第一話
この世界はまるで蟲だ。
力がすべて。
弱い蟲を強い蟲が喰らい、その強い蟲をより強い蟲が喰らう。
そして、弱い蟲も他の蟲の死骸を、時には群れをなし大きな蟲を数の暴力で喰らう。
そう、この世界は喰らうことしか考えない蟲のようなものだ。
だから俺、【西崎 一夏】はこの世界が嫌いだ。
周りの蟲に囲まれて、喰われる毎日。
喰われる度に自分も同じ蟲で、自分も同じものを餌にするのかと恐れる日々。
だから俺はこの世界を終わらせる。
俺が世界の食物連鎖の頂点、つまり蟲の頂点になって世界を変える。
(世界を変えたら、いつか俺は蟲から人になれると思うから。)
今日も俺は蟲の餌になっている。
「おぉい、ハエが弁当食ってるんだけど。普通、ハエは糞食うんじゃねぇの?」
「ホントだ、ホントだ。弁当食ってんじゃん。生意気だなぁ。」
そう言って蟲は俺の弁当を蹴りあげる。
まだ半分以上残っていた弁当は、床に元食べ物を撒き散らしながら転がる。
それを俺は何も言わずに拾う。
「けっ、それなら食っていいぜ。ゴキブリ野郎。」
そう言って蟲は教室を出ていく。
俺は蟲の背中も見ずに拾い集めたらゴミ箱に捨て、またさっきと同じように椅子に座る。
(ハエかゴキブリどっちかにしろよ。)
【一夏】は片隅でそう呟く。
これは蟲への精一杯の抵抗ではなく、ただただ本当にそう思い口から出てしまった一言だった。
【西崎 一夏】
陵東高校の2年。
黒目 黒髪
身長170㎝ 体重45㎏のいたって普通の男の子。
ただ他の子と違うのは、蟲の餌にされているということだけだ。
一夏は学校の帰り道、またふと思ったこと口にする。
「蟲をこの世界からすべて消したいな。」
一夏は目線を下に固定したまま家に向かう。
すると、とつぜん
(その願いを叶えましょう。)
一夏は急に耳元で聞こえたのか、遠くから言われたのか分からないその声に驚き、目線を下から上にする。
そこにはちっちゃな美少女が空中に浮いてこちらに微笑んでいた。