ペルセウス座流星群
この想いは報われますか、と問う。
見上げたのは八月の夜空。毎年訪れる流れ星の集まり。それは一閃の光を放ちては消え、放ちては消え。
貴方は私にこう言った。
「流星群は、自らが地球に来て流れているわけではなくて、地球が流星群のもとになる岩石のあつまりに突っ込んでいるから見える」
って。そんなこと私は知っている。塾の先生に小学校の時に教えられた。でも。
「でも、今はそんなことどうでもいい気がするよ。そんな理屈っぽく考えたところで、流星群が綺麗に見える訳じゃないでしょう」
「確かに逆にただの火の玉にしか見えなくなる」
「でしょう」
そう、そんな風に理屈で考えてしまったら、私のこの想いはとてもどうでもいい、無機質なものへと変化してしまう。この体も、この頭も、この感情でさえ、ただの化学反応でしかないのだから。この胸の痛みが、何故か潤んでしまった流星群を映す瞳が、そして隣で確かに熱を発している貴方が、化学反応で済まされてしまうのはとても耐えられないから。
貴方は知っているんだろうか。知ることで空いてしまうどこか暗い暗い虚無感を。知ることの代償を。私は間違っていたのかもしれない。知ることで何も恐れなくなると。知ることで怯えることなど無くなると。心の穴を。人の思惑も。
「何難しい顔してるんだ」
「いや、考え事」
「どうせ化学式がどうちゃらこうちゃらとか化学式が考えてんでしょ」
「いくら科学好きでもそんなことをいつもは考えないよ。もっと哲学的なこと」
「貴女社会嫌いだったはずだよね」
「うん。でも心理学は好きだから」
「本当に貴女は心理学好きだよね。僕の心は読めちゃうのかな」
「貴方は無理。何考えてんのか、さっぱりよ。一つわかったのは、支配欲と独占欲が並の男よりあることくらい」
「もう手を振り上げたりしてないし」
「もうネタ知ってるから今更そんなことしても意味ないよ」
そう、貴方は何考えてんのか読めない。いつも私が予想する最悪で最良の選択をななめ85度上回る。意味がわからない? 私もさっぱりよ。次に何言い出すのかわからないのに、頭の中なんてわかるわけない。それなのに…それなのに貴方は私の心を読むように行動する。私が本当に嘘がつけないのは、感の鋭い私の友達より、全てを見てしまうような貴方。私が一番欲しくて欲しくない言葉を絶妙なタイミングで言う。
驚くかもしれないでしょうが、これでも彼は、学級委員をやっている、割と真面目なキャラ。だからこそ私の心は酷く掻き乱されてしまう。ただの真面目なんかじゃない、この一癖も二癖もある、口が達者で冗談がぶっ飛んでいる彼は、貴方は。どこまでも優しくて、怖くて、意地悪な貴方は、ただえさえ脆くて今にも崩れる様な私の胸に稲妻を打ち込む。
またそんな風に笑って。その豪快で上品な笑いでこっちをみたらいたたまれない気分になるじゃない。
また一つ、ほうき星が空を横切る。何を願おう。どうせなら質問でもしてしまおうか。
--この想いは報われますか--って。
いつもよりも私は心が乱れていましたなんて、貴方は知らないし、その原因も自覚してなんかいないだろうけれど。
意地悪、と呟けば、何が、と笑って返された。
今夜が終わらなければいいと、強く思う。
今夜が終わらなかったら良かったと、この後思う。
でもそれは、後の話。