11 動機(犯人)
わたしは人間なので全能ではないが、とにかく器用で大抵のことは練習すればすぐにできるようになる。一流とは言わないが、少なくとも二流の上くらいには忽ちのうちに上達する。けれども、わたしは自分がそういったタイプの人間であることに中々気づくことができない。そのことを知らずに長く人生を過ごす。これまでは何をやっても上手くいかない六人分の人生を無駄に送ってきたような気が強くする。それがある日、神が降り――というのは無論比喩だが――人生の目指す方向が見えるようになる。同時に過去が曖昧になる。後悔は人生における最大の無駄である、とそのときまでに学んでいたわたしは幾重にも重なった自分の過去に最早未練がない。一切合切消えてしまおうとまるで気にならない。ただ過去の自分と正しく決別するため、借りは返しておこうと考えた。そのときまでに、たまたま手にしていた特殊技術が六つあったからだ。屠畜の技術、拳闘の技術、モデルガン改造技術、弓道の技術、運転の技術、更に小型爆弾製造の技術。それらの特殊技術を用い、わたしは借りを返そうと決める。特にわたしに心象が悪かった六人に的を絞り……。あの女はわたしが虫けらであるかのようにわたしを裏切り、わたしの人格を貶めた。あの老人は碁仲間でもあったわたしの無心の頼みを無碍に断り、蔑むような目つきでわたしを見た。あの男はゲームに負けた腹いせに、あろうことかわたしの顎を殴り歯を折った。あの警官は何もしていないわたしを訝かった挙句、職務質問でわたしの貴重な時間を奪い、おそらく合格できるはずだった就職試験に遅刻させた。あの精神科医はわたしの心の苦しみをまるで理解せず、徒に薬を処方し、わたしの健全だった精神に回復不能のダメージを与えた。あの子供は突然の悲しみに襲われ、道端で慟哭するわたしを他の子供たちがいる間は慰めようとしたが、仲間が去った後、態度を豹変させ、『おまえはいらない人間だから死ね!』と冷酷な声で言い放った。いずれもみな外面の良い偽善者たちだ。だから彼らを処理し、わたし以外の世の人間たちが被害に遭わぬようにしようと決めたのだ。わたしの思いは崇高ではないが、多少は世間の役に立つ。だから、それを邪魔立てするものがあれば容赦なく排除することも同時に決めた。おそらくまだ気づいてはいないだろうが、やがて彼らが核心に迫ってきたら、躊躇なくわたしは彼ら自身を排除するだろう。




