表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青のない世界  作者: Suck
The Potato Desert
8/31

灼熱の砂漠

蒸気機関車のガス抜きの音と共に、黒光りした鉄の塊は駅に到着した。


駅は割と小綺麗だ。屋根はプラスチック製の透明なもので、地面と壁は煉瓦で造られている。一車線の駅にしてはかなり栄えているようだった。


だが、栄えているのは駅の洋装だけで、実際に人はちらほらしかいない閑散とした所だ。


車掌室から腕の長い真っ黒な人型の「何か」が現れる。顔は黒い靄がかかって見えず、靄の奥から白い2つの目がこちらを覗く。


「...!!」


それは傍に犬らしき生物を連れていて、車内の真ん中を練り歩いていた。


「あ、降ります」


彼が横に差し掛かった時、クレアが手を挙げる。黒い人はこくりと頷き犬を3人の前に突き出す。


「乗る前に買った切符出して」


「う、うん」


イヴは戸惑いながらもポケットから黄ばんだ切符を取り出した。


「はい」


そう言ってクレアが切符を犬の舌に乗せる。それを見て、ブライアンとイヴも同じ動作をした。


犬は真っ黒な牙を見せて切符をペロリと平らげ、尻尾を振る。黒い人はそのまま車内の奥へ歩いていった。


「降りる人はあの犬みたいなのに切符を食べさせるの。さぁ、行くよ」


「可愛かったね、何ていう名前なの?」


「...犬みたいなの?」


「なにそれー」


悪魔で犬ではない。イヴは興奮しながら荷物を纏めてクレアの背後についていった。彼女の前から迫る乾いた風、ツバの広い帽子が飛ばされ、「あ」と手を伸ばすが届かない。


「ほい」


彼女の2倍ほど身長のあるブライアンが帽子を掴み、彼女の頭に乗っけた。

木偶の坊ではないようだ。


「ありがとホワイトドラゴン!!」


「うむ。砂埃が目に入らないようにするべし」


イヴはすかさずクレアを盾にして風を防ぐ。クレアは「おいおい」と呆れの混じった苦笑をした。


駅の出口には既にガイドを乗せたキリコが何体か滞在しており、クレアはイヴと、ブライアンは1人でキリコに乗った。


屈強な腕のガイドがキリコの背中に乗ってロープを垂らし、滑車の原理を使って乗客を上に乗せる。すると、もう一本、キリコに接着しているロープを辿って再び背中に戻って同じことを繰り返す。


キリコの上は地上より風と暑さが酷く、決して乗り心地のいいものではなかった。


「あ、暑い...」


「ガイド曰く心を無にして耐え忍べらしいよ」


「ひぇえ...」


イヴは腹の底から悲鳴をあげ、前にいるクレアにしがみついた。


「落ちるなよー、落ちたら死ぬぞ」


「そんなこと言うから余計怖くなったじゃん。もう抱きつく」


彼女は一層クレアを抱く手に力を込めたが、貧相な身体故クレアは何とも思わなかった。環境は最悪だが、そこから眺める景色は至極だった。


「ほらイヴ、地平線が見えるよ」


「わぁ!...電車の中でも見れたけどね」


背後にいるイヴがジト目をしているのがわかった。確かに電車の中のほうが幾分か快適だ。


「まぁ気を落とすな。今夜は更に絶景が見れるかもしれないぞ」


「今夜?」


「あぁ、きっと驚く」


「楽しみにしとく。それまで腕離さないよ」


(前に乗せるべきだったな。気づいたらイヴが落ちてそうで不安だ)


2人は悪環境にも関わらず雑談で盛り上がり、先頭で誘導しているガイドは完全に蚊帳の外だった。


...

......

.........


「女ってのはどこでも喋るな」


「それが仕事だ」


男2人、ガイドと乗ったブライアンはポツリポツリと言葉を交わす。


「何でまたジャガイモランドに?」


ターバンを巻いたガイドが不思議そうに彼を見た。本来ならここは商隊や運び屋が通る場所。この酷い環境の中観光に来る者はそう中々いないだろう。


ブライアンは青の情報を収集に来たとは言えず、得意の戯言で乗り切ろうとした。


「ふっ、ダルヴァザから漲る業火、我の棲家である地獄からの炎を肌で感じようと思ってな。む、そうか貴様は人間か、我は地獄の使者!!!ぜひホワイトドラゴンと呼んでくれ!!!」


「たすけて」





時に天使、時に悪魔となるふわふわした設定のブライアン。彼の自己紹介は相手を黙らせる秘技かもしれない。


かくして、クレア一行はジャガイモランド中央部の街「ダブリン」へと到着したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ