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夢現の復活

※注意事項

本作は異世界転生ものとしてカテゴライズしておりますが、厳密にはそうでありません。

歴とした地球のお話としておりますが、異世界転生ものとそんな変わりないので異世界転生ものとしてタグ付けしております。

ご了承ください。

 ――完璧だ。


 青年・野津貴志郎のつ・きしろうが混濁する意識の中、最初に目蓋を開いた時に見た少女への素直な感想である。

 彼は不治の病によりその命を落とした筈だった。

 最後の記憶を辿れば病院の集中治療室に据え置かれたベッドの上、ぶら下がる様々なチューブとコードの向こうで、母と父と妹が涙ながらに自分の名を呼んでいる姿が思い出せる。


 もう少し記憶を掘り返せば、両親が同席する場にて主治医より最早打つ手は無いと告知された事や、次に発作が起きた場合助からないと宣告されていた事も思い返せることが確認できた。

 何より自身もその過程で、絶望や諦観を胸に抱いて否応なく死と向き合ってきたのだから“これ”は夢などでは無い。

 死者は夢などみないのだから。


 にもかかわらず、野津貴志郎が意識を取り戻したのは奇跡が起きたからか。

 否。

 青年は未だ霞む視界とぼやける思考の中で否定する。

 なぜならば、時折ピントが合う視界に映る存在はあまりに現実離れしていたからだ。

 きっと、自分はあのまま死んでしまい天国にでもたどり着いたのだろう。

 天国が実在するのか、そもそも自分は天国に行くことができたのかは不明であるが、目の前の美少女を見る限り“ここ”は地獄でも現実でも無いとわかる。


 現在、自分は仰向けに寝そべり上を向いているようで、タイミングよく刹那にハッキリした視界からは美しい少女が自身の顔をのぞき込んでいるのがみてとれる。


 少女は笑っていた。


 嬉しそうに、恋人でも見つけたかのように、こちらを見て笑っていた。

 目の覚めるような美人。

 絶世の美女。

 そんな言葉すら足りぬと思えるような程、目の前の少女は美しかった。

 少女、と評するも年の頃は十八前後か、二十四になる自分と釣り合いが取れぬと思えるほど年の差は感じない。

 ――きっと、一目惚れをするとはこういう事を言うのだろう。

 貴志郎はトクトクと心音が高鳴るのを自覚しつつ、覚醒せぬまま少女の姿を追った。


 視界は先程から霞んだまま。

 ただ、もどかしくも一瞬だけクリアになる瞬間があり、その度に『これは現実では無い』と改めて確信させる姿がみえた。

 少女は目鼻立ちから察するに少なくとも日本人では無ようで、何より美しい髪は金糸の輝きを放っている。

 こぼれ落ちるのでは無いだろうかと危惧する程大きな瞳はブルーで、薄い唇の朱が映えるのは白磁の肌。

 もし、少女の背後に折りたたまれた白い翼が見えたなら、間違いなく美の天使であると断じたであろう貴志郎である。


 しかしただ一つ。

 少女の頭の横から突き出る尖った耳が、貴志郎に彼女を天使であるとは思わせなかった。

 ――エルフだ。


 貴志郎は理由も無く、ただ彼女の耳だけを見てそう確信する。

 アニメや読み物などで出てくる空想上の存在であるが、実在するならば正に目の前のような姿であるのだろう。

 故に目の前の光景は、現実であるはずはない。

 万一奇跡的に病状が回復し意識を取り戻していたとしても、外国人看護師がコスプレをして自分をのぞき込んでいる可能性もあるのかも知れないが、それはあまりに非現実的な話だ。


「!」


 不意に頬に柔らかな感触があった。

 視界は相変わらずぼやけたままだったが、どうやら目の前の美女が自分の頬に両手を伸ばしているようだ。

 死後の世界だからなのか、あるいは別の世界にでも転生したからか。

 状況はまったく判らないが、視界が安定しないのが悔やまれる。

 それでも、薄ぼんやりとした少女の影が近付いて来る事は見て取れて、貴志郎は慌てた。

 このまま彼女の顔が近付けば、遠からず互いの唇が接触すると思ったからだ。

 いや、それこそが彼女の目的であるのかも知れない。


 ――もしかしたらこれは死後の世界でも別の異世界でもなく、今際の際に見た都合の良い妄想であろうか。

 そんな風に考えて、貴志郎は今更ながら先程から全く動かない体に気が付いた。

 ――ああ、きっとそうだ。これは死ぬ直前に見た夢なんだ。

 そう“誤解”した瞬間、貴志郎は花のような乙女の香りと共に、唇に柔らかな感触を覚えた。


 再び意識が闇に落ちて行く中、生まれて初めて感じる感触はやはり完璧だと思えた。










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