その②
帰宅すれば「おかえりなさい」とさくらが出迎える。すっかり日常と化した彼女との生活にこれが当たり前なのだと錯覚してしまう。
いつの間にか着けるようになったエプロンも様になり、事情を知らない者が見れば新妻だと思うだろう。少なくとも料理の腕は確実にスキルアップしている。
「料理動画見て勉強してるんです」
夕食後、後片付けも終わりリビングのソファーで寛いでいるとそう言ってさくらが隣に座ってきた。ここ最近のさくらは妙に距離を縮めて来るので困る。
「近過ぎだ」
「す、すみません」
「料理動画って、まさか俺の為?」
「は、はい」
頷くさくらの頬は紅く、冗談で聞いたつもりだった隆俊は返しに困る。未那がいるから大丈夫だと思っていた自分が愚かだった。あいつとは違う可愛さがあるじゃないか。
「居候させてもらっているので少しはお返ししなきゃって」
「そ、そうか」
「隆俊さん?」
「いやなんでもない。それにしてもほんと上手くなったな」
「ほんとですか」
「ああ。そりゃ最初は不格好な味だったけどな。動画だけでここまで上達するなんて才能あるんじゃないか」
決してお世辞ではない。料理動画にも種類はあると聞くが、ただ見ただけでものにできるなんて目玉焼き程度しか作れない人間からすれば才能の他に何と言おうか。
「少なくとも俺はおまえの料理好きだぞ。いつもありがとな」
「っ⁉ 隆俊さんってズルいですよね」
「なんだよズルいって。俺なにかしたか」
「わからないならいいです」
プイとそっぽを向くさくらの口元は緩んでいた。病院を抜け出して良かったと確信した瞬間だった。いまは体調が良いがいつ倒れるか分からない命懸けの大冒険。そんな危険を冒してまで外の世界に出て正しかったとほくそ笑むさくらは少しだけ背伸びしようと決めた。




