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1日目④

連続投稿していますのでご注意ください

 深夜。

 眠ったのが早かったからか、叶湖は目覚めてしまって溜息をついた。

 水が飲みたくなって部屋を出た、ところで、再び毒薬の痛みに苦しむ男の声が聞こえる。

「っ、ぐぅっ」

「……おはようございます」

「がっ……このっ……」

 恨めしそうな目で見上げられるが、男の口から確かな言葉は出てこない。

 叶湖はゆっくりと水を飲んでから、再び2本の注射を男の腕に刺し入れた。




「さて、と。アナタが暴れるから、余計な手間が増えました。まだ、反撃手段が残っているなら、今の内に教えておいてください。拘束するので」

 痛みが消えて、呻きを上げなくなった男の側にしゃがみこんで、叶湖が笑いかける。

「……どうして、妹のことを知っていた……」

「風の噂で聞きました」

「ふざけっ!」

 起きあがりかけて傷を痛めた男の頬に、叶湖がゆっくりと手を這わせる。




「さて、気付いていると思いますが、栄養剤の点滴も、尿道へ差し込んだカテーテルも完璧です。拘束も、暴れるようならもういくつか追加します。私、お話好きなので、口は自由にしていますが、舌を噛み切ったくらいでは実際には死ねないことくらい、プロの方なら知っていますよね。……死ねませんね?」

 叶湖のキレイな笑顔に、男がさっと顔を青ざめさせた。

「どうして、わざわざ運んで来たんだ、……手を痛めてまで」

「ただの偶然です。アナタがぱたりと倒れこんだのが、偶然私の目にとまった。その場所が、私の家のまぁ、近くで、ギリギリ自力で運んでこれる距離だった。ついでに、……顔が好みでした」

「は?」

 叶湖の言葉に男が目を見開く。




「倒れたアナタを見て、顔が好みだったので、いじめたいな、と思って拾って帰ることにしました。アナタが意識を失っている間に、少し突いてみたのですが、その時にあがった声も好みだったので、これを逃がす手はないな、と拘束を頑張ろうと思った次第です」

「そんなふざけた理由で……」

「元々いじめる、と宣言していたじゃないですか。何を今さら。それに、もう何言っても無駄ですよ。許してはあげましたが、1度私に痛いことをしたので、もう放してあげません。ずっとこの状態です。……私が満足するまで。簡単には死なせません。栄養はあげますし、傷を負ったら治してあげます。もしかしたら、死ぬまでこのままかもしれませんね」

 男の瞳が闇に染まる。絶望しているような、何もその瞳に映っていないような。焦点が彷徨って、ぼぅっと曇った瞳が、僅かの後に叶湖を見返す。




「殺せ……」

「お断りです」

「ずっと、このまま……?」

「えぇ、ずっとこのまま。いつ来るか分からない痛みを待ちながら、夢と現を行ったり来たりするだけです。もちろん、妹さんには会えません」

「妹……」

 男の問いかけに叶湖はその人差し指を唇へ当てて、笑って見せた。

「なぜ知ってるかは言ったでしょう? 風の噂ですよ。……黒依」

 叶湖の言葉に、黒依と呼ばれた男が目を見開く。




「調べた、のか!」

「妹さんのことを知っていたのだから分かるでしょうに」

「なら、分かるだろう。俺のいた組織が何なのか! 気取られれば……殺されるぞ」

 黒依の言葉に叶湖がにこり、と笑った。




「私の将来の夢は世界征服なんです。いい響きだとは思いませんか? 世界の全てを手中に収めるなんて。楽しそうですよね。私、そのために下積みしているんです。実地で征服する前に、情報世界を征服してみようかな、なんて」

 ぽ、と頬を上気させる叶湖だが、叶湖と、その前にガチガチに拘束されて横たわる男の図を見れば、そこに可愛さは微塵も存在しない。

「私以外、アナタをイジメさせません。見もしません。私が許可するまで、アナタが会える人間は、私だけです。今現在のアナタの立場は、私の拾得物です。拾得物のお礼は1割が相場ですけど、お気持ち次第でいくらでも上乗せして構いません。1割分、私がアナタで楽しんだ後は、私の記憶を闇に葬る約束して、アナタの人権をアナタにお返しします。その後になれば、逃げようが死のうが、何してくれても構いません。けれど、それまでは、アナタの人権をはじめ、生殺与奪の権利を含む、全ての権限は私のものです。……ふふ。短い間、かもしれませんが、よろしくお願いしますね」

 自分勝手を並べ立てた叶湖の手が、すっと黒依の頬から離れていく。




「今日は側にいてあげますから、死にたくなったり、暴れたくなったりしたら呼んでください。止めるので」

 それだけ言うと、叶湖は1度私室に戻って毛布を取ってくると、ソファの上で丸まった。

「とりあえず、明日のことは、明日考えましょう。おやすみなさい」





叶湖の私室の闇の中、ぼぅっと机の上に置かれたディスプレイが光っていた。






《無灯黒依について》

 所属は国から直々に依頼を受けているような暗殺組織。その幹部。

 腕は組織でトップと認められるほど。

 ただし、腕がいいために、痛みや毒への耐性が他の暗殺者より薄く、敵に捕まり拷問されたような経験もない。

 黒依は孤児であり、物心ついた時から、肉親は妹1人。

 それも、間もなく妹と共に攫われ、妹の安全な生活に対する保障と引き換えに、黒依は組織の闇の中へと潜っていく。

 彼の妹は黒依が組織に入って間もなく殺されており、黒依が組織に求めた妹との面会の際には、組織が替え玉を用意していた。

 そして、漸くその真実に辿りついた黒依は、組織で同僚数人を殺し、また、自分も狙撃されながら逃れ、その先で叶湖に出会うことになる。


やっと1日目が終わりました。

これからどんどん日付が進みます。

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