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青のない世界  作者: Suck
The Depth Of Lanthanum
25/31

Baia Submarine Train

崖の下では海水が波打ち潮水が頬にかかる。ハルが揺れる髪を手で押さえ、生唾を飲んだ。


「本当にここに飛び込むんですか...?」


「あの男によるともうすぐ穴が開くはず」


ブルーワームホール。

一定の時間に海水に穴が開き、空洞化する。研究者がこの現象の究明に当たっているが、未だ判らず。


イヴが不安そうにクレアの顔を覗き込むと、彼女は優しく微笑んで頭を撫でた。それと同時に、何かの気配を感じて海の上に視線を向ける。



水平線に浮かぶ月に影を作る者。

一瞬、クレアは幻かと目を擦ったが、それは現実であった。


「...人?」


「どこよ」


「ほら、海の上」


「え?」


アリスに指をさして教えるが、彼女は見えていないのか、目を細めた。


海上に浮かぶその人物は徐々に浮かび上がり、逆光から姿を現した。


蓮の葉を飾った灰色の長い髪を揺らし、聖母のような微笑みを向けている。顔立ちははっきりしており、頬は少し朱色がかっている。


白と緑のグラデーションがかかったドレスを見に纏い、こちらを見つめていた。彼女の澄んだ瞳を前に、クレアは硬直してしまった。鼻がつくほど接近したその女性は


「アハ。青を探しているの?」


と甲高い声で聞く。


「...あなたは誰」


質問に質問で返すクレア。彼女を気にせず浮遊する女性は続けた。


「アハ。というか。【まだ残ってた】」


彼女はそう言うと、ブルーホールの中へ飛び込んでいった。クレアは思わず彼女を追って穴の中に身を投げる。


髪が逆立ち、内臓が浮かぶ感覚が気持ち悪い。暗闇へ身を沈めると、壁面の海水が渦巻く音が耳に入った。


その時、言いようのない不安感が身体中を巡った。



「クレアッッ!!!」


「私達も行くわよ!!」


アリスはイヴの身体を持ち上げて海の中へダイブした。それに続いてハルとブライアンも飛び込む。


崖の上には、ノッポピナッツが彼らの未来を憂いてか、何匹も集まっていた。


彼らが集まるほど、その日の月は大きく見えると言われている。










...

......

.........


目が醒めると、寂れた駅のホームに横たわっていた。クレアは重い体を持ち上げると、辺りを見回して謎の女性を探す。


しかしあるのは海藻やフジツボのくっついた電車のみ。


「急に飛び込むからびっくりしましたよっ!!」


ハルが頬を膨らませて言う。アリスもイヴを放ったらかしにした事に若干苛立っているようだ。


「ごめん。ちょっと...ううん。疲れてるみたいだ...」


彼女は眉間に手を当てて大きくため息をついた。「大丈夫?」というイヴを軽く抱擁して「ごめんね」と謝った。


イヴはクレアの白い手をそっと握る。


「それにしても、こんな所があるなんて...世界って不思議ね」


天井や外壁は海水が磁力に曲げられたかのように上へ上へと登っている。


赤茶色の海はなんだか不気味で、ずっと見ていると不安になった。

先の見えない恐怖。


「こんな所...想像もつかないですよね...」


「これが聖なる力か!!我は感じる!!大いなる海の力を!!!」


「何言ってるんですか。頭大丈夫ですか。やめてください」


冷静にハルに妄言を否定されたブライアンはさながらヒーローのような格好で硬直した。ブライアンの妄言に悩まされていたアリスは、そのやり取りに苦笑する。


「すごーい!!この列車海の中走るの!?」


「あ、そ、そうなんじゃないですか?」


何故かイヴにも敬語。ハルは少し子供が苦手のようだ。屈託のない笑みで分け隔てなく接してくれる子供特有のコミュニケーションに慣れていないのだ。


「とりあえず乗ろうか...券売機がない...。ど、どうしよ」


クレアは促してみたものの、切符を手に入れる方法がわからなくて困惑した。いきなりホームに着くものだから切符の入手方法なんて知る由もない。


「車掌に聞いてみよう」


5人は列車の先頭にまわったが、車掌はいなかった。列車が時折軋む音と、海水が流れる音だけがホームに響く。


「あれ、車掌さんいないよクレア?」


「うーん。ん?」


考え込んで床に視線を落とすと、そこにメモの切れ端のようなものが落ちていた。そして不可解にそこにある「影」。


(シミ...じゃないよね?動いてるし...)


紙切れをひろい、目を通してみると


【Without tickets】


と書かれていた。


「切符はいらないらしいよ」


「へぇ、そんなこと書いてあるんだ」



クレアはぎょっとした。もしやと思っていたがやはりイヴは文字を読めないらしい。無理はない。産まれてからつい最近まで色攫いに追い回されていたのだから。


「電車で教えてあげる」


「わーい!」


2人はまるで歳の離れた姉妹のように仲睦まじく列車に乗り込んだ。


「行くわよハル」


「え、あ。うん...」


気丈に振る舞うも気恥ずかしさで少し顔が染まるアリスであった。


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