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少子化対策八畳敷き。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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ショウシキュウの秘密・2


「絶対無理じゃん!?」


 股間を抑えて縮こまる匠海に、目を閉じた父はしかつめらしく言う。


「だよね~。だから男性妊夫の致死率は当時100%だったんだよ」


 だからおばあちゃんだったおじいちゃんも亡くなったのかと匠海は合点がいく。合点していいのか?とも心の隅で思いながら。


「正直今、男性妊夫の死亡率がどのくらいなのかとか、そもそも男性妊夫が今もいるのかとかお父さんも全然わからないのだけれど、一応君には伝えておかないとと思ってね。命にかかわることだし」


 全部が全部信じたわけではないが、これも父親としての性教育の一環だったのだろうということで匠海が納得しようとしたときだった。


「君にも妊娠の可能性があるかもしれないでしょう」


 男性妊娠が存在するという話の続きだと匠海は思った。一瞬焦りかけた気持ちを抑えて、匠海は正座をし直す。


「大学入って一人暮らし始めたからって羽目を外さないように」


 父親として当然の小言だろう。匠海は素直に「はい」と頷いた。


「結局お父さんの運命の人はお母さんだったけれど、君はおじいちゃんと同じ道を歩むでしょう?命あっての物種なので、避妊はしっかりね」


 責められてはいない。むしろ父の声は聞いたこともないくらい穏やかで、匠海を包むようにほほ笑んでいる。


「……遺伝……なのかな……」


 父を直視できずうつむいた匠海は、膝の上の震える拳をみつめた。


「妊娠しやすいかどうかはよくわかりませんが、おじいちゃんがそうであったと知っておけばなんとなく用心するでしょ。好きになるタイプは遺伝とは全く関係ないと思いますけど」


 顔を上げると父は笑っていた。


「お母さんはほら、おじいちゃんと似ても似つかないタイプだし。おじいちゃんに聞いても亡くなったおじいちゃんにも似てないらしいよ、お母さん。あ、でも、おばあちゃんにはちょっと似てるかもな。底抜けに優しいとことか、よく笑うとことか。ね?」


 相槌を求めてくる父に、鼻をツンとさせたまま匠海はうんと頷いた。


「それと、お母さんにはくれぐれも気をつけるように」


 神妙に付け加える父に、匠海の心臓は跳ね上がる。やはり母親の方がショックは大きいのか。


「あの人面白がってるから」


 予想していたのと違う言葉が帰ってきて、匠海の口から「はあ?」と出た。


 匠海の恋愛対象が男性であることは母が気づいたという。小学生の頃から扱っているパソコン、タブレット、スマホ。すべてにおいて最初から検閲を欠かさなかった母は早い段階で匠海の性的指向を把握していた。犯罪傾向にあるサイトなどには繋がっていないし、詐欺にも引っ掛かってない。ならいいやーとほったらかされていたという。好奇心から妙な行動に出たら止めなければと待ち構えていたらしいが、「うちの子優秀。やっぱり親の躾がいいから」とカラカラ笑っているらしい。


「結婚の報告に来るとき、お相手の方がうちに『匠海さんをお嫁さんにください』って言いに来るのかしら。それともお相手のお宅に『お宅様の息子さんをお嫁さんにください』って言いに行くのかしら。そしたらあれかしら、『おまえがうちの息子をたぶらかしたんだろう!この!ゲスな雄狐め!略してゲス狐!』とか怒鳴られるのかしら。そしたらどうしますお父さん。やっぱり『狐じゃないわよ!同じ穴の貉よ!』って怒鳴り返してやるべきかしら」


 ワクワクしている母の姿が目に浮かび、匠海は額を抑える。


「検閲って言ったって、全部を全部監視してたわけじゃない。いくら自分の子供とはいえ、全部を知ってしまったらつまんないってお母さんは言ってた。危なくないと判断したら、あとはもう手放してたよ。お父さんだって君の性的指向をお母さんから聞いたのはつい最近だし」


 匠海は驚いて顔を上げると、父は眉を上げた。


「お父さんも気づいてはいたんだけどね。もうすぐ一人暮らしを始める君を心配して、お母さんが『実は……』って教えてくれてね。性の話は男同士の方が良いだろうから、お父さんから言ってくれって。まあ、お母さんの心配は妊娠の方じゃなくて、性病とか人間関係の方なんだけどね」


「え、じゃあ、お母さんは……」


「お母さんは別のところから嫁いで来てるからね。知らないみたいだね、男が妊娠できること」


「おじいちゃんもおばあちゃんも言ってないんだ……」


「まあ、いちいち言うことでもないし、言っても信じられないでしょう。言っても信じられないなら言うのも疲れるしね。ただたまに仏壇の上に飾ってあるお父さんの本当のおばあちゃんであるおじいちゃんの写真見て『誰?』とは言うけどね」


 匠海は目を見開いて驚いた。


「あの人!?」


「そうそう。お父さんもおじいちゃんに言われるまで親戚の誰かだと思ってたんだけどね」


 あんな見下ろされるようなところに堂々と前妻、もとい前夫の写真なんか飾られちゃっておばあちゃんは一体どんな気分なのか。呆れる匠海に父は飄々と言った。


「気にしてないって言ってたねえ。お父さんの本当のお母さんだからって大事にしなきゃって」


「いや、絶対はらわた煮えくり返ってるって」


 ここまで無神経な祖父を相手に、よく祖母は父を粗末に扱わずに耐えられたなと改めて祖母の寛大さ偉大さに匠海は敬服する。親と子供は切り離して考えられる。母性愛とはそういうものなのか。



「お父さんも昔ね、男の人とお付き合いしたことあるのよ、一度だけ」


「はあ!?」


 渋い顔をして腕を組む父の衝撃の告白はまだまだ続いた。


「匠海も覚えがあると思うけど、この辺の子って年長の子供が下の子供の面倒を見る風習があるでしょう。学校にしろ町内にしろ。あれって大昔からある風習でね。今でこそ男の子も女の子も混ざって面倒見あってるけど、昔は男限定の風習だったのよ。強い兵隊を育てるためって言ってね。体育会系というか軍隊みたいなもんだね。年がら年中一緒にいるもんだから男同士の恋人とか夫夫とかも珍しくなかったみたいでさ。だから男同士でできた子は特別強い男になるなんていう言い伝えがあったみたいで、すんごい推奨されてたんだって」


「ええ……」


 あまりに単純な発想に匠海は引くが、医学も発展してない昔の人なら確かにそんなこと言いそうではある。


「お父さんが生まれた頃はもう同性愛自体が差別されていたし、男性妊娠の話もタブーになっていたからそんなこという人もいなかったんだけどね。おじいちゃんはね、当事者じゃない?お父さんのお父さんっていう」


「まあ、そうですね」


 頑固な祖父の言いそうなことの予想がついた。


「『おまえも強い男を生めー!』って」


 うんざりとため息をつく父に、匠海は疑問をひとつひとつ潰していった。


「お父さんてそんなに強かったっけ?」


「県代表とかなったこともあるけど、1位とか取ったことないね」


「入院もしたことあるよね?」


「1回ね。盲腸でね。あ、でもインフルにかかったことはないよ。これは自慢」


「風邪引いてなかった?去年」


「年取ってからねえ、引くようになったねえ」


「大学どこだっけ?」


「一応国立よ。地方だけど」


「……」


「……」


 しばし見つめ合った親子は息子が先に口を開いた。


「おじいちゃん、何を期待したの?」


「充分だろうが!」


 立てた膝を収めて、父は咳払いする。


「そもそもお父さんは男の人に恋心は抱けませんでしたし、おじいちゃんも諦めてくれたんでその話は終わったんですけれども」


 匠海は嫌な予感に眉をひそめた。


「まさか、俺に……?」


「生まれた子供が男の子って知ったときはものすごく喜んでたんでね、あらかじめ釘を打ってはいたんだけれども」


「……言ったの?」


 恐る恐る訊く匠海の目を父はしっかり見据えた。


「言ってない。言ったらおじいちゃんの暴走が目に見えてる。そんな命がけの妊娠なんて、大事な息子に無理強いさせられるわけないでしょう」


 命がけで子供を生むことをこの地方の男たちは誇りにしていた。だから祖父も父に男性との交際を勧めたのだという。男性のお見合い相手を連れて来られた時、父は一体どんな気持ちだったのか。決して嫌いではなかった祖父の受け入れられない一端を知って、匠海は暗澹たる気持ちになる。


「これから君がどんな人と出会ってどんな選択をするのか、大人になった君の自由だけれども。くれぐれも責任ある行動をとってください」


 妊娠は女性だけの問題ではないんだからね。するもさせるもね。




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