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青のない世界  作者: Suck
The Potato Desert
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キリコと蟻地獄

しんしんとした小雨が降る中、3人はジャガイモランドに行くため国境に向かった。


ふざけた名前と思われるかもしれないが、この国名にはれっきとした由来がある。あまり良い意味ではないが。


ジャガイモランドは小ブリテン王国に従属する形で存在している。その理由は農作物の収穫に関係している。


土のph.は5.5〜6で、ジャガイモの収穫に適しているのだが、何故か豆類なトウモロコシを同じ土壌で育てることができないのだ。


何でも葉が白くなって壊死状態になるらしい。


故に、ジャガイモを小ブリテン王国に輸出し、衣類や食物を大量輸入するしか生き残る術がないのだ。




それに、ジャガイモランドの土壌は他の国とは比にならないほど豊富な天然ガスを含んでいる。乾燥した大地からガスが漏れ、ふとした瞬間に爆発し、あたかも蟻地獄のような形状になることがしばしばある。


このような現象がジャガイモランドのほとんどの地域で見られるのだ。


この天然ガスを国産化する試みもされたが、抽出の危険性に伴いやむなく断念された。


そんな危険な土地だが、先住民はある動物を使ってその危険を回避していた...。



ところで、クレア一行は馬車から国境沿いの蒸気機関車に乗り換えてジャガイモランドに入国した。


東部地方は薄っすらとした草原が機関車の両脇に広がり、空の赤と相まって独特な雰囲気を醸し出している。


眠っているイヴの膝に常設のブランケットをかけ、頬にかかった横髪を指で退けた。


「よく寝るな」


馬車でも寝ていたのに機関車でも寝るイヴを見て、隣に座っていたブライアンが言う。


「安心して眠れるっていうのは当たり前のことじゃないらしい」


「安心...か」


車内は揺れ、車輪がレールと擦れる音でブライアンの呟きは掻き消された。


縦窓を上に開けると、乾燥した空気が車内に流れ込む。最近は小雨でじめじめした気候だったので、この空気はクレアにとっては新鮮なものだった。


乗客は3人以外に、風呂敷を持った老婆と黒スーツ姿の中年男性がいた。2人とも疲れて、まるで人生に絶望したかのような顔をしていた。


しばらく揺れると、申し訳程度に生えていた草は完全に無くなり、辺りに砂漠と化した大地が現れる。


砂が入らないよう、クレアは再び窓を閉めた。


「イヴ」


透き通った声に目を覚ましたイヴは無意識に外を眺める。すると、この世のものとは思えない光景が瞳孔に飛び込んできた。


直径100mはありそうな巨大な蟻地獄。穴の中からは天然ガスによる業火が燃え盛っていた。一瞬寝惚けているのかと瞼を擦る。


「わっ...なにこれ」


「ダルヴァザって言うらしいよ」


まるで地獄の門。轟々と燃え仕切る炎は自然の威厳を誇示しているようだった。


この砂地獄はいつどこに現れるか推測するのは難しく、鉄道レールは比較的天然ガスの埋蔵量が少ない地帯の上に敷かれている。


と言っても、いつレールの上が陥没してもおかしくないという状況なのだ。


地平線の下にいくつも空けられた穴ぼこは見る者を圧巻した。


「あっ!何あれ!」


イヴの興奮した声につられてクレアとブライアンも外を見る。


「あれはキリコっていう動物だよ」


キリコ。脊椎動物の鳥類で、その特異な形状から「砂漠のモスキート」とも呼ばれている。


彼らの脚部は非常に長く、大きいものだと10mを超える。まるで竹馬に乗っているかのように関節は曲げず、硬い殻に覆われた脚を器用に動かして二足歩行を行う。


本体はサイと同じくらいの大きさで硬質の皮膚で覆われ、頭部は体部の中に埋もれて嘴だけが身体から突き出している。


彼らは集団で行動し、この蟻地獄にも適応していた。


細長い足と象のような皮膚を持つ彼らは、そのアンバランスさから不気味と感じる人も多い。


「大きい...!!あれ?上に人が乗っているよ」


キリコは少し遠くにいて影しか見えなかったが、体部の上に人の姿があるのが確認できた。


「この国では移動手段にキリコを使うんだ。暑いから布を被ってね」


「うわぁ〜あんな高い所怖くないのかなぁ」


「最初の内は怖いかもね」


イヴは初めて見た異様な生物に目を爛々と輝かせていた。


「ふむ、高い所か...」


ブライアンが眉間に皺を寄せて怪訝な顔をした。


「どうした、高い所嫌いか?」


意地の悪い笑みを浮かべたクレアに対抗するように、ブライアンは言い訳を始める。


「我はイカロス!!!天に近づくけば我の蝋の翼は溶けてしまう!!!そうだろうイヴ?」


「ん、知らない」


ロミオとジュリエット張りの名演技をしてイヴに振るが、あっさり一蹴されてしまった。

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