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7 犯行現場(崔本雅也)

 程なく現場に到着だ。警察手帳を見せ、現場の警官たちに労いの言葉をかけ、近所の交番の巡邏たちが民家の周囲に丁寧に張り巡らしたロープをくぐり、家屋内に入る。いわゆる木造モルタル二階建ての筑三十年から四十年程の建造物だ。

「おう、来たか」

 一階和室の居間には東野鑑識課員……というか東野博士ドクターがいる。その奥には東野博士とは別の課だが同じ所員の吉兼次郎よしかね・じろう鑑識課員の姿も見える。

「今回も早いですね。確かに此処も、お勤め先の近くですが」

「偶然だよ。今度は所長以外の全員が出払ってて行って来いと廻された。で、そのとき丁度所に帰ってきた吉兼御大を連れて来た。しかしこの分じゃ、今年も論文無理だね。おや……」

 どうやら早くも董子さんを認識したようだ。

「なんだ、来たのはあんたか。邪魔しないでよ」

「そっちが邪魔をしない限りはね」

「ムッ、桔梗子もあんたも綺麗なくせに口が悪いからいけ好かない」

「じゃ、あんたは綺麗じゃないのに口が悪いからいけ好かない」

「まあまあまあまあ……」

 宥めに入るが、口調はともかく二人の仲が悪いわけではない。

「殺害方法は何ですか」

 自分が聞くと、

「その質問に対する答えは拳だな。すなわち撲殺。まあ、脚や膝も使ったかもしれんが……」

 東野博士が即答する。部屋を見まわすと、この前のときとは違い、血の痕跡が見られない。だから確かに違和感がある。すると、

「血の臭いがしないわね、ここ……。珍しいわ」

 董子さんも同じことを考えていたようだ。

「なんだか菖蒲子に桔梗子が身に付けている格闘技を無理やりやらせたような感じ。あの娘(菖蒲子)は月のモノがあるくせに血が苦手なヒトだから……」

「とにかく死体を確認させてください」

 自分が言う。所轄の他の刑事はまだ一人も到着していない。だが、いずれガヤガヤと訪れることになるだろう。そんな騒がしい雰囲気の中で、あるいは誰かの先入観に惑わされながらの死体検分は遠慮したい。

「そーお、じゃ、こっち……」

 東野博士が案内役を引き受けてくれる。他の鑑識課員たちは黙々と仕事を続けている。東野博士が被害者に被せられた青いシートを捲り上げる。その下から出てきたのは老人の死体。顔が判別し難いほど変形している以外、外傷は見られない。身長は百六十センチに満たないくらいで、且つ細い。それで、なるほど撲殺もありえたか、と納得する。

「身元はわかりますか」

「運良く、わかるよ。近くの交番の警察官が知り合いだったからね。白川太一という名前らしい。この家の住人だよ。一人暮らしの……。年齢は七十六歳。元々の持病はないようだが、最近は風邪をき易くなった、とボヤいていたようだ」

「盗まれたものとかはありますか」

「それは、わたしらにはわからないな。でも金持ちだったらしいよ。この辺り一帯のアパートの持ち主だというから……」

「人間、何処で恨みを買うかわからないわよね」

 唐突に董子さんが言う。

「でもさ、撲殺っていっても――確かに老人だけど――特に患ってもいない人間を数発のパンチで簡単に殺せるものかしら……」

 すると、

「あっ、その点については考えてなかった」

 董子さんの発言を聴き、それまで押し黙っていた東野博士が大声を出す。

「そうか。じゃ、同じなんだ。この間、崔本くんと桔梗子ボディーの持ち主その1と検分した死体と……」

「よくわかんないんだけど」

 と董子さん。

「そうか、そうか。じゃ、その点も考慮して、もう一回調べ直してみるわ」

 大声で叫びながら一人合点する東野博士。

「前の事件では、おそらく専門化が犯行に及んだのだろう、と推理されたんです。手口の丁寧さというか、職人的手際の良さから……」

 自分が董子さんに説明する。

「そうなの……」

「いえ、その考えに基づいた捜査の結果は違いました」

「撲殺の専門家なんていないわよ」

「それを言ったら屠畜風殺人の専門家だっていないわよ」

 と東野博士。

「……ってことは、ボクサー。格闘家……。力道山……」

「まったく、いつの時代の人間なんだか。で、それを調べるのが、あんたたちの仕事。詳しい情報は後で送るから、さあ、出ばってきんしゃい」

 東野博士がそう言い、自分たち二人を家屋の外に送り出す。


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