第24話:インビジブルの罠
「捉えたわ!」
沙也加が放ったペイント・ロジックが虚空で炸裂し、光り輝くナノ粒子が敵の輪郭を鮮明に描き出す。そこに現れたのは、カマキリのような鋭利な鎌と、蜘蛛のような多脚を持つ、全長数ミリ(ナノサイズ換算では数メートル級)の異形だった。
「これなら……見える!」
あかりがハミングバードを振りかぶり、光り輝く敵へと突進する。しかし、その瞬間、凪の警告が通信機を叩いた。
「待て、あかり! 引け!」
「えっ……!?」
次の瞬間、驚くべき光景が広がった。インビジブルの全身を覆っていた「光る外殻」が、まるで行灯の火を消すように、一斉に剥がれ落ちたのだ。
「粒子を……パージした!?」
結衣の悲鳴に近い声がオペレーションルームに響く。
敵は自らの表皮をナノ単位で高速剥離させることで、付着した発光粒子を強制的に排除したのだ。再び「無」へと還ったインビジブル。だが、あかりはすでに攻撃の姿勢に入っており、防御が間に合わない。
「させないわ!」
横から割り込んだのは美穂だった。大盾「アイギス」を構え、あかりを背後に隠す。
ガキィィィィィィン!!
目に見えない重厚な衝撃がアイギスを襲い、火花が散る。
「美穂さん!」
「大丈夫……でも、この子、さっきよりも攻撃が速くなってる……!」
美穂の腕が、衝撃で激しく震えていた。
インビジブルは姿を消したまま、執拗に美穂の盾を叩き続ける。しかも、その攻撃は一点に集中せず、物理法則を無視したような角度から飛んできた。
「見えないのをいいことに、死角から……! 卑怯よ!」
結衣がモニターを睨みつけ、必死にデータのノイズを除去しようとする。
「ダメ、先生! 敵の機動性がこちらの予測計算を上回っています! このままじゃ美穂さんのシールド・エネルギーが持ちません!」
凪はモニターを見つめたまま、指を組み、冷徹に現状を分析していた。
「……奴は学習している。ペイント弾の着弾タイミング、美穂の盾の有効範囲、そしてあかりの踏み込み。第13班の『癖』を、不可視の優位性を保ったまま読み取っているんだ」
「あ……がっ……!」
突如、美穂が苦悶の声を上げた。
盾で防いでいたはずの正面ではなく、真横の「何もない空間」から、見えない刃が彼女の肩を浅く切り裂いたのだ。
「美穂さん!」
「……平気よ。かすっただけ……。でも、どうして? 盾のセンサーには反応がなかったのに……」
「反射だ」
凪が低く答える。
「奴は体内の組織壁にわざと自分の鎌を突き立て、その『振動の反射』で美穂の盾の裏側を突いた。……知能がある。このバルス、狩りを楽しんでやがる」
ペイント・ロジックは対策され、最強の盾すら突破され始めている。
暗闇と沈黙が支配するルナの体内で、第13班は自分たちの命の火が、一吹きで消されるのを待つ獲物のような錯覚に陥っていた。
「……あかり」
凪の声が、あかりの脳内に直接届く。
「氷室との訓練を思い出せ。お前の武器は『目』じゃないはずだ」
あかりは、震える手でハミングバードの柄を握り直した。
肩を貸してくれた美穂の温もり、必死に情報を送ってくれる結衣の叫び、そして引き金を引く機会をじっと待つ沙也加の呼吸。
「……はい、先生。私、自分の『ノイズ』で、あいつを炙り出してみせます」
あかりの瞳に、不屈の光が宿った。




