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ミクロダイブ・エマージェンシー~第13微細医療班の処方箋~  作者: 白黒鯛
第3章 深淵の眼差し

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第22話:凪の処方箋(マーキング・プラン)

「……先生、これ、何ですか? 医療機器……には見えませんけど」


第13班の装備換装室。沙也加が目の前に置かれた巨大な円筒形のコンテナを指差して、怪訝な表情を浮かべた。

そこには、国立バルス研究センター技術開発局の封印スタンプが、まだ新しいインクの匂いを漂わせて押されている。


「対インビジブル用特殊ナノ粒子散布弾、『ペイント・ロジック』だ」


凪は目の下に深いクマを作りながら、眠そうに答えた。


「俺は技術局の連中に数えきれないほど貸しがあってな。少し強めに頼んだら急いで作ってきた。突貫作業だったが性能だけは保証してやる」


凪がタブレットを操作すると、ペイント・ロジックの構造図が展開された。


「インビジブルの光学迷彩は、外部からの光を完璧に透過・屈折させる。だが、そいつの体内に直接『発光する異物』を流し込めばどうなる?」


「……中から光って、輪郭が浮き出るってことですか?」


あかりの問いに、凪は不敵に頷く。


「そうだ。だが、バルスの免疫システムは異常に早い。散布したナノ粒子は、付着した瞬間に分解されるか、奴が外殻をパージすることで無効化される。視認できる時間は、最大で120秒。……一分二分で、奴のコアを正確にブチ抜く必要がある」


沙也加の表情が引き締まる。このプランの成否は、初撃で粒子を浴びせる「射手」である彼女の精密さと、そこからの波状攻撃にすべてがかかっている。


それから数日、インビジブルは不気味なほどに鳴りを潜めていた。

他班のオペも順調に進み、一見すると病院には平穏が戻ったかのように見えた。だが、それが「捕食者が獲物を品定めしている時間」であることを、第13班の誰もが直感していた。


シミュレーションルームでは、連日「120秒の限界戦闘」が繰り返されていた。


「沙也加さん、左斜め後方! 粒子反応消滅まであと15秒!」


「わかってる、逃がさない……!」


美穂の盾が仮想敵の突進を弾き、その瞬間に沙也加がペイント弾を撃ち込む。緑色の光に縁取られた「見えない敵」に対し、あかりのハミングバードが咆哮を上げる。


「……4秒遅い。やり直しだ」


凪の容赦ない声が響く。


「……はぁ、はぁ……っ。先生、厳しすぎません……?」


結衣が肩で息をしながら文句を言うが、凪は視線をモニターから外さない。


「実戦では、奴はシミュレーションの十倍は狡猾だ。一瞬の迷いが死に直結する。……いいか、お前たちの『絆』なんていう曖昧なものを、俺は信じない。俺が信じるのは、極限状態で最適解を叩き出す、お前たちの『研ぎ澄まされた反射』だけだ」


ぶっきらぼうな言い方だが、それが凪なりの激励であることを、彼女たちは知っていた。

自分たちに託された、最高に無茶で、最高に緻密な処方箋。

その「時」が来るのを、彼女たちは静かに、けれど熱く待ち続けていた。

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