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いちゞくの花  作者: イヲ
第一花
1/68

-1-

――その花は、人が死ぬと咲くという。

弔うように、または――魂を喰らうように。







「神は祟るものなのさ。祟られないように、気をつけるんだよ」


幼いころ、神社の禰宜にそういわれた。

そのせいで、神社が今も苦手だ。

怖いところ、というイメージがついてはなれない。


だから――。



「だから、いやなんだ……」

「何か言ったか? 永劫(ながえ)

「いや……別に……」


あたりは暗い。

こういうシチュエーションでは、暗い方がいいのだろうが。

神社の肝試し(・・・)は本当にしゃれにならない。


大学のゼミのあつまり――暑気払いで飲んでいたところ(自分はまだ未成年なので飲めない)肝試しをやろうということになってしまった。


まわりには男女7人があつまっている。

正確には男が4人で、女が3人である。

もっと詳しく言うと、1年生――つまり永劫が1人、2年生が2人、3年生が3人、4年生が1人だ。


「……」


そう無駄に思考にふけっていても、時間は待ってはくれない。

ほんとうに怖い。

いやだ。

そうおもっていても、女子がいるせいで、逃げかえるという無様なまねはできない。

ぶるぶると震えるこぶしが情けない。

しかし、ほんとうに、まじめに、まじで、怖いのだ。


幼いころ植え付けられた恐怖心は、ちょっとやそっとじゃ消えはしない。



「じゃあ、ちょうど男女ペアになるから、ふたりずつ、神社の石を賽銭箱の下に置いて帰る。それでいいな?」

「……まじで、本気で、やるんですか?」

「なんだよ、お前、怖いのか?」


軽薄そうな――そう言うとぶっ飛ばされるだろうが、その3年生は、にやにやと笑いながら、永劫を見下ろす。

悲しいかな、永劫は背がそれほど高くない。

168センチだ。

あと2センチ伸びれば170センチになるのだが、成長期というものはもう過ぎ去った。

だが、まだあきらめてはいない。

1センチや2センチ、きっと伸びる。

はずだ。

たぶん。


「……って、待ってください。ちょうどペアなんかにならないじゃないですか」

「1年のお前が1人で行く。いいな?」

「はああ!? 嫌ですよ!!」

「いいじゃねぇか。チャンスなんだぜ? 1人で行って帰ってくる。イコール、女にモテる!」

「モテなくていいですから、1人は勘弁してくださいよ!」


という、永劫の叫びもきれいさっぱり無視され、さっそく2年生の男女のペアが鳥居をくぐっていった。


冷や汗がでる。

なさけない。

だけど、本当に怖いのだ。



――神様というものは、本当は怖いんだぜ?

人ひとりの命なんて、神様にはどうということはない。

生と死の区別は、どうでもいいんだよ。

だからこそ、祟られないように祀る。

それが俺の神様に対する姿勢だ。

だから、きみも気をつけな。





このとき、恥を忍んで――、あるいは、仮病でもつかって、逃げて帰ればよかったのだ。


そうしればこんなに苦しい思いも、これ以上に恐ろしい思いをしなくてすんだというのに。

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