3 仮面の告白(犯人)
あの女は死んだ、いや、わたしに殺された。死ぬ前には泣き叫んでいた。文字通り引き裂かれ、内臓を抉り出された女の叫声が今でも耳の奥に聞こえるようだ。陵辱され、腫れ上がった陰部は精液まみれだ。手際良く切り裂いた腹部から丸ごと抜いた内臓とともに全摘し、臭気が周囲に漏れない特性の焼却炉まで運び、燃やした。肉は水分を多く含むので処理するのに、とにかく手間がかかった。その他の部分の肉は小さく切り分けてから専用器でミンチにして捨てた。あの女は痩せた体型だが、切り分けた内臓にはどうしても脂身がついている。その部分を腸管などの管部と分けるのに結構技術が必要だった。脂部分は化学薬品で構造を脆くしてから分解廃棄した。技術を持っていて助かった。だから素直に先輩たちに感謝する。ありがとう。何も知らない新米のわたしに懇切丁寧に技術習得の指導をしてくれて……。内臓の切り分けも、その後の処理も努めて冷静に行った。だから予想以上の困難はなかった。もちろん、すべてが大変な作業ではあったが……。最も処理に困ったのが骨の類だった。まず歯をヤットコで全本抜かねばならなかった。虫歯が殆んどない、とても綺麗な歯だった。あの女の歯まで、わたしは愛していた。だが、あの女は別の誰かの許に走った。それだけでも処理されて当然だ。更に、わたしはあの女を処理することで、その後起こったであろう愛憎被害から世の多くの男たちを救ったのだ。感謝は望まないが、事実くらいは認めてもらいたい。さて、そうやって抜いた歯は、その後薬品で表面処理をし、歯であった痕跡を消し、それから別途手間暇をかけ、標本のようにそれぞれ並べた身体中の骨を断片/砕片/粉にまで分解した。そこまですれば骨は主成分が炭酸カルシウムのありふれた粉末に過ぎなくなる。その白い粉と一緒に歯の処理物も海に撒いた。アクアライン海ほたるから風に乗せて……。それらの骨たちは、おそらく今頃、東京湾の海水に溶け込んだ環境ホルモンなどと一緒に、その地を回遊する魚たちの栄養もしくは奇形誘発要素となっているだろう。
最初に計画したのは、そういう処理法だった。複数の意味でそうなるはずだった。だが、その方法では死体は回収されない。事件は単なる完全犯罪で終わってしまう。せいぜい、あの女の関係者から失踪届けが出されるのが関の山だ。だから何事もはじまらない。ゆえに物語もはじまらない。それで一人目の犠牲者を、あんな形で捜査担当者たちに提供した、そのように計画を変えた。殺さなければならない人間は、あと五人いる。いずれも、わたしの人格を蔑んだ不埒な輩だ。三番目の処理までは、ほぼ計画通りに進んでいる。むろん、それらの処理が楽だったというわけではない。けれども、まさか乖離性同一性障害の女刑事が事件にかかわって来ようとは……。あの時点では、さすがのわたしにも予想しようがない。