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青のない世界  作者: Suck
Peter Town
24/31

一冊のお伽噺

牢獄に孤独を抱えながら座り込むオンボロのロボット。錆び付いた外部とくすんだ瞳。


もう動くことはないと看守も彼のことは気にかけなかった。


彼の前には小さな机。瓶にさされた一輪の花が小窓の光を浴びて薄紫を放つ。



1人の少女が落としていった小さな本が目の前でページを開いていた。


そのロボット、オールドはゆっくりと本を拾い上げる。


動くたびに茶色い錆が地面に散らばった。



「...」






__青の温度__




私が誕生してから幾年か過ぎた。

毎日更新される情報と新たな知識。それを活用して新たに知り得る過去の問題の解答。今の問題の解答。


0と1の間には何もない。

今年で10歳になるご主人様は勉強と娯楽のためにと私を買って下さった。


ご主人様の毛髪からDNAの構造を読み取り、ご主人様の嗜好を全て把握した。


好きな食べ物は目玉焼きにスパゲティ。そしてチーズグラタン。

嫌いな食べ物はピーマン、人参。そしてトマト。

趣味はピアノと音楽鑑賞。私が流した音楽は悉く気に入ってくださる。当然彼の趣向を理解しているのだから当然である。


ご主人様は朝から夜遅くまで私を必要として下さった。遊ぶ時も勉強する時も、私は隣でご主人様の補助を務めた。



そう、【補助】だ。


0と1の間には何もない。



ある日ご主人様はこんな事を仰った。


「ねぇ。僕は生まれてからずっと目の前に何もないんだ。だから皆の言う色がわからない。教えてくれないかい?」


目の見えない子に空の青さをどう伝えよう。簡単であった。


「R0.G103.B192の色です」


「わからないよ。言葉じゃ」


そうだ。私は青色ですら彼に伝えることはできなかった。


どうすれば、どうすればご主人様に青色を伝えることができよう。

私はデータベースを駆使して何とか伝える方法を考えた。


そして私は辿り着いた。


ある日。ご主人様のお父様が旧タイプの私を新タイプのロボットに変えようと仰られた。

当然だ。私の身体は物理的衝撃に弱く、所々凹みが目立つ。毎日データを更新していても、ウィルスにかかったりデータを破損することも少なくない。



だがご主人様は泣いて私を抱き締めた。何度も反対して下さった。そんな彼の姿を見て、私は決意を固めた。


別れの前夜。私は彼の部屋の暖炉の前で夜通し彼と昔話に花を咲かせた。


「僕が歩く時はいつも君が前にいてくれたよね。そのお陰で僕はどこにでも行けた」


「エエ。私ノ仕事ナノデ」


「僕、やっぱり別れたくないよ。ずっと親友だったのに...」


「ゴ主人様。私ハ予テヨリ青ノ伝エ方ヲ考エテイマシタ」


「?」


ご主人様は顔をきょとんとしておられた。


「ゴ主人様ガ、本当ニ。本当ニ私ト別レルコトガ哀シイノナラ、ソノ感情ガ青デス」


「ゴ主人様ガ、晴レタ日二散歩ヲシタ時、心ノ靄ガ消エテイタノナラ、ソノ感情ガ青デス」


「ゴ主人様ガ、海ノ風ヲ肌デ感ジテイタ時、夜ノ焦燥ニ駆ラレテイタ時、全テ貴方ノ周リニ青ガ溢レテイマシタ」


結局、目が見えていても青などという奥深い色を一言で表すことなど不可能なのです。


0と1の間にある感情。

そこに色は存在する。

私は大切なことを学びました。私は人間が羨ましい。色に感情を移すことができる彼らが羨ましい。私のこの感情が何色なのかも、私は知らないのだから。



「きっと。きっとこんな風に思い出を語っている時は、温かい色に包まれているんだろうね。それだけで僕は十分だ」


「...」


私が人間ならば、彼を包み込む優しさの色を教えたい。涙の色を教えたい。


どうか来世は、私に魂があるのなら、来世はそんな存在になりたい。


数年後、私は少女になった。


向かうべき場所はひとつ。


彼に色を伝えるため。愛の色を伝えるため。空の青さを伝えるため...。



歩道を介助されながら歩く彼の背後から私は彼の名を呼ぶ。


彼は身の覚えのある懐かしさに振り返り、あたかも私が見えているかのように微笑んだ。



さぁ、あの続きをお話ししましょう。



____



その本はオールドから看守へ、看守から上層部へ、手から手へと渡っていく。


読んだ者は皆同じ事を言った。



そしてその本は遂にピータータウンの市長にまで渡った。


「これは何だ...?」


「何やら巷で噂になっている本というものらしいです」


彼は恐る恐るページをめくり、メタリックな椅子に腰を下ろして活字を読んだ。






...

......

.........





「...。我々は勘違いしていたようだな」


「...市長?」


全面ガラス張りの窓から街を一望する。店では劣悪な環境でそれでも働く人々の姿。


ロボットが相手でも子供と遊ぶ保育士。



「彼らは強い。我々が理解できない0と1の間をよく知っている。相手のことを考えられる。それは、合理性ではない。痛みと喜びを共感し、互いを赦すことができる。我々も見習なければならない」


だだっ広い部屋の隅で彼の言葉に耳を傾ける秘書は元々大きな眼を更に大きくした。


「彼らと共存しよう。共に生きることのできる関係に...」


「は、はい!」


秘書は急いで業務に取り掛かった。

市長は再び街を見降ろし、そして眼前に広がる茜色の空を見る。


「青か...」






その後、人間の労働条件は改善され、人間はロボットにできないこと、ロボットは人間にできないことをするようになった。お互いにお互いを助け合い、共存できる社会を創った。



ピータータウンは変わったのだ。一輪の花を愛でることができる街へと。

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