-6-
次の日と、その次の日も祖父の見舞いについてきた。
昨日も祖父は元気だったし、これなら明日にでも退院できそうだと思う。
ちょうど明日で一週間がたつ。
「ああ、永劫。具合はどうだ? 夏バテは気をつけなきゃいけないよ」
「分かってるよ。もう大丈夫だからさ。明日、退院だろ? なにか持ってくるものある?」
「退院するのに、持ってくるものなんてないよ。着替えももう、今日持っていってしまうし」
そうか。
そうだった。どうも、頭がぼんやりとしてうまく働かない。
二日前からだ。こうなってしまったのは。
料理も上手にできなかったし、明宜にも迷惑をかけてしまった。
後ろにいる明宜は、先刻からずっと黙っている。
「永劫。おまえは、思い出したいのかい?」
「え?」
「おまえの父さんと母さん――誠一郎と桜子さんのことだよ」
「……思い出さなきゃ、浮かばれないだろ。死んだのに」
半ば吐き捨てるように呟くと、祖父はすこしだけ苦笑し、そうだね、とうなずく。
それでもどこか――悲しそうにも見えた。
そして、ようやくしまった、と思った。
誠一郎――父は、祖父の子供だったのだ。
「ごめん」
「いいんだよ。それだけのことをしたんだ。あの子らは」
「……」
「おまえも、なんとなく思い出しているんじゃないのかい?」
「……うん」
パイプ椅子に座ったまま、膝を両手で握りしめる。
うつむいて、ほんのちいさく深呼吸をした。祖父の口から、少しだけでも聞きたい。
父と母のことを。
「父さんと母さんは、どんな人だった?」
皺のある眼元が、ゆるく見開かれる。
それから――ゆっくりとうなずいた。
「桜子さんは、誠一郎のことを本当に愛してくれた。もちろん、誠一郎も桜子さんのことを愛していたよ。――それだけだよ。私から言えるのは」
「……うん。分かった。あとは俺が思い出すから。ありがとう。じいちゃん。それだけ分かれば、ずいぶん楽になると思う」
「うん――。そう言ってもらえると、私も気が楽だ。そうだ。私にもしも何かあった時には、明宜さんに頼んであるからね」
「やだな、じいちゃん。明日退院するのに、何言ってるんだよ」
祖父はまだまだ生きてくれるという事を、信じすぎていた。
信じることが怖かったというのに。
「はは。確かにそうだ」
祖父は、笑っていた。
笑って、手を振っていた。
それが、永劫が見た祖父の最後の微笑みだった。




