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青のない世界  作者: Suck
The Potato Desert
9/31

金泣に秘種を包んで

中央都市「ダブリン」

15mある石城で囲われた円形都市で、主に東北側の「ユミル帝国」と東側の「小ブリテン王国」との中継貿易で利益をあげている。


商隊はダブリンに輸入物を届け、ダブリンからジャガイモを運んでいく。


城壁内は商人たちで賑わい、物々交換が盛んに行われていた。


クレア達はキリコから降りて城壁の入り口で入場許可を貰い、都内に足を踏み入れる。


「うわぁ〜」


イヴが驚くのも無理はない。外部の砂漠地帯と打って変わって、城壁内は石畳と綺麗な建物群の街なのだ。


広場には噴水があり、子供たちがボール遊びをしている。


道で立ちながら商談する男達がいれば、魚を売るおばさんの活気に溢れた声が響いていた。


「元気な街だねっ!」


「あぁ...」


イヴの言葉に、クレアは考え事をしているような、少し暗いトーンで返事をした。何か事情でもあるのだろうかとイヴは勘繰る。


「この辺りで食料を補充しよう」


「それは明日だな。今日は一先ず宿で夕食をとる。金工家も明日にしよう」


「了解した」


クレア達は街のはずれにある安い宿屋に向かった。その途中で、道の端をリアカーにジャガイモを積んで歩く男とすれ違った。


男は破れた布を纏い、煤汚れた顔をして異常に顔が痩けている。


イヴは自分と似たような境遇のその男を救いたかったが、自分の立場を考えそれを自粛した。


(どこにでも格差はあるんだ...)


明るい気分が少し黒ずんで沈む。

クレアが背後にいるイヴの頭を撫で、イヴもクレアの体に擦りつく。





活気のあった街の中央を離れ、城壁側の湿っぽい地帯に店舗を構えている宿に到着。触ると外れてしまいそうな扉を開けると、カウンターに老人とその妻らしき人物が座っていた。



「ようこそおいでなさった...この辺りで安い宿はウチしかありませんからね...さぁさ、お食事を準備しますのでそこの椅子に座っておくんなせぇ」


顔の皺と区別がつかないほど目の細い彼は、クレア達を暖炉の前の長椅子に座らせた。


暖炉から漏れる明かりが小さく揺れ、穏やかな空気を循環させている。


「急に押しかけてすいません。ところで、この辺りの金工家の居場所をご存知ありませんか...?」


「ふむ。金工家ですか...」


主人が顎髭を摩っていると、厨房のほうから妻の「レブレさんじゃないの?」という声が聞こえてきた。


「レブレ...?」


「おぉ、そういやレブレさんは装飾品を作る人じゃったのぉ。お姉さん、この城壁外にひとつだけ緑のある小さな丘があるんです。そこに一軒だけ小さな家がある。それがレブレさんの家です」


この砂漠地帯にぽつりとできた小さな丘。かつてはそこら一帯に緑が溢れていたそうだが、今では国の一片だけに縮まっている。


「小さな丘...ありがとうございます...」


「いえいえ。この街には商人しか来ないと思っていましたが...まさかレブレさんに用がある人がいるとは」


「レブレさんの話にもよりますが、自分達はこの後グリーンスモークに行く予定です」


「グリーンスモーク...!?」


主人の顔が急変して目をかっと開く。まずいことを言ってしまったのかとクレアは身構えた。


イヴは眠そうにブライアンによりかかりながら半目でやりとりを眺めている。


「グリーンスモークに行くのなら、ぜひ頼みごとがある...!!」


興奮した様子で、彼は奥の部屋から小さな黄色い鳥を持ってやってきた。


「見ての通り、この国は商人が力を持ち、農民は奴隷のように働かされている。農民が街に入ることはできず、外の砂漠地帯でひっそりと暮らすしかない...何とかジャガイモ以外の作物も取れたら...」


「それと、グリーンスモークに何か関係が?」


グリーンスモーク。ジャガイモランドの西北部にある国で、ジャガイモランドと対照的に緑で溢れている。人口は極端に少ないが、文化人の国として各国から文化人が集まり、絵や詩を書いて自国に持ち帰っている。



「グリーンスモークの奥地には魔女がいると聞いた...ワシらじゃあんな遠くには行けない。もし、魔女にあったなら秘種をいただけるようお願いしてくれないか...?」


「秘種?」


クレアは首を傾げて聞き返した。初めて聞く名前だ。


「一度土に植えると、国ひとつを緑に包むまで成長を続ける種。あれさえあれば、きっとこの国もよくなる。農民の暮らしも良くなるはずなんじゃ...」


聞くところによると、その種は魔女しか作ることができず、市場にも出回っていないらしい。


秘種を作らせようと、多くの者が魔女狩りをした。その結果魔女の絶対数は減り、彼女らは森の奥で密かに暮らしているとのことだ。


「この金泣(きんなき)に種を包んで持たせてください。この子はワシらのところに戻ってくる」


そう言うと主人は手のひらにのせていた黄色の鳥をクレアに渡した。


「金泣...」


「どうか、お願いします」


主人の下げた頭に、クレアも彼の願いを無下にすることはできなかった。


「わかりました。きっと見つけてきます...!!」


「ありがとう!ありがとう!さぁ婆さん、今日は祝日だ!豪勢な料理を作ろう!!」


「はよ手伝え」


妻は婆さんと呼ばれたことに怒ったのか、主人をつまんで厨房に引きずっていった。


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