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16日目⑤


 家に帰った叶湖は、黒依の首輪から伸びた鎖を、再び廊下の手すりへ留める。

「夕食の準備しますから、シャワーを済ませてきてください。手は自由ですから、1人で大丈夫でしょう?」

「はい。……あ、服」

「あぁ。鎖、繋いでしまったから脱げませんね」

 叶湖に着替えを渡された黒依の呟きを聞きとって、叶湖が忘れていた、と懐から鍵を取り出す。





 かちゃかちゃ、と黒依の首元で金属のぶつかる音がしていたかと思うと、すっ、と首の圧迫感が消えた。

「お湯をはってあげますよ。浴槽にも浸かってらっしゃい。出たら、自分でつけておくんですよ、これ」

 黒依から外された首輪がぶらん、と叶湖の手で揺れる。

「いい、んですか。僕を、自由にして」

「逃げる心配はそんなにしていませんよ。アナタをキッチンに近づけさせたくないだけです」

 今はそのつもりがなかったとしても、キッチンで刃物を見てスイッチが入り、暴走されたりしたら困るのだ。





 黒依は叶湖の言葉に首をかしげながらも、風呂場へ消えていった。

 風呂の底に沈まれてはたまらないので、何度か風呂場の様子を外から探りながら、叶湖が簡単に料理を作っていく。

 簡単な料理を作っているのは、手間を惜しんでいるのではなく、まだ黒依がそれほど食事をとれないのに合わせているためだ。





 そうこうしているうちに、ドライヤーの音が脱衣場から聞こえ、しばらくすると、叶湖の言いつけどおりに首輪を嵌めた黒依がリビングへ戻ってきた。

「お利口な犬ですね。自分で自分の首に枷を嵌めるなんて。気に入りました? それ」

「これをつけている限り、アナタのモノでいられますか?」

「……さぁ、どうでしょうね」

 黒依のまっすぐな視線に耐えられず、叶湖は薄く笑うと、キッチンへと戻り、黒依の分の食事を用意して戻ってきた。





 メニューは全粥に、魚の煮物、ホウレンソウのおひたしに、野菜スープである。

「ありがとうございます」

 黒依が食べ始めたのを見ると、そんな黒依の様子が見えるように、ダイニングの椅子を動かし、叶湖も同じ献立をテーブルに運んだ。





 2人して食事を終え、洗いものを済ませると、叶湖は何かを用意して、黒依の傍にやってくる。出歩いた疲れと、湯につかったのもあって、ぼぅっとしていた黒依がその気配に視線を上げた。

「傷、手当しましょう」

 手首や足首のことか、と黒依が袖を捲くろうとするのを止めて、叶湖がまずしたのは、服の裾を捲り上げることだった。





 そこには、縫いつけられたままの銃創がある。

「抜糸、すっかり忘れてました」

言いながら、持ってきていた先の細い鋏で、ぷつん、ぷつん、と糸を切っていく。

「これ、叶湖さんがされたんですか」

「他にいます?」

「いえ……」

 全ての糸を抜き終わると服の裾を戻す。





「腕、出して下さい。あと、首も、ですね」

 叶湖はそういうと、何の気負いもなく首輪をはずし、手首と合わせて軟膏を塗っていく。

「はい、これ」

「はい……」

 それが終わると、黒依に首輪を渡し、黒依が自分でそれを装着するのを面白く見ながら、足首も同じように処置を行う。





 それが終わると、持ってきていた注射を1本、黒依の腕に打った。

「これ……」

「これが何かは秘密です。そのうち分かりますよ」

 得体のしれない薬か、なにか。そう、想像したかもしれないが、黒依は特に何かを言うことはなく、そうですか、と頷いた。





「はい、終わり。私はお風呂にいってきますが、先に寝ていなさい。眠そうです」

「っ、待ってます」

「待ってたって何もできないでしょう。いいから、寝なさい。落としますよ」

「……はい。おやすみなさい」

 叶湖の言葉に諦めたように黒依が返事をして、その場で丸くなった。

 それを見て、満足そうに、叶湖は自分も風呂へと消えた。



16日目がやっと終わりました。

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