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ミクロダイブ・エマージェンシー~第13微細医療班の処方箋~  作者: 白黒鯛
第4章 黄金の残り火

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第34話 北陸の静寂、東京の喧騒

金沢駅のホーム。

あかりたちは、見送りに来た美也子と向き合っていた。


「二週間、よく耐えましたね。正直、三日目あたりで『凪さんに泣きつきたい』と言い出すかと思っていました」


美也子はいつもの完璧な笑顔で、けれどその瞳には確かな温もりを宿してそう言った。


「……私たちこそ、美也子先生に教わりました。装備や才能に頼る前に、まず自分たちが『プロ』として何ができるか。それを忘れないようにします」


沙也加が真っ直ぐに美也子を見つめて答える。あかりの手には、家族との思い出と、大量の「お土産」が詰まった重いバッグが握られていた。


「さあ、帰りなさい。あんな性格の悪い男でも、あなたがたがいない間は少しばかり退屈そうにモニターを眺めていましたよ」


新幹線が動き出す。遠ざかる金沢の街並みを背に、あかりは自分たちの中に、以前よりも強固でしなやかな「軸」が通ったことを確信していた。


数時間後。

あかりたちが辿り着いたのは、懐かしくも冷たい空気の漂う、国立バルス研究センター(NBRC)附属病院の地下四階――微細医療局フロアの片隅にある第13班のオペレーションルームだった。

ドアが開いた瞬間、彼女たちの目に飛び込んできたのは、「戦後」のような惨状だった。


「……あ……みんな……」


ソファに力なく沈み込んでいた結衣が、幽霊のような足取りで這い寄ってくる。その顔は土気色で、目の下には凄まじいクマが刻まれていた。


「結衣さん!? どうしたの、その顔……!」


あかりが慌てて結衣のそばへ駆け寄った。


「先生が……先生が、あの後すぐに新しい論文の着想を得たとかで……。この二週間、三時間以上寝かせてもらえなかったの……。『お守り』っていうか、これ、ただの強制労働だよぉ……」


結衣はあかりの腕に縋り付くと、そのまま魂が抜けたように「カニ……食べたかった……」と呟いて動かなくなった。


「――おい。公共の場で死体を作るな。邪魔だ」


部屋の奥、山積みの電子書籍と空の羊羹の山から、聞き慣れた、けれど死ぬほど不機嫌な声が響いた。

凪宗一郎は、二週間前と全く同じ姿勢でベッドに腰掛け、新しい羊羹を口に放り込んだところだった。しかし、その瞳はモニターに映る「金沢でのオペ記録」を、ミリ秒単位で精査しているのをあかりは見逃さなかった。


「先生、ただいま戻りました」


リーダーの沙也加が告げると、凪は鼻で笑った。


「井口の女狐に、たっぷり毒を盛られたようだな。……『普通』だの『効率』だの、あいつの説教臭い理論が顔に出ている。ヘドが出るほど退屈なデータだったぞ」


「……でも、最後まで見てくださったんですね」


沙也加の鋭いツッコミに、凪は一瞬だけ口を止め、すぐに不遜な態度に戻った。


「バカか。お前たちが地方の安酒に酔って、腕を鈍らせていないか確認しただけだ。……まあ、美也子の奴も、相変わらず無駄に丁寧な仕事をしやがる」


凪は手元のタブレットを放り投げると、あかりたちを真っ直ぐに見た。


「結衣、起きろ。いつまで寝ている。……第13班、全員揃ったな。明日からまた、東京の『異常』な日常に戻るぞ。あかり、そのバッグの中身……まさか、あんころ餅を忘れたわけじゃないだろうな?」


「あ……はい! 結衣さんの分も、先生の分も、ちゃんとあります!」


「ならいい。……お疲れさん、と言いたいところだが、溜まっていた症例が山積みだ。着替えてこい」


ぶっきらぼうな、けれど彼なりの「歓迎」の言葉。

結衣は「あんころ餅」という単語に反応して奇跡的な復活を遂げ、美穂は微笑み、沙也加は既に次の戦いを見据えて背筋を伸ばしていた。


金沢で学んだ「普通」という強さ。

それを持って、彼女たちは再び、天才の隣で「異常」な深淵へとダイブする。

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