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ミクロダイブ・エマージェンシー~第13微細医療班の処方箋~  作者: 白黒鯛
第7章 磨穿の輝き

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第54話 結衣の決意

第1班との合同訓練を終え、オペレーションルームに戻ってきたあかりたちは、泥のように疲れ果てていた。


「……最強、か」


沙也加が呟き、痛む右腕をさする。

氷室礼たちの圧倒的な技量は、第13班に自分たちの「現在地」を突きつけた。静香の意志を継ぎたいという願い。しかし、それだけでは届かない絶対的な壁。

その3人の背中を、コンソールの前で静かに見つめる瞳があった。


看護師、結衣。

彼女には、あかりたちのような「同調因子シンクロファクター」はない。ダイブ・ポッドを使って患者の体内という戦場に立つことは、彼女の肉体には許されていない。


(私に、何ができるんだろう……)


結衣は、モニターに並ぶ膨大なバイタルデータを見つめた。

凪の隣で、指示に従い薬液を調合し、数値を読み上げる。それは看護師として正しい職務だ。だが、あかりたちが極限の戦いの中で流す冷や汗や、恐怖で乱れる心拍を一番近くで「見て」いるのは自分だ。


「先生……少し、いいですか」


結衣は、ベッドで目を閉じていた凪に声をかけた。


「なんだ。新型の羊羹でも見つけたか」


「いえ、そうじゃなくて……。オペレーターの精神波形メンタル・グラフのことです。これまでは、閾値を超えたらアラートを出すだけでしたけど、それじゃ遅いんです」


結衣は、自分が密かにまとめていたノートを凪の前に置いた。そこには、過去数十回のオペにおける、あかりたちの「感情の揺れ」と、それに対応する「バルスの反応」が克密に記録されていた。


「バルスは、オペレーターの恐怖や焦燥を『ノイズ』として感知して、そこを突いてきます。でも、その直前……ほんの数秒だけ、心拍計には出ない『予兆』があるんです。視線の震え、あるいは無意識の呼吸の浅さ……」


凪が薄目を開け、ノートを手に取った。


「……俯瞰して見ているからこそ気づく、現場の『歪み』か」


「はい。私は直接戦えません。でも、戦っている彼女たちが自分でも気づかない『心の隙間』を、モニター越しに先回りして埋めることはできるはずです。看護師として、彼女たちの精神のバイタルを……バルスに悟られる前に『調律』したいんです」


結衣の提案は、非戦闘員としての限界を認めた上での、執念に近い模索だった。


「……ふん。勝手にしろ。ただし、お前の『調律』が外れてガキ共がパニックになっても、俺は知らんぞ」


凪はそう吐き捨ててノートを投げ返したが、その言葉は結衣にとって、最高級の許可証だった。


「ありがとうございます、先生!」


結衣は即座に自分の端末に向かった。

彼女が開発しようとしているのは、オペレーターの脳波と心拍を解析し、バルスが攻撃を仕掛ける「隙」が生まれる前に、ダイブ・スーツの神経安定剤セダティブをコンマ数ミリグラム単位で自動投与、あるいはノイズを打ち消す周波数を送り込む支援システム。


「沙也加さん、美穂さん……。あかりちゃん。次は、私が守ります」


コンソールの青白い光に照らされた結衣の顔は、いつもの穏やかな看護師のそれではなく、戦場を支配する「第五の戦士」の決意に満ちていた。


その頃、凪のメインモニターには、一つの解析結果が弾き出されていた。

東京湾沿岸の廃工場地帯。そこから発せられるバルスの共鳴反応が、これまでの「個体」としての記録を無視し、一つの巨大な「意識」へと統合されつつある。


「……小康状態インターバルは終わりだ。チェックメイトを仕掛けてくるのは、どっちが先かな」


凪は、結衣が書き換えた最新の支援プログラムを、無言で全システムに同期させた。

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