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序章 今そこにある異世界 - Another world is in the neighborhood. - 2

「うわぁ……」

 ヤバい。これはヤバい。

 給料日前の無計画OL的な顔面ブルーバック。

 まさか自分が経験するなんて思いもよらなかった。

 だって私は借金が大嫌い。カードローンも一生使うまいと心に決めた女子なので。

 己が負債を背負ってるとか、考えるだけでも動悸が早くなって倒れそうになる。

 得体の知れないマイナスを自分が背負っている、そんな感覚は耐えられない。

 そんなものを味わうくらいなら、借金してでもお金を返したい! ……くらいの所存です、私、山田桜里子としては。

 そんな私が部室宛の請求書とか査収してしまったら、そりゃ心臓が止まりかねませんよ。

 止まりはしませんが、明らかにBPMは200を越えてました。

 だって!

 だって一枚や二枚じゃないんですよ?

 束ですよ、束! ゴソッと束!

 まさに請求書のミルフィーユやぁ! とか食レポ名人が叫んでしまいそうなくらいの束です!

 これが日本銀行券だったら、いやそこまでは望むまい。せめて確定申告用の領収書の束とかであったなら、喜んで全部数えて還付請求しますよ。帳簿につけますよ。

 なのに全部これはマイナス……赤字……負債……払わなくてはいけない義務の元。

 ぎゃー!!!!

 と叫んで全部燃やしたい。燃やせるものなら燃やしてしまいたい!

「はっ!」

 盗られた!

 請求書を握りしめながら目の幅の涙流してたら、横から「束」を掠め取られた!

「び、B子ちゃん!」

 私の手から華麗に請求書を奪った、金髪の美少女。

 カラーリングの嘘金髪ではなく、自毛のブロンドガール。

 その髪質は一般的な日本人とは一線を画す、フワフワ繊維がナチュラルにカールして……陽の光にも透けそうなほどセンシティヴ。ずっと髪が揺れているのを見つめているだけでも飽きない。

 そんなB子ちゃんは……あ、本名はバースデイブラックチャイルドちゃん、略してB子ちゃん。

 いやちょっと略し方が雑すぎないか? と思わんでもないけど……『じゃあ桜里子、バースデイの愛称、知ってる?』と悠弐子さんに問われれば、「分かりません」と返すしかないのです。

 まぁ本人も気にしてないみたいだから、今じゃ普通に呼んじゃってますけど。

 その金髪美少女、私から奪った請求書を、

「素意や!」

 変な掛け声と共に宙へと放り投げちゃいました!

 花吹雪ならぬ請求書吹雪。寒そう。心冷え冷え極寒のアイスブリザード。

「なにすんですかB子ちゃん!」

 とか問い質すのも意味がない。だって彼女は意味不明が通常営業、常人の尺度に合わせようとしても馬鹿を見る。

「よっしゃ!」

 でもただ一人、彼女の思考を理解できる人がいる。

 古人曰く餅は餅屋。美少女の難解は美少女にしか分かり得ない。

 まるで日本代表のセッターとアタッカーみたいなタイミング。代表屈指のスーパーミッドフィルダーのノールックパスに阿吽の呼吸で反応できる点取りフォワードの勢いで「 彼女 」が視界に飛び込んできた!

 そう、もう一人の美少女・彩波悠弐子――この贅理部の創始者にして部長を拝命する、霞城中央高校屈指の美少女さんです。

 ミスコンなど開催以前に無投票当選が決まっている、その美貌はまさに『 雅 』、B子ちゃんが欧風のアンティークドールなら、彼女は日本人形。頭頂から真っ直ぐに垂れ落ちる黒髪には一本のホツレもなく、漆黒の房飾りみたいな深い光沢を放っている。

 この二人に共通するのは、制服が似合っていないこと。

 同じような年齢でも、何故か外国人には濃密なコスプレ感が漂っちゃうよね? セーラー服は。B子ちゃんはもう完全に見栄えが外人さんなので、やっぱりその違和感が漂う。いや、日本人なんですけど。本人はそう言ってますけど。日本語しか喋れないみたいですけど。

 翻って悠弐子さんは十二単でも着てた方が似合う。セーラー服のどうしようもない庶民性、それとマッチしないの。

 あ、話が逸れましたね、すいません。

 とにかくこの二人、普段は仲が悪いのに「ここぞ!」というところでは絶妙のコンビネーションを見せるのです。常人には聞こえない周波数でコミュニケーション取ってんですか? と疑ってしまいそうなほどの示し合わせ方で。

 ふしぎ。本当にふしぎな美少女ちゃんねる。

 今回もこんなご無体な行動に何か意味があるんだろうか?

 ええじゃないか! ええじゃないか! と舞い落ちてくる御札のような請求書を見上げてたら、

 カチッ!

 嫌なSEが聞こえた。

 CRチャイルドレジスタンス機能のついた堅めのスイッチを押す音。

 これはだめだ!

 ダメですよ悠弐子さん! それは室内では厳禁の技!

 慌てて止めようとしたんですが、もはや後の祭り!

 だって無理に止めに入ったら……


 ぶはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 ご覧の通りですよ。

 宙を舞った請求書が紅蓮の炎に包まれちゃってますよ……

 あまりの火力に、紙は一瞬で燃え尽き、灰となって床へ墜落していきました……

「わっはっはっはっは!」

「わっはっはっはっは!」

 その見事な散り際を前に、美少女たちは肩を組んで大笑い。

 ああ、そんなに大口開けて笑っても美しいってどういうことだ?

「悠弐子さん! B子ちゃん!」

 だからと言って見惚れているワケにはいかない。

「室内で火吹き芸は厳禁! って何度言えば!」

 もうね、そんなの許されませんから! 消防法でブタ箱行きですよ! 女囚JKですよ!

「火力調節。抜かりないから心配ご無用よ?」

「そういう問題じゃないですよ! てかそんな技を磨いたところで披露する場所もないですよ? 私たちのバンドはダンス系じゃないですか? テクノですよ? 火吹いてどうすんですか?」

 過激なヘヴィメタバンドでもないんですから!

「ああもう!」

 請求書が灰になって……確かに、燃やせるものなら燃やしてしまいたいとは言いましたが。

「大丈夫、桜里子」

「……何が大丈夫なんですか?」

 満面の笑みで私の肩を叩くB子ちゃんに尋ねる。

「請求書は何でも送られてくるから。債務者が支払わない限り」

「へーきへーき。燃やしてもへーきー」

「うきー!」

 殺す気かー!

 開封するたびに心臓が止まりそうになるのに!

 「請求書の見すぎによる心臓麻痺」って死亡診断書を書かせる気か? この美少女ども!

「この! この! この! この! この! この! このぉぉぉぉぉぉぉ!」

 思い切り限界まで口を広げて、その生意気な口を二度と開けなくしてやろうか?

「秘技!」

「Egganization!」

 ぽこん! ぽこん!

 もう一つ。美少女が普通じゃないと確信する証拠がコレ。

 何故か防衛本能が極限まで高まると――――卵化する。

 とは言っても卵に帰るわけではないの。

 敢えていうならハンプティ・ダンプティ。卵形状の卵人間になる、と言う方が正しいかも。

 どうして美少女はこんな特異技が使えるの?

 分からない。

 私は凡人オブ凡人なので、美少女の「 構 造 」なんて知る由もない。

 でも現実として実態がここにあるワケだから、受け止めざるを得ない。

 ――そして処理に困る、非常に困る。

 まさか怒りのままに殻をカチ割って目玉焼きを作るワケにもいかないでしょ?

 てか殻を割ったら黄身じゃなくて臓物が出てきたらどうすんの?

 もはや生きていくのもシンドイほどのトラウマを抱えるとか、そんなの嫌に決まってる。

「あのですね悠弐子さん、B子ちゃん」

 ならばもう話して諭すしかない。

 昂りまくった神経をどうにか収め、深呼吸して語り出す。

「私しんでしまいます」

 コクコク。

「このままでは私……しんでしまいます」

 敢えて幼稚園児に語りかけるような語りで、卵軍団へ問いかける。

「いいですかー、それでも?」

「だめー」

「やだー」

 ひよこみたいなくちばしの卵軍団(元美少女)が喚く。

 卵化しても理性は残っているみたい。

「なら、どうしたらいいのか? わかりますよね?」

 そうですよ。借金を返せばいい。額を地べたに擦りつけてでもお金を工面して、債権者の口座へ振り込めば全て終わります。

 私の心臓も安泰です。三杉君も再びサッカーが出来るようになります。

「分かった、桜里子」

 きゅぴーん!

 魔法少女の使い魔サイズの卵人間から、瞬時に元通り。どうなってんだ美少女の体って?

「借金を帳消しにしてしまえばいい。そういうことね?」

 B子ちゃんに続き、悠弐子さんも原型を取り戻す。瞬時に。どんな芸なんだ、これ?

「あたしたちに任せなさい!」

 右左両側から肩を叩かれて、ギュッとハグ。女の子らしい柔らかで優しい抱かれ心地。

 ああもう嘘みたい。こんな綺麗な子たちに抱かれるとか。

 単純化すれば、同級生とスキンシップを図る女子高生というだけの普遍的絵面…………なんだけど二人は、それはもう目も眩むほどの美少女さんたちでありまして。

 頬と頬が触れる距離で見つめ合えば、別な意味で心臓が締めつけられる。

 きめ細やかな肌と甘い吐息と、得も言われぬ香。

 こんな子たちと抱き合ってられるなんて、前世でどういう徳を積んだら得られる報いなのか?

 我ながら――理解不能の夢心地。

 ああ、役得役得。

 いくら身体を張ろうとも、迷惑千万な行為に振り回されようとも、それでも贅理部ここに私が居続けるのは、彼女たちの傍にいられるから。それだけ。

 友達とか同級生とか、そんな凡庸な括りでは表現できない、特別な彼女たち。

 それはもう夢みたいな構図…………夢?

 もしかしてこれは夢か?

 私は、長い長い夢を見ているだけなんじゃないの?

 だってすごく眠い……

 お願い、覚めないで。

 もう少しだけこの夢心地に浸りきっていたい……………………


序章は以上です。


それでは本編をお楽しみ下さい。 m(_ _)m

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