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青のない世界  作者: Suck
Small Britain Kingdom
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青い瞳の少女

ある曇天の日、クレアはつま先を見ながら散歩していた。毎日変わらぬ空の色は、最早見る価値もない。


街と溶け込むような毛の衣装が身体をごわつかせる。


父が生涯をかけても一目することができなかった【青】という存在。日に日に、クレアはそれを見つけたくて堪らなくなってきていた。

鳩のモザイク画を完成させたいと。


「青...か」


無意識に鼻の下を擦る癖がでる。

暫く道あたりに沿って歩いていると、見覚えのない三叉路に出くわした。


今迄石畳を歩いていたクレアは考え事をするあまり舗装のされていない道にまで足を運んできてしまっていた。


「スラム街に出たらまずいな。しかしまぁ、少しくらいなら」


彼の好奇心が細い足を左の道に突き動かした。先に進むに連れて煉瓦造りの建物が減っていき、じめじめとした暗い灰色の建物が目立つようになってきた。


「困窮している街がこんな近くにあったのか...」


灰色の建物は昔流行った造形のもので、現在は景観を壊すとされ建築は制限されている。


この国では政府が経済政策を打ち出して尚貧困率は高まっている。寧ろ、政策方針を変えない政府に問題があると民衆は不満を抱えていた。


保守派の政治家と癒着のあるリトリー家(クレア家)は、あまり良く思われていなく、攻撃的な目で見られている節もある。しかし、父が死んでからは、その関係性も埋まっているようにも思われた。


クレアは今にも崩れそうな鉄筋コンクリートの建造物が連なる道を、右に左に視線を移して歩いていた。


「いたぞ!!」


突然、冷ややかな静けさを切って怒号が鳴り響いた。声の主を見ると、数人の男と少女が目に映った。


布切れのような服を着た白い髪の少女が、クレアの懐に飛び込んで助けを求めた。


「貴様!!その女を離すな!!」


虚を衝かれたような出来事に、クレアは酷く狼狽したが、男達のその物言いに、若干の苛立ちを感じた。


「こっちだ」


少女は助けてもらえないと半ば諦めていたのか、驚いた顔を見せた。クレア

は息を切らした彼女の小さな手を引き、路地裏を走り抜けた。幅の合わない足音が、辺りに響く。


人生で一番長い距離を走ったかもしれないとクレアは思った。


「はぁ...以外と走れるものだね。大丈夫?」


「あ...ありがとうございます」


白い肌が黒く燻んで汗と垢の臭いがする。この辺りの浮浪者かもしれない。クレアが彼女を助けたのは、その場の気分的な判断であった。


「君、浮浪者だよね。家族は?あの人たちは何?」


質問を投げかける時、クレアは彼女の目を見た。見たことの無い色の瞳に涙が浮かんでいて、彼は何か言い表せない感情を抱いた。先程までの質問は全て消え、ひとつの質問だけが浮かぶ。その瞳の奥から光が射し込み、輝いているようだった。


(何だ...この瞳の色は、明るいけど、凄く落ち着いていて...とても不思議だ)


青い瞳の少女。喩えるなら宇宙の果て。完全に未知の色だ。クレアはそれが青だということは認識できていない。


「家族はいません。彼らは...」


「しっ」


氷の上を鉄の靴で歩くように、コツコツと建物の隙間に足音が鳴る。

少し様子を見て、クレアは少女に顔を近づけ言った。


「一旦私の家に匿う。事情はその時に聞くから。いいね?」


「は、はい」


少女は生きる兆しを見つけたかのように安堵の表情を浮かべ、クレアと共に邸へと足を運んだ。


鉄製の門を潜ると同時に、メイド達が心配を隠しきれずに出迎えてくれた。


「クレア様!!一体どちらへ行かれていたのですか!?」


「すまない、少し複雑な事情があって」


「テレジア様がお見えになったというのに...気を悪くして帰られてしまいましたわ」


「私から詫びておくよ。この子をお風呂に入れてあげてくれないか」


クレアは自分の背中に隠れていた少女をメイドの前に出す。


「あ、あの。イヴです」


「この子は?」


歳をとったほうのメイドが剣幕な顔で聞いた。


「浮浪者をクレア邸に招き入れるのですか?」


更に彼女は激越な口調で問う。今にも眉間に浮き出た血管が爆発しそうだ。


「私の命令だ」


負けじとクレアも食らいつく。

2人の間に火花が散ったかのように見えたが、やはりメイドの身分である彼女は意見を折ることしかできない。


「わかりました。さぁ、ついてきなさい。呉々も粗相のないように」


年寄りメイドがきつく当たると、若いメイドが「大丈夫だよ、おいで」と優しく手を引いた。


「年寄りは頑固だなぁ」


クレアが小さく愚痴を零すと、聞こえてますよ、と年寄りメイドに強い口調で言われた。


犬を飼いたいと願う息子を渋々承諾する。年寄りメイドはそんな母の姿に似ていた。


(それにしても彼女の瞳は一体...)


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