表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いちゞくの花  作者: イヲ
第六花
36/68

-6-

次の日と、その次の日も祖父の見舞いについてきた。

昨日も祖父は元気だったし、これなら明日にでも退院できそうだと思う。

ちょうど明日で一週間がたつ。


「ああ、永劫。具合はどうだ? 夏バテは気をつけなきゃいけないよ」

「分かってるよ。もう大丈夫だからさ。明日、退院だろ? なにか持ってくるものある?」

「退院するのに、持ってくるものなんてないよ。着替えももう、今日持っていってしまうし」


そうか。

そうだった。どうも、頭がぼんやりとしてうまく働かない。

二日前からだ。こうなってしまったのは。

料理も上手にできなかったし、明宜にも迷惑をかけてしまった。

後ろにいる明宜は、先刻からずっと黙っている。


「永劫。おまえは、思い出したいのかい?」

「え?」

「おまえの父さんと母さん――誠一郎と桜子さんのことだよ」

「……思い出さなきゃ、浮かばれないだろ。死んだのに」


半ば吐き捨てるように呟くと、祖父はすこしだけ苦笑し、そうだね、とうなずく。

それでもどこか――悲しそうにも見えた。

そして、ようやくしまった、と思った。

誠一郎――父は、祖父の子供だったのだ。


「ごめん」

「いいんだよ。それだけのことをしたんだ。あの子らは」

「……」

「おまえも、なんとなく思い出しているんじゃないのかい?」

「……うん」


パイプ椅子に座ったまま、膝を両手で握りしめる。

うつむいて、ほんのちいさく深呼吸をした。祖父の口から、少しだけでも聞きたい。

父と母のことを。


「父さんと母さんは、どんな人だった?」


皺のある眼元が、ゆるく見開かれる。

それから――ゆっくりとうなずいた。


「桜子さんは、誠一郎のことを本当に愛してくれた。もちろん、誠一郎も桜子さんのことを愛していたよ。――それだけだよ。私から言えるのは」

「……うん。分かった。あとは俺が思い出すから。ありがとう。じいちゃん。それだけ分かれば、ずいぶん楽になると思う」

「うん――。そう言ってもらえると、私も気が楽だ。そうだ。私にもしも何かあった時には、明宜さんに頼んであるからね」

「やだな、じいちゃん。明日退院するのに、何言ってるんだよ」



祖父はまだまだ生きてくれるという事を、信じすぎていた。

信じることが怖かったというのに。



「はは。確かにそうだ」


祖父は、笑っていた。

笑って、手を振っていた。




それが、永劫が見た祖父の最後の微笑みだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ