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ミクロダイブ・エマージェンシー~第13微細医療班の処方箋~  作者: 白黒鯛
第4章 黄金の残り火

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第29話:加賀への招待状

インビジブルとの死闘から一週間。

微細医療局内の第13班オペレーションルームには、勝利の熱狂を洗い流した後のような、平坦な時間が流れていた。


「……研修、ですか?」


あかりは、凪から放り投げられたタブレットを受け止め、画面を覗き込んだ。

そこには、金沢市にある「国立北陸微細医療センター」への研修派遣通知が表示されている。


「そうだ。東京と地方の格差是正の一貫としてな。期間は二週間。メンバーは第13班のオペレーター三人だ」


凪はベッドに寝そべり、天井を見上げたまま欠伸を噛み殺す。


「金沢……。私の、地元です」


あかりの胸が、期待に小さく弾んだ。故郷の風、石畳の街並み、そして実家の匂い。過酷な戦いが続いていただけに、その提案はあまりに甘美な響きを持っていた。


「いいじゃない、あかりちゃん! 私、金沢って一度行ってみたかったの。加賀料理にいろんなお菓子は美味しいし、工芸品も素敵よね」


美穂がふわりと微笑み、沙也加も「地方の医療現場を直に見るのも、経験としては悪くないわね」と、口にした内容に反してどこか楽しげに頷いた。


「あー……。先生、もちろん先生も一緒に行くんですよね?」


期待に目を輝かせた結衣が身を乗り出す。彼女の脳内にはすでに「加賀料理のフルコース」と「季節限定の生菓子」のリストが展開されているようだった。

だが、凪の返答は無慈悲だった。


「行くわけないだろ。そんな時間の無駄、誰が行くか。俺は居残りだ」


「ええっ!? そんな! 先生がいないと、もし何かあった時に……」


「俺がいなくても上手くやるための研修だぞ」


凪は面倒くさそうに視線を向けた。


「こいつらが向こうで羽を伸ばしすぎて脳みそを溶かさないよう、俺はここからモニターする。で、結衣。お前も残って俺の食事とバイタル管理、それに溜まっている報告の整理をしろ。看護師なんだからそれくらいやって当然だろ?いいな」


「えええーっ!?そんなぁ……。治部煮じぶに……カニ……あんころ餅……」


凪の惨すぎる命令に崩れ落ちる結衣。その姿は、今にもバルバルスデッド化しそうなほどの絶望に染まっている。


「……泣くな、結衣さん。私、絶対にお土産たくさん買ってくるから! 配送制限ギリギリまで詰め込むからね!」


あかりが必死に慰める横で、凪は「甘いものは一日に羊羹二本分までだぞ」と釘を刺すのを忘れなかった。


「で、……お前たち。一つ言っておく」


三人が荷造りのために部屋を出ようとした時、凪のトーンがわずかに変わった。


「そこのセンターには、井口という女医がいる。……昔、俺がオペレーターとしての引導を渡した女だ」


あかりは足を止めた。凪の口から、かつての知人の名が出るのは珍しい。


「引導……ですか?」


「オペレーターとしては三流以下だったが、理屈をこね回すのだけは一人前だった。……まあ、お前たちのような『直感頼みの野蛮人』には、良い教育係になるだろうよ」


凪はそれ以上何も語らず、手元の羊羹を口に放り込んだ。


二日後。

あかりたちは、泣きべそをかく結衣と、欠伸をしながら見送る凪を残し、東京駅へと向かった。

新幹線の窓の外、流れる景色が都会の灰色から鮮やかな緑へと変わっていく。あかりはバッグの中で小さく震える端末を見つめた。


『あかりちゃん、気をつけてね。それから……あんころ餅、絶対に忘れないで(血涙)』


結衣からの切実なメッセージに苦笑しながら、あかりは故郷の空を思った。


天才・凪宗一郎のいない、二週間の物語。

それが、自分たちに何をもたらすのか。この時のあかりは、まだ知る由もなかった。

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