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――その花は、人が死ぬと咲くという。
弔うように、または――魂を喰らうように。
「神は祟るものなのさ。祟られないように、気をつけるんだよ」
幼いころ、神社の禰宜にそういわれた。
そのせいで、神社が今も苦手だ。
怖いところ、というイメージがついてはなれない。
だから――。
「だから、いやなんだ……」
「何か言ったか? 永劫」
「いや……別に……」
あたりは暗い。
こういうシチュエーションでは、暗い方がいいのだろうが。
神社の肝試しは本当にしゃれにならない。
大学のゼミのあつまり――暑気払いで飲んでいたところ(自分はまだ未成年なので飲めない)肝試しをやろうということになってしまった。
まわりには男女7人があつまっている。
正確には男が4人で、女が3人である。
もっと詳しく言うと、1年生――つまり永劫が1人、2年生が2人、3年生が3人、4年生が1人だ。
「……」
そう無駄に思考にふけっていても、時間は待ってはくれない。
ほんとうに怖い。
いやだ。
そうおもっていても、女子がいるせいで、逃げかえるという無様なまねはできない。
ぶるぶると震えるこぶしが情けない。
しかし、ほんとうに、まじめに、まじで、怖いのだ。
幼いころ植え付けられた恐怖心は、ちょっとやそっとじゃ消えはしない。
「じゃあ、ちょうど男女ペアになるから、ふたりずつ、神社の石を賽銭箱の下に置いて帰る。それでいいな?」
「……まじで、本気で、やるんですか?」
「なんだよ、お前、怖いのか?」
軽薄そうな――そう言うとぶっ飛ばされるだろうが、その3年生は、にやにやと笑いながら、永劫を見下ろす。
悲しいかな、永劫は背がそれほど高くない。
168センチだ。
あと2センチ伸びれば170センチになるのだが、成長期というものはもう過ぎ去った。
だが、まだあきらめてはいない。
1センチや2センチ、きっと伸びる。
はずだ。
たぶん。
「……って、待ってください。ちょうどペアなんかにならないじゃないですか」
「1年のお前が1人で行く。いいな?」
「はああ!? 嫌ですよ!!」
「いいじゃねぇか。チャンスなんだぜ? 1人で行って帰ってくる。イコール、女にモテる!」
「モテなくていいですから、1人は勘弁してくださいよ!」
という、永劫の叫びもきれいさっぱり無視され、さっそく2年生の男女のペアが鳥居をくぐっていった。
冷や汗がでる。
なさけない。
だけど、本当に怖いのだ。
――神様というものは、本当は怖いんだぜ?
人ひとりの命なんて、神様にはどうということはない。
生と死の区別は、どうでもいいんだよ。
だからこそ、祟られないように祀る。
それが俺の神様に対する姿勢だ。
だから、きみも気をつけな。
このとき、恥を忍んで――、あるいは、仮病でもつかって、逃げて帰ればよかったのだ。
そうしればこんなに苦しい思いも、これ以上に恐ろしい思いをしなくてすんだというのに。