整理」
私、仕切り直し役を買って出る。
「とりあえずアウディは、中東の極悪テロリストとは何の関係もない」
「「異議なし!」」
「日本語は喋れなかったけど、アニメ観て学習した」
「「異議なし!」」
「ええと……あと何を訊いたらいんでしたっけ?」
「『ここではない世界』とは何処なのか?」
頭脳明晰な美少女(悠弐子さん)が挙げてくれた未解明点に、
ふるふる。
アウディ首を振る。どうやら彼女自身にも説明できない『違う世界』のようです。
「じゃあ、『そこ』から『ここ』へ、どうやって来たのか?」
「%%$$#$%%の最中、崖から海へ落ちて…………気づいたら、ここにいた」
カタカナには変換できない固有名詞に「?」が浮かぶ、私たち。
「%%$$#$%%とは競技会……この世界で喩えれば競馬……とも違う……」
う~ん……アウディは首を傾げ、
「相馬野馬追とか上杉祭りの川中島合戦的な……」
川中島合戦って私たちがバンドとして招聘された、地方のお祭りですよね?
メインイベントでは戦国の装束に扮した人たちが大規模な模擬戦を披露する……
「……演習か?」
「それ! 戦用の獣に乗って!」
フワフワした供述から悠弐子さんとB子ちゃん、アウディの言いたいことを導き出す。
「つまりアウディは異世界の兵隊で――」
「本人の意思とは関係なく『こちらの世界』へ召喚された?」
「それはいったい」
尋問机に座り直した悠弐子さん、指をV8エンジンに組んで熟考。
「誰が」
フレミングの法則を顎に当て、B子ちゃんも思索の海に潜る。
「なんのために?」
(きれい……)
美しきかな少女たち。思わず息を呑んでしまいます。
果敢にも知性へ挑みかかる智慧の女神たちは、斯くも気高く美しいものか。
精神を研ぎ澄ませ、智の格闘を繰り広げるヴィーナス&ヴィーナス。
でも。
こんなにも美しいのに。
「これは――――」
「――間違いなく」
「「【アヌスミラビリス】ね!!!!」」
どうしてそういう結論に達してしまうんですか?
「アウディの意思ではないのなら、【 誰か 】が招いたのよ! この世界へ誰かが!」
「そんなことができるのは【奴ら】しか居らんぞな!」
「「悪の秘密結社【アヌスミラビリス】!!!!」」
脳のどこにエラッタが潜んでいるのかわかりませんが、この美少女ども、必ずそこへアウトプットする。根拠不明の陰謀論が正しいと信じ込んで揺るがない。全く以て理解不能。常識論の範疇外。
「根拠はコレよ! 桜里子!」
悠弐子さん、部室の書棚から一冊を華麗に引き出し、
「悪の黙示録一一四章五一四項!」
「『邪な企みを抱きし者、異なる世界よりオーラカの高き戦士を召喚し、邪悪神軍の尖兵とす。その名を征戦士と称す』」
「おおらか?」
「預言書 『悪の黙示録』に拠れば『海と陸との間に揺蕩うアトランティス、その末裔が所持する驚異の力』と記されているぞな!」
熱弁するB子ちゃんのサジェストする本をめくってみれば、
(井荻書房刊『図録 これが世界の秘密結社だ!』)
一応、奥付を確かめてみたんですが、引用文献の頁とか見当たらないんですけど?
(う、胡散臭ぇぇ……)
これ学術的研究書じゃなくてオカルトエンタメの創作本ですよね?
「秘密結社【アヌスミラビリス】その企て喝破せり!」
こんなのを「根拠」にする時点で完全にどうかしてるんですが、
「となれば!」
「ゆにばぁさりぃ――――しゅつどうよ!」
はいはいそうですねそう来ると思いました。陰謀論脳が導く答えは、恒久不変。
もはや、止められない止まらない。こっから先は悠弐子さんとB子ちゃんの独壇場です。
「日本の平和を乱す者、このゆにばぁさりぃが許さない!」
「知らぬ存ぜぬは許しません!」
「斯くも非道を知り得たからには!」
「からには!」
「【アヌスミラビリス】による征戦士収奪作戦! 必ず頓挫させるマン!」
「マン! &ウゥーマン!」
「現時点より、この作戦を『 異世界へと繋がる井戸作戦 』と呼称する!」




