12日目
途中、手元の原稿からバッサリカットが入っている箇所があります
また更に次の日。
「さて、と。では、試してみますか」
昼前、黒依に薬を与えた後で、叶湖はそう呟くと、薬棚横のラック、すなわち、SMグッズが詰め込まれた中から、輪が2つ繋がって8の字を描いたような手枷と、長い鎖を取り出した。その鎖を、手枷の真ん中に繋げながら、黒依の元に戻る。
そして、新しい手枷を黒依に嵌めながら、残った元の手枷や、足枷、首輪を順に外していった。
「んっ、ひぁっ!」
ついでに、尿道から管を引きぬくと、鎖の端を握って立ち上がった。
「立てますか?」
「っ……は、い」
黒依がよろり、と立ち上がる。ざっ、と血が下がったのだろう。黒依の身体が傾ぎそうになるのを支えながら、ようやく立てた彼を連れてリビング奥のドアの前まで来ると、その場に黒依を座らせる。
叶湖は鎖の端を持ったまま部屋を出て、廊下にある手すりへ鎖を通し、外れないよう、南京錠で止めた。
「これでトイレとお風呂は行けますね。ソファは……ぎりぎり届かなくもなさそうですが、腕が攣っても可哀そうなので、このあたりに毛布を敷き直しておきましょう。どちらでも、好きな方で休んでいいですよ」
言いながら私室へ入った叶湖が、新しい毛布と薄い掛け布団を持ってきて、黒依の新しい寝床を作る。
元の場所にあった毛布とタオルケットは洗濯機行きである。
「点滴は、マシな食事がとれるようになるまで維持します。寝てばかりで筋肉が衰えているでしょうから、だんだんと動けるようになってください。トイレは手枷を嵌めたままでもスラックスに手が届きますよね? 万が一、足下で絡まったりして履けなくなったら呼んでください。シャワーは1日1度、私の手が空いている時に付き添います。とりあえず、食事の準備をしますね」
敷かれたばかりの毛布の上で、驚いたように座り込む黒依を見て微笑むと、叶湖はキッチンへと消えて行った。
「まずは重湯にしました。氷砂糖で慣らしていますけど、少しだけにしましょう」
叶湖はそう言いながら、匙で掬った重湯を黒依の口元へ差し出す。
ぱくり、と黒依が食べたのを見て、満足そうに笑う。
「餌付してるみたいで楽しいですね」
それから5往復ほど、同じことを繰り返して碗を空にすると、叶湖は空いた碗と匙を片付けにキッチンへと戻って行った。
その日1日、叶湖はリビングで黒依を監視しながら過ごしていた。
忘れていたように、真っ赤に擦り切れた黒依の拘束痕を手当てした他は、リビングのローテーブルにノートパソコンを持ってきて、適当に、仕事をしたり、趣味の監視カメラ映像の徘徊をしたりする。
黒依が何度かトイレへ消えた際には、あまりに時間が掛かるようなら様子を見るつもりで、時間を測っていたが、その心配も杞憂に終わり、黒依は酷く大人しく、リビングの壁を背に座り込んでいるだけであった。
昼、同じように黒依に食事をとらせ、夕方、黒依を風呂へ入れると、それに続いて叶湖も風呂に入ることにする。
「私が上がって、まだ髪が濡れているようでしたら、ドライヤーしますので」
その言葉を最後に、ばたん、と廊下と更衣場を仕切る側の扉が閉められた。
叶湖も簡単にシャワーだけで入浴を済ませ、部屋着へ着替えると、自分の髪を乾かした後で、黒依の様子を伺った。
数十分もの間、黒依から目を離したのは、身体を起きあがれるようにしてやってから初めてのことだったが、黒依は大人しく床に敷かれた毛布の上に座り込んでいる。
その髪はまだ少しばかり湿っているようだったので、ドライヤーを持って出て黒依の髪を乾かしていく。
「うん、手触りがよくなって何よりです。ペットは毛並みがよくなくては」
満足そうに頷いた叶湖を黒依が振り仰ぐ。
「ペット、ですか?」
「あれ、言ってませんでしたっけ。拾得物、だと何のことか分からないじゃないですか。奴隷や手下というと私の神経が疑われるので却下ですし、従僕とか従者では、いつの時代だってことになりますし。ヒモやツバメなんかは、私がアナタに入れ込んでいるようなのでこれも却下。あと……ってなると、ペットかな、と思うんですけど、いかがです?」
「叶湖さんが、お望みなら、ペットになります」
「では、決定。ペットの名前、何がいいか考えておいてくださいね」
叶湖は口の端だけで少し笑うと、ドライヤーを片付け、夕食の準備に向かった。
「名前、決めました?」
夜、黒依に食事をとらせた後で、部屋から小さな地球儀型の何かを持ってきた叶湖が、座り込む黒依の前にしゃがみこんだ。
「叶湖さんの、好きな名前がいいです」
「んー、特に好きな名前があるわけでもないですけど。……じゃぁ、ポチにしましょうか。1番に思い付いたので」
それだけ言って立ち上がると、少し離れた床の上に持っていた地球儀型の物体を置いて黒依を振り返った。
「アナタの動きに反応するセンサーカメラを設置します。アナタが大きな動作をすると、私が目覚めなければならなくなるので、私の気分を害したくなければ、大人しくしていてくださいね」
黒依が小さく頷いたのを満足そうに眺めて、叶湖は私室へと引っ込んだ。
夜、結局黒依に大きな動きはなく、叶湖は1度も目覚めることなく朝を迎えることができた。
お風呂のシーン、カット済みです。
余裕があるので、裏で掲載します。
女性向けR18はムーンライトへの掲載なんですね。初めて知りました。
(タイトルは同じです)




