眸の中
眸の中
「人は色を見るとき...其々の錐体を使っているの」
「つまり...青が見えない原因は人体にある...と?」
クレアは眼を丸くした。また別の観点から切り込んだ推測だ。だが、その説が正しいのならばひとつ問題がある。
(何で...私は青が見えるんだ...)
青を見ることができる人、できない人がいるのだろうか。クレアの頭で疑問が泡のように膨張し、爆発してしまいそうだった。
「ま、悪魔でアーサーの憶測だけどね。でも、私は彼を信じてる。だから今もこの森に篭って薬の研究をしているんだ」
玄関から入ってすぐに目に入った本の山。あれらは、青を見ることができるようになる薬を作るためのものでもあったらしい。
「...兎が住んでそうな月ね」
「えぇ...」
「薬が完成したら手紙を寄越すわ。それでなくても、お客様は久しぶりなの」
彼女は決まり悪げに苦笑した。
それから2人はこれまでの旅のこと、アーサーとの思い出を赤裸々に語っていった。
アーサーのことを話すグリはとても若く見えて、それこそ思春期の乙女のような表情だった。
器に残った酒に大きなクリーム色の月が映し出され、夜は徐々に深まっていく...
...
......
.........
翌朝。準備を整えた一行はピータータウンに向かうことにした。
「ありがとうグリ。その...また来てもいいかな?」
「勿論。私もアーサーも歓迎するよ」
クレアとグリは一晩で磁石が引き合うように親密になったようだ。
2人の間に流れる独特な雰囲気に、イヴは違和感を覚えた。
「何かあったの...?」
「ふふ...なんにも」
朝の陽射しは身体に活力を与えてくれる。深緑の木々から漏れた光が幻想的に地面に突き刺さっていた。
「さぁ、行こうか」
クレアの掛け声と共に、4人は古くから森の中心に聳え立つ大樹を後にした。
「アーサーなんて人いたっけ?」
アリスが不思議そうに首を傾げてクレアに聞く。
「うん。とても素敵な人よ」
彼女はクスッと笑って歩を進める。
来る時と違って踏みしめる木々の枝や葉、土の柔らかさ、頬を撫でる風全てが心地良い。
今日で青の真実に何歩も近づいた気がする。この当てのない旅にも、いつか終着点はあるのだろうか。
クレアはそんなことを思っていた。
「...イヴ...。コンタクト、取ってみて」
「え...」