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それでも日本は狙われている - 5

 え、ええと?

 おかしいぞ、おかしい。実におかしい。

 あたし彩波悠弐子は――現代を生きながらにして、不可思議ラノベ設定を用いずとも感じることが出来る「異世界体験」を満喫していたはずなのに。この最果ての異国アイルランドで。

 誰もあたしを知るものはおらず、あたしも知らない。

 そんなファーウエストで疑似異世界体験を。


 なのに、どうしたことだ?

 風来坊のエトランゼのはずのあたし、いつの間にか“二人”の王子様から迫られている。

 おかしい……

 そんなつもりは全くなかったのに……?

 どうしてこうなった?

 金持ちだから抜け目がないのか、

 抜け目がないから金持ちなのか?

「…………」

 高さ百メートルを越える崖が何キロにも渡って続く世界有数の絶壁は、遠くメキシコ湾流を受け止める潔さが作り出したものだ。

 地球規模の海洋大循環をも正面からガップリ四つ、その度量が作りし大地……

 デカいデカいわ、器がデカい。だからこそこんな雄大な姿と成れたのだろう。

 あたしはこのアイルランドの大地のようになれるだろうか?

『俺が、その高みまで連れていってやる』

 あたしは試されている。

 欧州を牛耳る馬産貴族に手袋を投げつけられ、器を試されている。

 だったら甘んじて挑戦を受けるのがオンナの心意気……のはずなのに……

「お前らしくねぇな?」

 いかん。馬にも見透かされている。不覚――――彩波悠弐子一生の不覚。

 いや、こいつ(ガリレオ)は例外中の例外だけど。人と意思疎通が図れる馬は馬と呼べるのか?

 もはや馬とは別の生き物だと言い切ってしまっていいのでは?

 だって会話できるんだよ?

 今更ながら意味が分からない。その相手があたしに限るというのも根拠不明だ。

 分からないことだらけだよ、この大地アイルランドへ流されてきてから。

 もしかしてここ本当に異世界じゃない? あたしの世界とは似て非なるパラレルワールド。

 どこで入れ替わったの?

 サンチアゴ航空五一三便みたいに飛んでいる最中に?

 あるいはスーツケースごと牧場裏の崖から転げ落ちた時に?

 若しくはファイナル・カウントダウンやジパングのように海上で転移が既に発生した?

 てことはあたしだけじゃなくて、桜里子たちまで巻き込まれてる可能性があるの?

(桜里子大丈夫?)

 もしここ以上におかしなパラレルワールドと飛ばされてしまっていたのなら、あまりの心細さで泣きじゃくっているかもしれない。

 あの子はあたしやB子ほど強くないんだから、あたしが守ってあげなきゃいけないのに。

(桜里子……)

 胸が騒ぐ、どうしようもなく焦がれる。

 今すぐに飛んでいけたらギュって抱きしめてあげられるのに。

「他の男のことでも考えているのか?」

 なんだ、この馬。

 観察眼がおかしい、常識的に考えて。全く以て馬らしくない精神構造してる

「そんなん忘れちまえ」

 断崖絶壁に立つガリレオ、背に乗せたあたしへ気障ったらしい台詞を。

「…………」

 いやまぁ確かに忘れてたよ。こいつの乗り心地は極上で、今まで乗ったどんな馬よりも楽しい。永遠に乗り続けてたくなるほど気持ちのいい走りをしてくれる。こんなにも贅沢な散歩は、この世界中どこを探したってありやしない。

「俺様が忘れさせてやるからよ」

 だけど馬に彼氏ヅラさせるほど、あたし狂っていない。

 いくら【疑似異世界】だとしても、種族を超越したつがいは無理な話よ。

 仮に結婚できたとしても馬との寿命差を考えれば、あたしは残り人生の大半を未亡人として過ごさなくてはならなくなる。エルフとヒューマンの結婚じゃないんだから。

「にしても……」

 まさか人生初めての求婚が馬と馬産王子から、とは思いもしなかった。

「なんだ、この三角関係……」

 やっぱりここはパラレルワールドかもしれない。次元の世界を超えた異世界かもしれない。

 あり得ないあり得ないこんな恋愛構図は有り得ない。

「Love triangle? 他に誰かいるの? 心に決めた相手がいるのか?」

「うお!」

 突然現れるあなたはジェントル・チャップマン・ジュニア!

 音もなく忍び寄ってくるとかあんた忍者か? ゲルマン忍者とかそういうのか?

 馬産王子らしく、乗馬を駆ってあたしを追ってきてた。

「そいつは俺よりも良い男か? それとも金持ちか?」

 美醜の感覚は分からないけど、資産価値は結構なもんかもよ?

 天下のクールモアで繋養されてる種牡馬だし。一回数万ポンドの種付け料が発生する奴だし。

 いや。

 人と馬を同列に並べていいのか?

 だめだ認識が歪んでくる。やっぱり――ここは異世界に違いない。

 人の感覚を歪める世界など異世界に決まってる。

 戻そう。狂った認識を修正していかないと。

 あたしは彩波悠弐子。日本人で女子高生。日本を侵す悪の魔手から国民を守る正義の女子高生。

 だから【 恋 】を【 否定 】する。

 <<<< ロマンティック・ラブ・イデオロギーを殺せ! >>>>

 恋などという悪魔的な外来思想は、飼葉に混ぜて馬に喰われてしまえ!

 そうそう、そうだった。あたしはアンチロマンティック・ラブイデオロギーの旗手。【心に決めた相手】とかいるわけないじゃん?

 もしビビッときたら婚姻届。ようこそ家族、遊ぼうよパラダイス。

 彩波悠弐子に恋など不要。

 そうだった。すっかり異世界の毒にアテられて自分を見失っていた。いかんぞいかん。

(――恋愛絶滅、恋 ・ 即 ・ 斬!)

 しっかりしろ悠弐子!

 正真正銘の彩波悠弐子ならば『 答 』は一つしかない。

 accept or not.

 この男のファミリーとして世界を牛耳るか、否か。

 今よ悠弐子、今が女の見せ所。巨大なるメキシコ湾流を受け止めて、大地の度量を示すのか、そうでないか。

 今更迷うでもない。あたしは前にしか進めない女よ。

「せかいのはんぶんをやろう」と言われたら「はい」と応える!

 全てを丸呑みする巨鯨なら、はらわたの内から食い破るミクロマンよ!

「そんな相手なんかいない、Nobody in my mind!」

「それならば何も支障ないだろう、イド! 結婚しよう!」

「やらいでか! 婚姻届持って来い…………うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 吊り橋効果満点の絶壁に背を向けて、ガリレオは地を蹴る!

 鞍上あたしの意思を無視し、草原へエスケープ!

 一旦走り出せば、天下一品。数万頭のサラブレッドの頂点に君臨した奴なので。ジュニアが騎乗する一介の乗馬風情には太刀打ち不能の逃げ足で。

 いや、知らんけど。こいつが現役時代の脚質なんて知らんけど。

 あたしは手綱を必死に握りしめるだけで精一杯!

 振り落とされないよう掴まっていたら、アッという間に御曹司を置き去りにしていた。

 心肺にツインターボでも仕込まれているんじゃないかってな走りで。


注)ガリレオ(Galileo)という馬は実在しますが、この話の馬とは何の関係もございません。悪しからずご了承下さい。m(_ _)m。


The persons and events in this motion picture are fictitious. Any similarity to actual persons or events is unintentional.

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