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それでも龍は時折笑う   作者: 瀬戸バレーナ
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〜全然招いていない人達が来た〜2


「変すぎるわよ。あんたもその辺の奴らも変よ変!」

 そっちこそ変だろうな女の子と出くわしたその日の夜。

 あれから家に帰った俺は同級生とか同じ野球部の面々とか、あちこちから電話アタックを食らい続けた。

 みんな頭の変な女の子にお前が誘拐されかけたってマジか、大丈夫だったのかと心配する声ばかりで、俺は樽見さんがいたから大丈夫だったよと返事しまくった。

 そして一段落ついて今日も綺麗な月が浮かんでいるのを見ながら、俺はあの頭の変な子が言うように本当に変なのかと思い返していた。


 俺、藤堂貴志は16歳。

 月見が丘南高校の一年生。

 ご先祖様譲りの自由気ままに空を歩いたり走ったりができる、カスタムロボ乗り野球部でなんちゃってピッチャーをしている。

 姉ちゃんとは普通に仲のいい姉弟だと思う。


 姉の灯里は18歳。

 俺と同じく月見が丘南高校の3年生。

 龍神様の巫女さんで、ご先祖様と同じく天気とか気象を自由気ままに操るのが得意だ。

 あと大型バイク形態のクロロフォード6世を1人でも乗りこなす、弟思いのよくいるお姉さんだと思う。

 

 親父の雅志はここ月見が丘町にたった1つしかない消防署で、自由自在に巨大化が出来るし、水を何千発も撃てる能力持ちだ。

 能力が能力だから、消防隊隊長をしている。

 

 お袋の愛香音も同じくここに一件しか無い総合病院で、俺と同じく自由気ままに蒼空も海面も歩ける。

 だから海に暮らす樽見さんとか諫早さん達の為の、海に入ったままでも手当などが出来る外科の看護師長をやってる。


 まあなんていうか、俺の家族も普通のオンパレードだな。

 

 今年1000歳越えのシベリアンハスキーのラルゴ。

 ご先祖様がここへ入植する前からずっと一緒にいたらしく、今はご先祖様とその奥さんが眠るお墓参りと掃除を欠かさない。

 我が家で姉ちゃんことが一番大好きで俺のことは子分ぐらいにしか思っていないのは、いつも『お前、俺の下だから』という言動でよく分かる。


 アレスティンさんはこの町の龍神様であり藤堂家の守り役で、普段は月見が丘警察署生活安全課所属の刑事さんをしている。

 年に1回ある月見が丘龍神祭の時には巫女装束の姉ちゃんの隣で、笛を吹きながら一緒に踊るお茶目なひとだ。


 うん。やっぱり変でもなんでもない、俺の家もごく普通な家族じゃないか。


「そろそろメシかな」

 2階の部屋から階段はあるが今日は気分的に歩かず、ふわふわ飛びながら降りた。

「おっ!今日の夕ご飯の数、俺の好みばっかじゃん」

 台所ではおそろいのエプロンを着けてアレスティンさんがサラダ菜を千切り、姉ちゃんはお皿におかずなどを盛っている最中だった。

「あ、貴ちゃんちょうどよかった。ご飯がもう少しで出来るから、ラルゴ呼んできて」

「あいよ」

 この時間になるとラルゴは大人気シベリアンハスキー冒険家ダイナの『ダイナが今日もどこかで迷子』に夢中になっている。

 自由気ままを愛してやまないダイナは一緒に暮らす詩人のミニッツさんと地図も無しであちこち出かけ、必ず迷子になる2人で切り抜けていくタフな御仁だ。

「おーい、ラルゴ。そろそろメシだって」

 テレビに夢中になっているラルゴは耳だけ後ろに動かし、俺も言ったからそれでヨシとしている。

「貴ちゃん。ご飯はい」

「サンキュ」

「アレスティンさん、ご飯どうぞ」

『うぬ』

「ラルゴ。ぽけぽよ鶏の骨1個おまけしておくね」 

『わーおvこれぞまさしくワンダフル』

 一升炊きの釜から炊きあがったご飯を姉ちゃんがお茶碗に山盛りに盛りあげ、各自に渡していくのはいつものことだ。

 姉ちゃんは深い楕円お皿に均等盛り、俺のはどんぶり茶碗で、アレスティンさんのは洗い桶サイズ、ラルゴのは骨付き一斗缶サイズで決まり。

 そんで樽見さんが毎日届けてくれる、新鮮な海の魚をふんだんに使った味噌汁。テーブルの半分サイズの紫色魚の刺身、オレンジ鶏の唐揚げ、色どり豊かなサラダetc.

 今日のおかずは特に俺の大好物ばかりだから、ラルゴと張り合うようにせっせと箸を動かす。

『ぬう?』

 急にアレスティンさんのトレッドヘアの房が3本ほどキラキラ光り、同時にバシューとかキュイーンとか聞き慣れない音が空の方から聞こえてきた。

 てっきり俺は恒例の反抗期を迎えてやる気満々な北斗と、わしが七北田家家長であるな親父さとんのドッグファイト喧嘩かと思ったが。

『食事時にとは戦闘とは、まさに無粋の極みやな』

 ラルゴはまあ腹が減っては戦が出来ぬと、気にした風もなくご飯を平らげていた。

 アレスティンさんはすぐに箸を置き、ドレッドヘアを揺らしながら庭に出て空を見上げていた。

「どれどれ」

 姉ちゃんもすでに外に出てアレスティンさんの隣に立ち、いざとなったら雷でも降らそうかと言いながら空を見上げている。

「まださっきの飛んでる?」

 あらかた食い終わった俺もラルゴと庭に出て空を見上げたら夜の空に4つ、いや5つの小型戦闘機みたいなのがフレアを発しながら海に向かって飛んでいた。

「あれって5丁目の空良さんじゃね?」

 空良さんも七北田家と同じく蒼空の守護神の1人で、よくパトロールに出かけている。

『なにいってんだオメー。ジェット音があいつのとは違うじゃねえか』

 やがて七北田さん父と息子の北斗、空良さんが小型戦闘機を追いかけるように飛んでいくのが見えた。

 さらに前からは樽見さんが娘の凜々子と一緒に、あわせて20本を超える足を海中から出して壁を作る。

 それでもなんとか飛び回っているから操縦者の腕がいいか、機体の性能がいいかのどっちかだろう。

『素直に落とされるかな』

 樽見さん親子のてんでバラバラに振り回す足に、謎の戦闘機が一機がぶつかりかけた。しかし味方機らしいのが樽見さんの足にミサイルらしいもので一斉攻撃をかけ、樽見さんの足回りで代償の火花が散ったのが見えた。

「樽見さんに攻撃なんて、ひどいの」

 姉ちゃんがむうって感じで頬を膨らませたら、蒼空から一斉に戦闘機目がけて爆雷が降り注いだ。

『今度こそ完全に落ちたな』

 さすがに姉ちゃんが落とした爆雷には機体が持たなかったようで、次々デカい花火が夜の蒼空を赤色に染める。

 ただパラシュートらしいのがすぐに五つぐらいが一斉に開き、乗ってた連中は無事なのはここからも見えて分かった。

「むう。風よ吹け吹けなの」

 龍神様の巫女な姉は今度は一陣の風を招き、パラシュート達はあっという間に地上へ落ちていく。

『下には生活安全課の不動が、すでに縄張りを待機中だ』

「不動さんのブラックホールにね、もち落とさせたの」

 あの人のブラックホールの出口は生活安全課の部屋だから、もう大丈夫だなって安心できる。

「あ、北斗から電話じゃん」

 絶対にさっきの戦闘での俺の活躍ぶり、お前も下で見てたかに違いない。

『さて、おかずも全部平らげるかな』

「俺のも残しておけよ」

 そうはいってもラルゴは俺のなんか絶対に残さないから、俺も急いで上の中に戻った。

 樽見さん大丈夫かな、凜々ちゃんの足とか怪我していないといいんだけどなどと灯里が言いながら海のほうを見ている後ろで、アレスティンのドレッドヘアが数本光る。

『なんとも言えぬ、まさしく茶番劇だな』

 ゲートが復旧したら妹の百萌音が自分が今も生きていると勘違いし、自分を連れ戻そうとこちらへやって来るだろう。

 さらに我が儘が通らなかったら同じ防衛軍の仲間達と一緒に、こちらへ偵察なり攻撃しにくるだろうとも。

『里志。お前の妹百萌音は、本当に分かりやすい』

 地球防衛軍の一員でパーフェクトスペシャルな妹は、生前の里志がここで何をしていたかすら想像もしていなかったようだ。

 いやそもそも地球侵略者ルナビューイング女王らという特撮映画じゃあるまいし、いかにもやって参りましたな格好と目的で地球へ現れた背景すら思い浮かばなかったのだろうか。

 そして数多の軍が各国にあるというのにタイミングよく結成された地球防衛軍、そのメンバーに元々里志が選ばれていた時点で何かが変だと感じなかったのか。

『それで向こう側からの返答はなんと?』

 ややあって不動のなんともつまらなそうな声が、アレスティンの脳内へ響く。

『ブラックホール内で頭を冷やせ、このバカどもがか』

 今夜一晩かあるいは総責任者の実園の許可が出るまで、百萌音達はブラックホール内にお泊まりが決定した。

『こちら側へそんなにも来たかったら、藤堂のご両親とか水都みたいに、渡航のための申請書を出せばいいものを』

 破壊されたゲートが復旧した時点で通信途絶もすぐに復旧し、里志のスマフォのメールが向こうへ届いた。 

 遺言にも等しいメールを受け取ったルナビューイング女王らがどれだけ嘆いたか、それはゲート下での会見で泣きはらした様子の彼女を見て知っている。

 里志はもうこの世にいないが彼の子孫がいること、彼がここで穏やかに過ごした歳月を話すと彼女はまた泣いた。

 この時に地球防衛軍の責任者の実園女史に、一応こちらは異世界なのでゲートを勝手に渡ってきてはいけない。こちらへ来る際は、申請書を先に出してくれと伝えていた。

『さすが初っぱなから怪我人を出して、謹慎処分食らうような防衛軍だけはある』

 不動の話ではこちらが何を話しかけてもキーキーわーわー、特に百萌音が一番騒いでいるそうだ。

『なにはともあれ。水際で食い止めることが出来た。それに貴志も灯里も何も気がついていない』

 それでいいとアレスティンは思う。

「ねえ、アレスティンさん。よくよく考えたら、夕ご飯まだ途中だったね」

『そうだったな。冷めていなければいいが』

「さめてたら温め直すよ」

 里志がそうだったように、灯里もアレスティンの腕に抱きつき、何度生まれ変わっても決して変わらぬ笑顔を見せる。

(こんなに凛々しい龍神様がいるから、月見が丘村はずっと平和だね)

 彼の言った通り、ずっと平和で安泰で幸せだった。

『そうだな』

 灯里の髪の毛をクシャッと撫で、一緒に家の中へ戻った。


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