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第3話:十三番目のメンバーたち

重い防音扉がゆっくりと開く。

あかりは、外の喧騒を背負ったまま「失礼します!」と威勢よく声を張り上げ、深く頭を下げた。

だが、期待していた「最前線の緊張感」は、そこにはなかった。

代わりに鼻先をくすぐったのは、殺菌臭でも電子機器の排熱でもなく、ふんわりと甘いダージリンの香りと、どこからか聞こえてくる規則正しい寝息だった。


「……あ。あなたが、今日から配属になる天宮あかりさん?」

顔を上げると、目の前に一人の女性が立っていた。

栗色の長い髪の、凛とした知的な雰囲気を纏う美女。彼女は片手に分厚い『微細医療オペレーション・マニュアル』を抱え、もう片方の手でホワイトボードに今日のスケジュールを熱心に記入していた。


「は、はい! 天宮あかりです! 国立オペレーター訓練学校をこの三月に卒業しました。精一杯頑張ります!」

あかりが軍隊のように直立不動で挨拶すると、彼女――早乙女沙也加は、少し困ったように眉を下げて、ふわりと微笑んだ。

「そんなに固くならなくて大丈夫よ。私はオペレートリーダーの早乙女沙也加。オペレーター歴4年目の22歳。第13班へようこそ。……本当は、もう少し歓迎らしい準備をしたかったのだけれど」

沙也加が視線を泳がせた先を、あかりも追った。


部屋の隅、無機質なコンソールデスクの隣に、そこだけ異世界から切り取ってきたようなアンティーク調のティーテーブルが置かれている。

そこでは、栗色の髪を揺らすオペレーターの如月美穂と、紺色のスクラブを着た看護師の佐藤結衣が、優雅にカップを傾けていた。

「あら、あなたが今日入った新人さん? 可愛い子ねぇ。私はオペレーターの如月美穂よ。沙也加ちゃんより年上だけど、オペレーター歴は同じ4年目の同期なの。よろしくねぇ」

「私は看護師の佐藤結衣です。今お茶淹れてあげるわね。美穂さんが持ってきた高級なやつなの」

いかにもゆるふわなお姉さんといった雰囲気の美穂が微笑み、見るからに出来る看護師といった趣の結衣が慣れた手つきで予備のカップを用意する。戦場の真っ只中とは思えない、あまりにも穏やかな午後のティータイム。

二人はこの班の中で同い年のため仲が良い。こうして時間ができれば一緒にお茶を飲んでいるのだ。

「え……あの、外では他の班が、あんなに必死に……」

「まあ、ここはあなたが加わって初めて班として始められるから……」

あかりが混乱気味に言うと、沙也加が苦笑しながら答えた。さらに部屋の奥にある簡易ベッドを指し示した。

「……そして、あそこで死んだように眠っているのが、私たちの担当医コマンドドクター、凪宗一郎先生よ」

そこには、寝癖を爆発させ、白衣を布団代わりに被った男が転がっていた。枕元には食べかけの羊羹が、まるで供え物のように置かれている。

「先生、新人さんが来ましたよ。起きてください」

沙也加がベッドに近づき、マニュアルの角で凪の肩をトントンと突く。

「……ん……。あと三秒……。羊羹の……皮が……」

「羊羹に皮はありません。ほら、起きてください!」

「……ふぁ……」

ようやく這い出してきた凪は、眠そうな目で、値踏みするようにあかりを見た。その瞳は、焦点が合っていないようでいて、あかりの骨格や筋肉の付き方まで見透かすような、奇妙な鋭さを秘めている。

「……天宮あかり、か。……三等身だな」

「えっ、三等身!? 18歳です、これでも!」

「身体能力は合格だが……思考回路が単調そうだ。訓練学校でも教本を無視した感覚的な行動をする傾向ありとの評価。まあいい」

凪は羊羹を一口齧ると、あかりを指差した。

「新人。最初の仕事だ。売店へ行って羊羹をもう一本買ってきてくれ」

圧倒されるあかりの横で、沙也加が「ごめんなさいね、変な人たちばかりで」と、そっと肩に手を置いてくれた。


ここが、私の戦場。

エリートの集う地下四階で、最も新しくて、最も型破りな、第13微細医療班の物語が動き出した。

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