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青のない世界  作者: Suck
The Green Smoke
13/31

妖精と深緑の国

数時間キリコの上で揺られると、砂の地面は少なくなり、草原が大地を占めるようになってきた。


乾いた風もいつの間にか心地よいそよ風に変わる。


「あ、気持ちい...」


ヒヨコのような鮮やかなブロンドの髪を耳にかけるアリス。真っ赤だった朝焼けもいつの間にか白に近い薄い黄色の空になっていた。


暫くすると、境界線のような幅の狭い溝に到着し、キリコが脚を止める。


「ジャガイモランドとグリーンスモークの国境だ。降りよう」


クレアは分厚い手袋をはめ、ロープを辿って降りる。


全員が地に足を付けるとキリコは長い脚を器用に動かして踵を返した。

そして仕事を終えた商人のように、都市ダブリンへと帰っていった。


彼等は商業、観光用の脚として使われて何とも思わないのだろうか。


虫のように小さく、黒目しかないその瞳からは彼等の想いは読み取れなかった。


「キリコさんありがとー!!」


目を覚ましたイヴが大きく手を振る。

地平線にポツンと佇んでいるように見えるキリコはどこか哀愁漂う姿だった。





_

__

____



「赤髪の女と青い瞳の少女を誘拐して小ブリテン王国に送還する。これがファンから委託された任務だ」


枯葉色のコートに身を包み、黒のブーツで石畳の上を歩く男。その背後では金髪でボブカットの女性が一定の距離をあけて歩いていた。



雪のように白い肌と僅かに赤く染まった頬。髪と同じ金色の瞳。女性は子供が強請るような声で男に問いかけた。


「先輩〜。任務内容はわかったんですけど、グリーンスモークまでまだですか?」


「黙って付いて来い。ピータータウンからグリーンスモークまではすぐな筈だ」


男は坦々とした声色で答えた。2人は合わない歩調で緋色に塗られた道の上で歩を進める。


「先輩。林檎」


「...濁点無しでも?」


「ダメです」


「ゴライアスオオケモノ」


「ノッポピナッツ」


突然しりとりが始まった。2人は林檎から始まり、生物の名前をどんどん言っていく。


この光景を見る限り、表情の変化がない青年と元気な美少女の仲睦まじい姿と思われるかもしれないが、彼等はあくまでファンからの刺客だ。



ヘイ=ロウ。世界中で裏の仕事をこなす万屋。拷問・殺人・密輸・誘拐なんでもござれだ。近年は過ごしやすいピータータウンに居を定めていたが、任務の手違いで誘拐してしまった女性と生活を共にしている。明るめの茶髪に少年のような顔、鷲鼻が特徴的。


ハル=ウォーカー。手違いで誘拐された不幸な美少女。環境に順応するのが早く、今はヘイの仕事を手伝ったり、炊事や家事をしている。八重歯が可愛い。



「先輩ってポンコツですよね」


「しりとりで負けたからって酷い言い草だな」


「だって人違いで誘拐しちゃうなんてご法度じゃないですか。色攫い辞めたほうがいいですよ?」


「確かにそうだな。ターゲットがお前に瓜二つだったもんだから」


「もしかして私が好きなんですか?」


「お前は人の話を聞こう」


冷静に突っ込むヘイと楽しげにボケるハル。不思議な組み合わせだが、どこか噛み合ったコンビでもあった。


「ところで、その標的を見つけたらどうするんです?」


「この特殊な毒が塗られたナイフで切る。血は凝固されて傷口が塞がるが、麻痺毒は着実に対象者の体内に入り込み、眠気を誘う」


ヘイは得意げに腰に据えた二又のナイフを取り出した。金属の擦れる鋭い音が気持ち良い。


「なんですかそれ〜。本当に切れるんですか」


「当たり前だ。ほらっ」


彼は自分の手の甲を浅くスッと切った。一瞬赤い液が見えたかと思うと、瞬時にそれが固まる。


そして倒れる。


「センパァァァアイ!!!!」


ハルは癇癪を起こしたように大声をあげて倒れたヘイを抱きかかえた。やはり、男というだけあって筋肉もガッチリして身体が重い。


「こんな間抜けなことどの洋画の悪役もやりませんよ!!!先輩が初めてですよ!!!すっごく間抜けですよ!!!」


興奮した彼女はヘイの手にかぶりつき、毒を吸おうとするも、血が固まって吸い出すことができない。


(そういうことかっ!!...でも誘拐用だから死ぬことはないよね...とりあえず目立たない場所に...)


ずっしりとした彼の身体を羽交い締めにして何とか道の端に寄せた。


(もぅ...先輩泡吹いてる。この人実力はあるのに色んな所が抜けてるんだよねぇ...)


雑木林に入り込み、彼の身を隠して周囲からの視線を掻い潜る。誰かに見つかって身元がバレたら元も子もない。



ピータータウンの住人が数人道路を行き来していた。



住人と言っても【機械】だが。




______

____

__



国境の溝を越えてグリーンスモークへと入国した4人は深緑の森へと足を踏み入れた。


背の高い原生林と、深緑に生い茂る野草達、地面には土の上に雑草と多様な花が咲いていた。


一度雑草に足を乗せると、瞬間的に草が成長する。高さ2cmだったものが5cm程に。大したことではないが、衝撃によって成長を促進する特性は稀有なものである。


木々は自分の幹に纏わりついた蔦を隣の木に繋げ会話を楽しむ。つまり木にとって蔦はニューロンとシナプスのようなものなのだ。


人は自分達だけが意思疎通に優れていると驕っている節がある。だが、伝達方法が違うだけで、人間よりも意思疎通に優れている生物は何万といるのだ。寧ろ、人間とは正確な意思疎通の図れない生物なのかもしれない。


そんなことを知ってか知らずか、4人はグリーンスモークの新緑世界の風景に一喜一憂しながら奥へ進んでいた。


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