外伝 氷都の守護者(スノー・フロンティア)
舞台は北の大地、北海道。
札幌市中央区に位置する「札幌微細医療センター」。
ここでは、本州とは異なる独自の進化を遂げたバルス――通称『寒冷地適応型バルス(クライオ・バルス)との死闘が繰り広げられていた。
極寒の地で代謝を極限まで抑え、氷の結晶のように硬化した細胞壁を持つバルスに対し、通常の装備では無力だった。この過酷な最前線を支えるのが、センターが誇る精鋭、第四班『スノー・ホワイト』だ。
【第四班:メンバー構成】
* 白葉 菊花 / 18歳・アタッカー
天宮あかりの訓練学校時代の同期。成績はあかりに次ぐ次席。真面目で努力家だが、どこか抜けたところがあるあかりにライバル心を抱きつつ、その「直感」を密かに尊敬している。
* 東 凛 / 26歳・リーダー兼ガンナー
札幌センターきってのベテラン。冷静沈着で、吹雪の中でも動じない精神力を持つ。あと四年で定年を迎える自分に代わり、菊花を次代のリーダーとして育てようとしている。
* 本多瑠衣 / 23歳・ディフェンダー
おっとりとした性格だが、盾を構えると別人のように頑強な意志を見せる。寒さに強く、私服は常に薄着。
【寒冷地仕様の特殊兵装】
札幌センターの整備班は、凍てつく体内環境に対応するため、NLSと武器に独自のカスタマイズを施している。
* 高周波熱振動ブレード『ヒート・バイト』
ハミングバードの派生型。振動に加えて刀身を瞬時に摂氏800度まで加熱し、硬化したバルスの細胞壁を「溶かし切る」。
* 凍結論理弾ライフル『ウィンター・ジャッジメント』
ジャッジメントの寒冷地モデル。対象の熱運動を強制停止させる論理弾を放ち、活動を鈍らせた隙にハッキングを完了させる。
* 熱拡散多層盾『オーロラ・アイギス』
極低温下での動作不良を防ぐため、常に微弱な熱波を放射し続けるシールド。エリア・デストロイモードでは、周囲を急激に加熱・冷却することで、バルスを熱疲労で粉砕する。
二月の札幌。外は記録的な大雪に見舞われ、病院の窓を激しい地吹雪が叩いていた。
「患者搬送! 十歳の少年、重度の低体温症を併発。左心室に『クライオ・バルス』の巨大なコロニーを確認!」
コマンドドクターの声が響き、第四班がオペレーションルームに集結する。菊花は、ダイブ・スーツの端子を接続しながら、遠く離れた東京の空を思い出していた。
(あかり……。あなたは今、もっと大きな敵と戦っているんでしょうね。私も、負けていられない……!)
「菊花、集中しなさい。北のバルスは、一度噛み付いたら離さないわよ」
凛の鋭い声。菊花は思考を切り替え、深く息を吐く。
「北方第四班、ダイブ・エントリー!」
ダイブした先は、低体温症によって血流が滞り、まるで流氷の海と化した心臓内だった。
至る所に、氷の柱のように鋭く成長したバルスが突き刺さり、少年の鼓動を物理的に阻害している。
『菊花、右前方から氷結胞子が来るわ! 避けないで、瑠衣の裏へ!』
『了解! 凛さん!』
『任せて……。オーロラ・アイギス、サーマル・展開!』
瑠衣の盾から放たれた熱波が、飛来する氷の胞子を瞬時に蒸発させる。しかし、奥に潜む巨大なクイーン個体は、心壁に深く根を張り、少年の熱を奪い続けていた。
「硬い……。ハミングバードの出力が足りない!?」
菊花の『ヒート・バイト』がバルスの外郭を捉えるが、極低温の体液が瞬時に熱を奪い、刃が通らなくなる。
『落ち着いて、菊花。熱を一点に集中させるの。あかりが金沢で見せた、あの「一点突破」のイメージよ!』
凛の『ウィンター・ジャッジメント』が放った凍結弾が、バルスの関節部を固定します。その一瞬の隙に、菊花は全エネルギーを刀身に注ぎ込んだ。
「これで……溶けなさいッ!!」
高周波の絶叫と、蒸発する体液。
菊花の刃が、硬化した女王の核を真っ向から両断した。
体外に帰還した三人を迎えたのは、少年の心拍数が正常に戻ったことを告げる、穏やかなモニター音だった。
「お疲れ様。見事な連携だったわ、菊花」
凛が菊花の肩を叩きます。菊花は汗を拭いながら、少しだけ誇らしげに笑った。
「……あかりなら、もっと早く終わらせていたかもしれません。でも、この寒さの中では、私たちが最強です」
オペレーションルームの隅。そこには、第十三班と同じように作部屋一角を整理して作られた、小さなスペースがある。
遺影ではない。代わりに、そこには「いつか、バルスのない春をみんなで見よう」という、歴代の札幌センターのオペレーターたちが書き綴ってきた寄せ書きの旗が掲げられていた。
菊花は、端末からあかり宛に短いメッセージを送った。
『東京はどう? 札幌は今日も雪だけど、一人の男の子の春を守り抜いたわよ。……負けないからね、あかり。』
北の果て、氷の壁に囲まれた最前線。
そこには、東京の天才たちに負けない誇りと、厳しい冬を越えようとする乙女たちの熱き鼓動が、静かに、けれど力強く響き続けていた。




