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青のない世界  作者: Suck
The Green Smoke
15/31

青が消える前

「失礼ですがお年は?」


クレアは出されたハーブティーを啜りながら聞いた。木の香りとハーブの心地よい香りが相まってとても居心地が良い。


「何千歳だろ...数えるのは途中でやめたなぁ」


「何千歳!?」


それを聞いてイヴが芯から驚く。茶色の目をくりくりさせた。現実味のない数字にブライアンさえも眉をあげた。


「ってことは...グリさんが例の魔女...?」


「あら、みなさん魔女をお探しで?」


「はい。隣のジャガイモランドを知っていますか?」


クレアが話を本題に戻す。


「書物でしか読んでないですけど。私達魔女はこの森から出られないから...」


「魔女狩り...ですか。実は、私達秘種を頂けないかなと思って...。ある宿屋の主人に頼まれたんです。秘種でジャガイモランドを救えるって」


単刀直入にクレアは言った。こういった頼み事はよくあるのだろう。本棚の他には薬草が分類されて保管された棚やフラスコ等が置かれた机が設置されている。


「秘種...」


その時、彼女は顔に何か憂鬱な影を漂わせた。瞳が見えなくてもそれはわかる。

彼女は重たい口を開き、ジャガイモランドに秘種を蒔くことがどういうことか説明した。



まず、ジャガイモランドの土壌は、秘種から芽を出させるには圧倒的に栄養分が足りない。


宿屋の主人は御伽噺で聞いたものを曲解して「どこに植えても森林が広がる」と信じ込んでしまったらしい。


つまり、ジャガイモランドに秘種を植えても芽吹かないのだ。


クレアは複雑な気持ちになった。あれだけ期待させておいて、主人にはどう言い訳すればいいのか。


「あなたたちに罪はないです。無知な主人の罪。秘種はあげます。後はその主人が知ることになるでしょう」


切ない現実。彼らは農民の子として生まれ農民の子として死ぬ。インテリゲンチャが現れない限り土地改革の目処は立たないだろう。


無学の罪。クレアは自分がいかに恵まれた人間か自覚した。


奥の部屋からグリが秘種を包んで持ってきて金泣の体に括り付けた。


「本当にいいの。これで」


アリスはいつもより低いトーンの声でクレアに尋ねる。クレアは視線を合わさずこくりと頷いた。


小窓を開け、両手を開くと、金泣は元気に羽ばたいて元来た道を飛んでいった。宿主を騙しているようで、クレアは心が痛む。


(頼りにしてもらったのに...)


だが、事実彼らは自らの手で自由を掴もうとはしていなかった。雀の涙程の金を積み、村の子を大学に通わせる方法もあったはずだ。魔女を過信し、御伽噺を信じた無知が引き起こした悲劇。


クレア達に非はない。


「そうだ!グリさんに青のこと聞けばいいんじゃない?これだけ本があればきっとあると思う!」


憂鬱になった空気を察してか、イヴが純粋な声で言った。クレアは子供に気を使わせて申し訳ない気分になる。


「青...?青を探しているんですか?」


「はい。小ブリテン王国から来ました。一応ピータータウンにも寄ってみるつもりなんですが、やはり情報が少な過ぎて...」


「うーん。私は今、青がどうなってるか知らないですけど、昔、青がどうだったかは知っています」


そう。彼女は幾千もの時を生きた人間。青が消える前のことを知っているはずだ。









...約3500年前、人類は地球上で最盛期を迎えていた。機械による福祉の向上、人工食物による食糧不足改善。人々の平均寿命は飛躍的に伸び、全人類の人口は85億を超えた。


だが、技術が進歩したとしても、領土の広さは変わらない。人が増えた分、彼らが住む場所がなければならない。


また、貴重な資源を求め、各国は互いに睨み合っていた。


そして破滅の時は来た。

名目上発展途上国と公言していた東南アジアの国が核を保有し、一気に世界に緊張感が張り詰めた。


資源と領土の分配を主張し、独裁国家が西欧諸国と核戦争を始める。


その中で考案されたのが「色素爆弾」

水爆よりも遥かに広範囲に被害が及ぶこの爆弾。特殊な化学物質に触れたものは真っ赤になる。



対象は研究者や軍人、色が判別できなければ、多くのことに不便が生じる。さらに空中で迎撃されても、色素爆弾は空中から地上に向けて効果を発揮し、一発で西欧を赤の世界に変えた。


だが、対策本部から送られたスパイにより色素爆弾の技術がトレースされ、東欧にも撃ち込まれた。


そして



世界から色は無くなった。







「私が知っているのはここまでです...なぜ純粋な青だけが現れないのか。なぜ緑は復活したのか。それはまだ謎です」


(そう言えば...レブレは微量な青なら存在すると言っていたな...)


「すいません。暗い話ばかりで...」


「いえ、参考になりました」


難しい話に、イヴは目をうつらうつらとして今にも寝そうだった。

グリはくすりと笑って「お嬢ちゃんおねむ?」と揶揄う。


どこかで同じやり取りをした気がする。


「ね、眠くないもんっ!!...眠く...」


反論する間も無く、彼女は夢の泥濘へと沈んでいった。

グリは失笑すると「今日はここに泊まっていってください」と言う。


「ありがとうございます!」


「雑魚寝になってしまいますが、奥の部屋に3人。クレアさんは私の部屋で」


「えぇっ!?私この大男と一緒?ちょっと待ちなさいよ...ってててわかったわかったわよ!」


立ち上がって噛み付くアリスの太ももを隣に座っていたクレアがつねる。


彼女は何かを察したのだろう。

グリが意図的にクレアだけ別室にした理由を。


グリは何かを伝えようとしていると。



「ふむ。小娘よ。我は今夜聖なる神の降臨を祈祷する。我の神々しい姿をとくと見るが良い」


ブライアンがどやりとした顔でアリスに言うと、グリは「この男は何を言っているんですか?」と聞いた。


クレアは苦笑いしてこう答える。


「彼、頭がおかしいの」




それにしても、グリの話で謎は更に深まった。


赤と緑と青。なぜ青だけ存在が消されたのか。


クレアの脳裏にはその疑問が膨れ上がっていた。


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