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青のない世界  作者: Suck
Snow Berry
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壊れたアリス

ダルヴァザの東に隣接する国。

『スノウベリー』

気温は氷点下に近く、雪がよく降る。

国民性はとても穏やかで寒さにさえ耐えれば隠居には最高の国だとも言われている。


モッズコートを羽織った5人は膝下まである雪を踏み、宿のある『レヴォン・トゥレット』を目指した。


こんな時でもイヴはブライアンの肩に乗って呑気に昼寝している。それを見てリリーが呆れたように笑った。


日は沈み、もう藍色のカーテンがひかれ、冷気が鼻の奥をツンと突いた。




「ねぇ寒いよクレァ〜。もっとくっ付いて〜」


「...いや歩きにくいから...あの...」


問題はこの女。アリス・ウォーカーだ。ハルを亡くして以来、性格が一変し極度の甘えん坊となった。


普段いがみ合っていたアリスとクレア。猫撫で声にクレアは気が狂いそうだった。


アリスは彼女と腕組みして満面の笑みを零しながら歩く。


「心ってのは不思議なもんだな。均衡が崩れれば忽ち人が豹変しちまう」


リリーが言うと、ブライアンが


「あの容姿であの振る舞いだ。その手の趣味の男にまとわり付かれなければいいが」


と言った。


「その手?」


「少女よ。男というのは馬鹿な女に惚れ込む。我も嘗てはそうであった」


(男だけど...つか、こんな奴でも女ができるんだな)


ちらつく雪を眺めながら森を抜けると、レヴォン・トゥレットの宿が点々と見えてきた。


「あ、見て!!凄いなにこれ!?」


いつの間にか目を覚ましていたイヴが空を指差し声を上げた。


それにつられて夜空を見上げる。




うねる光。




黄緑と紫の蛇のような光。




オーロラだ。




「オーロラかぁ。初めて見た」


「私の目がおかしいんじゃないよね?」


「うむ。あれは正しく神の悪戯」


「太陽風だ。窒素や酸素がそれに煽られて光を放ってる」


ブライアンの戯言にリリーが突っ込んだ。


「へー。リリーて物知りだね」


「イヴ。君よりはね」


「なっ!?子供扱いしたなっ!?ゆるさーん!!」


光輝くレースのカーテン。夜の薫り。

そんな中でも子供はじゃれ合う。


背中で暴れるイヴを制止しつつ、再び宿に向かって歩みを進めた。



屋根に雪が積もっていて、煙突から煙が出ている。シチューのいい香りがした。


木製の扉を開けると同時に、暖かさに包まれる。カウンターにいた人の良さそうなお婆さんが出迎えてくれた。


「やぁどうも。お泊りかい?いい部屋を押さえておくよ」


陽気な口調で小さなお婆さんはピョンピョンとクレアの前に立つ。


「あぁ。ありがとう。とりあえず一泊お願いするよ」


「身体が冷えているね。飯の前に温泉に入ってきな?」


「温泉?」


「あぁ、本場のサウナもあるさ。あんたら良い宿に来たもんだよ。ほら行った行った」


お婆さんは半ば強引に全員の荷物と上着を預かると、温泉に案内した。


「このかどを右だよ。混浴じゃからな」


「ありがとうございますお婆さん。お世話になります」


「いいってことよ。んじゃ、ワシは夕飯を作っておくでの」


「はい...!!」


「あ、そうじゃ。性行為は禁止じゃぞ...ハハ!!」


そう吐き捨てると老婆は厨房に向かった。壁も床も木製で温かみのある内装。受付フロアには囲炉裏があり、旅の疲れを癒してくれた。最高の宿だ。



「せい...こ...」


一瞬、口に出してから意味を理解し、クレアは赤面する。


「身体洗いっこしようねクレア...!!」


「...うぅ...」


遠くで見ているイヴがボソッとブライアンにこう言う。


「ホワイトドラゴン。私、心配だよ。アリスもクレアも。...このままじゃいけない気がする」




その通りだ。仲の良い妹をやっと見つけたかと思えば記憶を無くして自分のことすら忘れさられていて。それでも何とか不器用ながらも距離を築いてこれたと思ったら、今度は死別だ。


気が狂うのも仕方ない。


彼女は恐れているのだ。


自分の居場所が無くなることを。自分の目的が無くなることを。


だから必要以上に甘えたがる。愛を確かめたくなる。



イヴはこのまま彼女がふらっと死んでしまうのではないかと危惧していた。

そしてクレアのことも。


完全に顔がやつれている。


元々、クレアはじゃれ合うことが苦手だ。イヴやリリーの世代ならともかく、ブライアンやハルとは割とドライな関係を築いていた。


自分のプライベートスペースにズカズカと入ってくる。それが苦手なのだ。

それでも、アリスの事情を酌んでそれを我慢している。受け入れている。



いつか彼女にもガタが来てしまうかもしれない。



「イヴ。俺はこの先どこかで別れるかもしれないけれど、お前はクレアと運命共同体だろ?」


「何それ」


「まぁいいや。クレアを信じろってことで」


「また子供扱い?」


「違うのか」


「...わからない」



改めて考えてみた。自分は子供なのか。


確かに、幾度も視線を潜ってきた。仲間の死を見てきた。

だから正直、ハルの死が重たいと言えば嘘になる。


その点では、クレアよりも大人と言えよう。


だが、何かが足りない。

振る舞い?知識?違う。


もっと違う。無償のなにかが足りない。




...

......

.........


白く濁った天然温泉。肩にお湯をかけると肌にまとわりつくようにして流れる。


外気が直接入るため、湯船に浸からなければ凍え死にそうだ。


「はぁ〜気持ちい〜」


「クレア肌すべすべ〜」


「近いよー」


「私も仲間に入れて〜!!!」


素っ裸のイヴが湯船に飛び込んだ。飛沫がクレアとアリスの顔にかかる。


「お、やったな!!」


「そりゃっ!!」


3人はビーチで遊ぶ純粋無垢な少女のように湯を掛け合った。


彼女らの声が温泉中に響く中、ブライアンとリリーはサウナで時間を潰す。


(...馬鹿が。前くらい隠せよ。男が入りづらいじゃねーか...)


「少女よ。貴様も淑女なら前くらい隠せ」


「男だっ!!」


「ふん。威勢のいい女だ。このサウナ勝負。我が祝杯をあげることとなるだろう」


(なんか勝負始まってるし...)


束の間の休息。凍える大地で、5人は身を寄せ合いながら互いの体温を感じあった。


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