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ミクロダイブ・エマージェンシー~第13微細医療班の処方箋~  作者: 白黒鯛
第2章 鋼の旋律、乙女の絆

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第17話:アイギスの咆哮

第13班は、あの日以来、病院内での評価を劇的に変えていた。

「実力未知数の新規チーム」から「死の淵から生還させる切り札」へ。

連日のオペを鮮やかに完遂し、あかりの剣技も、沙也加の精密射撃も、その精度を増していた。

だが、この日の緊急要請オーダーは、いつもと空気が違った。


「美穂さん……?」


あかりが声をかけると、メインモニターを見つめる如月美穂の背中が、微かに、けれど激しく震えていた。

運び込まれたのは、一人の女性患者。搬送データの氏名欄を見た瞬間、美穂の時間が止まった。


「佐倉、奈緒……」


奈緒は、美穂の友人だった。

高卒で国立オペレーター訓練学校に入った美穂は、中学卒業から訓練学校に入るオペレーターが多いこの世界では珍しい経歴の持ち主だ。

高校在学中に「同調因子」の保持が判明した際、周囲が「命を懸けるなんて」「特別な人間の仕事だ」と反対する中、唯一「美穂なら、その力でたくさんの人を救えるよ」と笑って背中を押してくれたのが、奈緒だった。


「凪先生!!」


美穂が叫んだ。いつもの穏やかなお姉さんの面影はない。


「第5班が担当する予定の彼女を、私に……第13班に任せてください! お願いします、あの子を……奈緒を、私の手で救わせて!」


「……美穂、落ち着け。私情でダイブ枠を奪うのは規律違反だ」


凪はいつになく真剣な表情で、美穂を見据えた。


「規律なんてどうでもいい! 彼女がいたから、私はここにいるんです! 私の全てを懸けて、彼女を守らせてください!」


美穂の瞳に宿ったのは、燃えるような執念だった。凪は一度だけ溜息をつき、端末を操作した。


「……第5班には、俺から『機材トラブルで13班が代行する』と伝えておく。美穂、失敗すればお前はライセンス剥奪だぞ。……行くか、沙也加、あかり」


「もちろんです!」


「美穂さんのためなら、どこへでも!」


---


『各員、ダイブ。ターゲットは脊髄神経叢。……侵食率、85%。時間がないぞ』


凪の合図と共に、美穂たちは奈緒の体内へと潜行した。

そこに広がっていたのは、親友の身体を内側から食い荒らす、無数のバルスの軍勢。脊髄という繊細な場所に、巨大な「砦」が築かれていた。


『あらあら……私の大事な友達に、何てことしてくれるのかしら』


美穂の声が、冷たく、深く、神経を逆撫でするような重低音を帯びた。

バルスの大群が、侵入者を排除しようと一斉に牙を剥く。


「美穂さん、援護を……!」


「いいえ、あかりちゃん。あなたはコアだけを見ていて」


美穂が巨大な盾『アイギス』を前面に展開した。

だが、その使い方はこれまでとは全く違っていた。


「私の友人を傷つけた罪……その身で、あがないなさい」


美穂はアイギスを構えたまま、回避することなくバルスの真っ只中へと突進した。

数千、数万のバルスがアイギスの表面を腐食させようと群がる。しかし、美穂の怒りに呼応するように、盾のナノマシン層が狂気的な密度で圧縮されていく。


『――エリア・デストロイ、リミッター解除。共鳴周波数、最大固定』


ドォォォォォォォンッ!!!


盾の中央部から放たれたのは、もはや音響兵器という生易しいものではなかった。

脊髄の神経を完璧に保護しつつ、その外側にいるバルス「だけ」を分子レベルで霧散させる、指向性の破壊波動。


「……消えなさい」


盾が唸りを上げるたび、バルスの軍勢が、まるで巨人に踏み潰された虫のように無造作に、一瞬で消滅していく。

その圧倒的な破壊力、一切の攻撃を通さない鉄壁の意志。

それは、仲間を守るための「聖域」であり、敵を塵に帰す「断頭台」だった。


『……こいつは驚いた。美穂のやつ、シンクロ率が100%に張り付いてやがる』


凪の驚嘆の声が聞こえる中、美穂が切り開いた「無」の空間を、あかりが駆け抜けた。

無防備になったコアを一閃。

奈緒を蝕んでいた闇が、美穂の咆哮と共に完全に消え去った。


---


リターン後。

美穂はポッドから出ると、そのまま廊下のベンチに座り込み、顔を覆って泣いた。

それは親友を救えた安堵と、かつて自分を励ましてくれた言葉への、精一杯の返礼だった。


「……美穂さん、お疲れ様です」


あかりがそっと肩にタオルをかける。

美穂は少しだけ顔を上げ、いつもの穏やかな、けれどどこか一段と強くなった微笑みを浮かべた。


「ありがとう、あかりちゃん。……私、この盾で、もっともっと、大切なものを守っていくわ」


これが、後に「第13班の最恐の盾」として語り継がれる、如月美穂の真の覚醒だった。

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