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ミクロダイブ・エマージェンシー~第13微細医療班の処方箋~  作者: 白黒鯛
第4章 黄金の残り火

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第31話:「普通」という名の技術

国立金沢微細医療センターの内部は、歴史を感じさせる外観とは異なり、最新の清潔感に満ちていた。

しかし、オペレーションルームへ向かう廊下を歩きながら、あかりは東京の病院では感じたことのない「奇妙な静けさ」に違和感を覚えた。


「……人が、少ないですね」


あかりの独り言に、前を歩く美也子が足を止めずに答えた。


「気づきましたか。鋭いですね。ここ、金沢微細医療センターには現在、6班18人のオペレーターしか在籍していません。もちろん、全班が常に稼働しているわけではありませんから、実際に勤務に就いているのはそれ以下です」


「えっ……たった、それだけなんですか?」


沙也加が驚きを隠せずに声を上げた。

あかりたちが所属する国立バルス研究センター附属病院には、13班ものオペレーターチームが揃っている。しかも、東京には他にも二つの微細医療指定病院があり、さらに自衛隊の微細医療部隊まで控えているのだ。常時100人前後のオペレーターたちで首都圏をバルスの脅威から守護している。それでもなお、オペレーターの不足が問題となっているのだが……。


「ええ。その18人で、石川、富山、福井――北陸三県全域のバルスの脅威をカバーしています。一人でも欠ければシフトが崩壊する、綱渡りの毎日ですよ」


美也子がカードキーをかざし、重厚な扉が開く。そこには東京で見慣れたものと同型のミクロダイブ用のダイブ・ポッドが並んでいた。しかし、よく見るといくつかの筐体には『調整中』の札が下げられ、配線が露出している。


「ミクロダイブの設備自体は、国からの予算で東京と同じ最新型が導入されています。問題はその先。……メンテナンスエンジニアの巡回は月に一度。交換部品の納入は、東京なら即日ですが、ここでは雪が降れば一週間止まることも珍しくありません」


美也子はコンソールの一台を愛おしそうに撫でた。


「資材、ダイブ・フルード(縮小媒介液)、すべてが有限。東京のように『物量で押し潰す』戦術はここでは通用しません。一発の弾丸、一回の加速……そのすべてに、文字通りの『コスト』が発生します」


「……私たちの環境が、どれだけ恵まれていたか、考えたこともありませんでした」


美穂が沈痛な面持ちで呟く。


東京では、凪が「予備を全部持ってこい」と叫べば、数分後には最高の資材が補充されていた。それが当たり前だと思っていた日常が、実は砂上の楼閣のような特権だったのだ。


美也子は三人を振り返り、その瞳に静かな、けれど厳しい光を宿した。


「地方の病院に凪宗一郎のような天才は現れません。現れたとしても、彼のような劇薬を使いこなせる体制がない。だからこそ、私たちは『普通』を極めるしかないんです」


「『普通』を、極める……」


「ええ。限られた資材、限られた人員。その中で、誰が指揮を執っても、誰がダイブしても、常に80点以上の結果を出し続ける。一人の天才の120点ではなく、チーム全員の安定した80点で地域を守る。それが、地方の微細医療の矜持です」


美也子の言葉は、凪の罵倒よりも重く、あかりたちの胸に突き刺さった。


「あなたたちにはこの二週間、私の指示に従ってもらいます。凪さんのような神懸かり的な閃きはありません。すべてはデータに基づき、最もリスクが低く、最も資材消費の少ないルートを辿る『退屈なオペ』です」


美也子はそこで一度言葉を切り、少しだけ茶目っ気のある笑みを浮かべた。


「……耐えられますか? 東京育ちのお嬢様方」


「もちろんです」


沙也加が代表して答える。その声には、未知の戦い方に対する緊張と、それを吸収しようとする貪欲な意志がこもっていた。

あかりは、熱を帯び始めたコンソールを見つめながら思った。

天才・凪宗一郎がいないこの場所で、自分たちは何を「自分の力」として持ち帰れるのか。金沢の重い空気が、今は心地よいプレッシャーに感じられた。

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