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少子化対策八畳敷き。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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ショウシキュウの秘密・3


 とはいえ。


 若い者が自由の効かない実家から飛び出て一人暮らしを始めればはっちゃけるのは当たり前のこと。


 前にも言いました通り匠海はその土地でも評判だった美しい青年。ひとたび街に出れば相手には事欠かない。人間モテるといい気になるもので、特定の相手は作らず昨日はあの人今日はこの人と、選び放題遊んでおりました。


 さりとて父の小言を忘れたわけではございません。きちんと性病予防、その実避妊のコンドームは欠かさず、自称安心安全なアバンチュールを楽しんでおりました。



 特定の恋人が欲しくなかったわけではございません。心の中には筋肉質でがっしりしてる人とか、背は自分より高い人とか、顔は堀が深くて笑うと目が蕩けそうになる人とか、それなりに好みはあったわけです。芸能人で言うならあの人、あ、あの人芸能人じゃないやスポーツ選手だ、とかね。まあ、でも好みのタイプに遠からずな色男は世の中にたくさんいたわけで、あれこれ摘まんでいけばそのうち本命にぶち当たるかもと思っていたわけです。


 そして見事ぶち当たった。


 匠海より少々背は低いが一般男性の中ではまあまあ長身な方。品のいいスーツを着こなし、大人の色香が漂う。自分のような子供など遊び相手にしかならないだろうとは思いつつ、とりあえず摘まんでみようと手を出したところ、まんまと匠海の方が嵌ってしまった。


 嵌ってしまってから気づく。見た目でもセックスでもなく、金でもなく。匠海がただひとつ相手に望んでいたことを。




「ちょ……!俺が妊娠したらどうするんだよ……」


 甘く凶暴な杭に貫かれながら甘えるように訴えると、その男は笑いながら優しく匠海を抱き締めた。


「そんな可愛いベビーが生まれたら一緒に育てるに決まってるだろ」


 そして「結婚するぞ!できちゃった結婚するぞ!」と言いながら散々匠海を揺さぶり尽くした。


 楽しくも下品なそのさまに笑いながら匠海も男も何度も果てた。


 結婚するならちゃんとお付き合いから始めないと言われた。


 子供が出来たら「お父さんたちはこんなところでデートしたんだぞって自慢してやらなきゃいけないから」とデートも繰り返した。


 白昼堂々腕も組んだし手も握った。


「妊娠しそう」は大概の男たちにセックスの最中のただの睦言と思われた。


『結婚』なんて誰もが夢物語と鼻で嗤っていた。


 匠海自身そう思っていた。父から話を聞くまでは。祖父と亡くなったもうひとりの祖父の話を聞くまでは。



「本当に結婚なんてできると思ってんの?」


 あまりに自然に優しくしてくれる男に、怖くなって聞いたことがある。諦めたように嗤う匠海に、男はいつもと変わらぬ落ち着いた笑顔を見せた。鍛え上げられた大きな身体のわりに、この男の笑顔は本当に優しくて愛らしい。


「法律はいつか変わるよ」


 やるせなくて匠海は顔をしかめる。


「男は妊娠なんてできないよ」


「あれ。生んでくれるんじゃなかったの?」


 笑う男に匠海はドキリとする。


 男は匠海の顔に顔を寄せる。


「じゃあ、匠海の代わりに俺が生むよ」


 匠海が目を見開いて男をみつめると、男は声を上げて笑った。


「ペンギンのオスの番に、育児放棄された卵を渡したら見事孵化させた事例があるんだ。うちも大人の手を必要とする子を預かって育てればいい」


『うち』という言葉に匠海は泣きそうになる。泣きそうな匠海の薬指に男は「ベタだけど」と笑いながら指輪をはめた。



 男との夜は果てが無い。揺すられても、ただ抱き合うだけでも暖かい。お互いの存在を両手で確かめ唇で感じる。どれだけ愛し合っても愛し足りない。


「匠海が無理なら俺が妊娠しようか?」


 いたずらっぽく笑う男に匠海はどすんとのしかかる。ふたりで笑いながらずっとずっと愛し合う。この先も、ずっとふたりで。もしかしたら、うまくすれば、運が良ければ、もうひとり。あるいはふたり。



 そして匠海は運が良かった。





 妙な倦怠感が続いていた。もともと身体は丈夫な方だったしただの疲れだろうと思っていたが、心なしか睾丸も腫れている。まさかという思いに暗澹となった。


 せっかく出会えた理想のパートナーだった。


 だからこんな事で別れるなどと言い出す彼ではないと信じたい。こんな事でふたりの関係を終わらせたりするはずがない。


 だが彼は若い。彼には長い未来がある。こんなことになった自分など見限って、新しいパートナーを見つけて幸せな人生を送ってもらうべきなのではないか。


 相反する気持ちに圧し潰されそうになり、胸を押さえる。


 選ぶのは彼だ。事実を聞いて、これからの人生を決めるのは彼自身だ。自分が決めつける事ではない。


 決心したつもりでも、最後になるかもしれない逢瀬は辛い。言い淀む自分を不安げに見つめてくる彼の手に手を重ねる。重い口を開くと、彼はたちまち眉を顰めた。


「……病院には……?」


「……まだ……」


 ゆるく振られる頭を見つめながら、彼は存外しっかりとした口調だった。


「それ、妊娠してるんじゃない?」


「……は?」


 一瞬、いや、三瞬ぐらい何を言われているのかわからなくて間の抜けた返事をした。


「ちょっと待って」


 彼はスマホを取り出すと即座に通話した。


「あ、もしもし。父さん?おじいちゃんが父さん生んだ病院教えてくれる?」


 目が点になっているその人の前で、彼はごく真剣に話し始めた。しかしスマホの向こうからは画面が割れそうな怒鳴り声が聞こえてきた。


『匠海ーー!!あれほどちゃんと気をつけなさいって言ったでしょうがーーーー!!!!』


 彼は離したスマホをもう一度耳に当てると、落ち着いて、かつ急いで言った。


「俺じゃないって!恋人!俺の恋人が……」


『おま……!なんだかんだ女の子にまで……!』


「違う!男に決まってるだろ!」


『なっ!?えっ!?のっ!?お前じゃないの!?』


 ひっくり返ってつんのめった声が2秒ほど静かになったと思ったら、ひときわ大きな怒鳴り声が響いて来た。


『どっちにしろ避妊の怠慢だボケーーーー!!!』


 耳から離してはまた戻し、けんけん轟々スマホ越しに捲し立てる父子を、その男は呆然と見つめていた。



 男の名は鍵崎誠志郎(かぎざきせいしろう)。結婚を約束した匠海の恋人だった。


 

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