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ミクロダイブ・エマージェンシー~第13微細医療班の処方箋~  作者: 白黒鯛
第4章 黄金の残り火

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第33話 バックアップの真髄

休日が終わり、再び研修に戻った三人を待っていたのは、静かな、けれど張り詰めた緊張感だった。


「……バイタル低下。侵食箇所は左肺動脈、分岐点付近。これより緊急オペを開始します」


美也子の落ち着いた声がスピーカーから響く。

モニターに映し出されたのは、複雑に絡み合う血管の迷宮。そこには、地元・金沢の伝統工芸職人の男性が、バルスに蝕まれ横たわっていた。


「第13班、ダイブ・エントリー」


あかりたちは東京で使用している設備より少し古いが手入れの行き届いたダイブ・ポッドに身を預けた。

視界が急速に縮小し、赤黒い血管の世界へと潜行していく。


「……っ、ノイズがひどい。センサーの解像度が東京の半分以下だわ」


ハミングバードを構えたあかりが、困惑の声を漏らした。東京の最新設備なら、敵のコアまで透けて見えるはずの距離だが、ここでは輪郭さえも滲んでいる。


「焦らないで、あかりさん。美穂さんは右前方の血流を盾で抑えて。沙也加さんは第4センサーの情報を再構築して、あかりさんの視界を補完してください」


美也子の指示は、凪のように「未来を予言する」ものではない。今あるリソースをどう組み合わせれば欠陥を埋められるか、という泥臭い積み上げだ。


「ハミングバードの出力を30%に抑制!?……そんな、それではバルスの外殻を貫けません!」


「いいえ。その出力なら、ナノ粒子を消費せずに『共鳴波』だけを維持できるわ。沙也加さん、その波紋をガイドにして、弾丸をスリットに流し込んで」


「了解……! やってみせるわ」


沙也加が放った弾丸は、あかりの剣が立てた微かな振動の「隙間」を縫うようにして、敵の急所に突き刺さった。凪のような華々しい一撃ではない。けれど、それは三人の技術が完璧に噛み合った、精密な連係の結果だった。


オペの合間、モニター越しに美也子が静かに語りかけてきた。


「……あかりさん、凪さんは以前言っていました。『才能のない奴にできる唯一のことは、他人の邪魔をしない程度に自分を磨くことだ』とね」


あかりは、剣を振るう手を止めずに耳を傾ける。


「当時の私は、その言葉を『辞めろ』という拒絶だと受け止めた。あの頃は凪さんもまだ医学部の学生。でも既にバルス研究と微細医療の分野で天才と注目されていた人だからやたら偉そうで、私は何様だと反発もした。でも、医者になって気づいたんです。彼は、自分の隣に立てない人間が、戦場で無駄に死ぬのを嫌っただけなのだと。……彼にとっての優しさは、残酷なまでに正しい場所へ人を導くことでした」


美也子の声には、十年前の傷跡が、今は誇り高い勲章に変わったような響きがあった。


「私はあの日、彼に救われたんです。オペレーターとしては三流だった私が、指揮官としてあなたたちのような一流を支える道があるのだと、あの一言で気づかされた」


「……先生が、そんなことを」


あかりの胸に、東京で不機嫌そうに羊羹を齧る凪の姿が浮かんだ。


「第13班、最終局面ラストフェーズよ。最新装備がなくても、天才がいなくても、あなたたちには互いの『声』がある。それを信じて」


美也子の号令とともに、三人は動いた。

沙也加が死角を埋め、美穂が最小限のエネルギーで衝撃を逸らし、あかりが「確実に」核を捉える。

凪の「直感」という魔法に頼らず、自分たちの意志と技術だけで組み上げた、完璧な三角形。


「ターゲット、完全消滅。……お疲れ様。見事なオペでした」


美也子の穏やかな声に、あかりたちは深い安堵とともに、かつてない達成感を味わっていた。

天才のいない戦場で、彼女たちは「自分たち自身で歩く」ための、真のバックアップの真髄を学んだのだ。

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