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ミクロダイブ・エマージェンシー~第13微細医療班の処方箋~  作者: 白黒鯛
第7章 磨穿の輝き

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第55話 胎動

平穏という名の仮面が、無慈悲に剥がれ落ちる時が来た。

地下四階、第13班オペレーションルームに鳴り響く警報音は、かつての絶望を呼び覚ます不吉な旋律だった。


「患者搬送! 急げ、オペレーターは即座に換装チェンジだ!」


スピーカーから医療局スタッフの鋭い声が響く。

モニターに映し出されたのは、かつて精鋭揃いの第二班を壊滅に追い込み、あかりたちをも死の淵へと引きずり込んだ「見えない死神」――インビジブルの波形だった。


「ふん、ようやくお出ましだな。『透明インビジブル』か。今のガキ共にゃ、丁度いい準備運動だ」


凪はベッドに横たわったまま、欠伸混じりにそう吐き捨てた。だが、その瞳には獲物を待つ獣のような冷徹な光が宿っている。


「……行きましょう。私たちは、あの日の私たちじゃない」


リーダー沙也加の号令に、あかりと美穂が力強く頷く。



ダイブ・カプセルが閉鎖され、三人の意識は加速する。

仮想戦場:血流の迷宮

「ダイブ・エントリー! 敵影、未確認。……来ます、インびじぶるです!」

結衣の声がインカムに響く。だが、今回の結衣はただ叫ぶだけではない。彼女の手元のコンソールでは、あかりたちの脳波と脈動をミリ秒単位で解析し、バルスに悟られる前の「迷い」を打ち消す逆位相の信号が送り込まれていた。

「……捉えたわ」

あかりが静かに呟く。視覚的には何も存在しない空間。しかし、あかりの放つ『ハミング・ソナー』は、空間の僅かな密度の揺らぎを、黄金色の等高線として脳内に描き出していた。

「左前方十五度、距離二〇〇。……美穂さん!」

「任せて! アイギス・リフレクション!」

美穂が盾を構える。透明な衝撃が盾を叩いた瞬間、美穂はそのエネルギーを吸収し、倍の指向性衝撃波として正面に叩き返した。

――ギィィィィィィン!

虚空から、バルスの苦悶に満ちた高周波が漏れる。姿を露わにする強敵。

「ターゲット、固定ロック。……呼吸を、銃身に」

沙也加の『ジャッジメント』が火を吹いた。

かつての沙也加なら、見えない敵に焦り、弾丸を無駄に散らしていただろう。だが今の彼女は、桜井詩音から学んだ「殺気の制御」を体得していた。引き金を引くその一瞬まで、彼女の精神波形は凪のように静まり返っている。

――ドォォォォォン!

ナノマシン弾はインビジブルの核を、吸い込まれるように撃ち抜いた。

かつては数時間の死闘を強いた強敵が、わずか数分の連携で、塵となって消滅していく。

「オールクリア。……驚いた、一発も外さないなんて」

結衣の感嘆の声。三人のシンクロ率は、バルスが入り込む隙すら与えないほど完璧に調律されていた。

静寂の予兆

帰還した三人を迎えたのは、作戦室に漂う奇妙な達成感だった。

「……私たち、強くなったんですね」

美穂が自分の手を見つめる。かつては恐怖の象徴だったインビジブルを、これほどまでに圧倒できるとは。

「浮かれるな、マヌケ共」

凪の冷たい声が、熱気を一瞬で凍りつかせた。

「今のインびじぶる……。動きが単調すぎたとは思わなかったか?」

「え……?」

凪はメインモニターに、先ほどの戦闘データを引き出した。そこには、バルスが消滅する直前、不自然に「自身のデータを外部へ送信」していたログが残されていた。

「こいつは偵察機スカウトだ。お前たちの進化を、あいつら(バルバルス)は『学習』していやがる。……小康状態インターバルは、あいつらにとっても脱皮の時間だったってわけだ」

凪の指先が、東京湾沿岸の地図を指す。そこには、既存のどのカテゴリーにも属さない、巨大で禍々しい反応が急激に膨れ上がっていた。

「来るぞ。これまでの『野蛮人』が、お遊びに見えるほどの怪物がな」

作戦室の隅、静香の遺影の前に置かれた「押し花」が、警報の赤い光を受けて血のような色に染まっていた。

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