第2話:地下四階の戦場
「……っ!」
エレベーターの扉が開いた瞬間、あかりの鼓膜を震わせたのは、地上の病院ではあり得ない「轟音」だった。
怒号に近い指示、無数に重なり合う警告音、そして大型サーバーが発する凄まじい排熱。そこは清潔な医局などではなく、鉄と電子の匂いが充満する「戦場」そのものだった。
「第4班、代謝限界まであと10分! リターンを急がせろ!」
「5番ポッド、粒子加速器の出力不安定! 誰か整備班を呼んでこい!」
通路を走り抜けるスタッフたちの顔には、一分一秒を争う者の緊迫感が張り付いている。
フロアの構造は、中心のメイン通路から放射状に12の重厚なハッチが並ぶ円環構造になっていた。
第1微細医療班から第12微細医療班。
それぞれの扉の先には、独立したオペレーションルームが存在し、二十四時間休むことなく人類の生存を懸けた防衛戦が繰り広げられているのだ。
(これが……微細医療の、バルスとの最前線……)
あかりは、壁際に身を寄せて立ち尽くした。
あるハッチからは、オペレーションを終え、汗だくでダイブスーツを脱ぎかけながら疲弊しきった顔で出てくるチームが見えた。また別のハッチの前では、これからバルスに挑むであろう班が、祈るように互いの肩を叩き合っている。
二十四時間を三交代のシフトで常に四つの医療班がバルスの脅威に備えている。
世界が寝静まっている間も、この地下深くでは、彼女たちの命をチップにした博打のような救命劇が繰り返されているのだ。
あかりは震える手で、支給された端末のマップを開いた。
配属先は、第13微細医療班。
12班体制からさらにこの春に加わる新戦力。
だが、フロアのメインエリアを見渡しても、既存の12番までの数字しか見当たらない。
(13班は……どこ?)
戸惑いながらマップの指示に従い、あかりはフロアの一番奥、資材置き場のさらに先にある、人影の途絶えた通路へと足を進めた。
そこには、他の班のような立派な自動ドアではなく、古びた手動式の重い防音扉があった。かつては予備の機材置き場か、シミュレーション用の訓練室として使われていたのであろう、孤立した一室。
扉の上には、手書きのようなプレートで『第13微細医療班』とだけ掲げられている。
他の班の喧騒が、遠い嵐の音のようにかすかに聞こえるだけの、静まり返った通路。
ここが、新設されたばかりの「13番目」の居場所。
あかりは、スーツの裾を一度だけ強く引っ張って整え、覚悟を決めてその扉の前に立った。
これから出会うのは、自分と同じように、この戦場を生き抜く誇り高きエリートたちなのだ。
(失礼のないように、挨拶しなきゃ。国立訓練学校卒業、天宮あかり。精一杯頑張りますって……!)
ゴクリ、と唾を飲み込み、あかりは冷たい金属の感触を拳に感じながら、その扉を三回、力強くノックした。
そして、ゆっくりと重い扉を押し開く。
その先に待っているのが、これまでの常識をすべて根底から覆すような、脱力と混沌の空間であるとは露ほども疑わずに。




