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少子化対策八畳敷き。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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コウガンの真実・5


「妊娠している男性が何故存在しないのか。何故、男性が妊娠するということを誰も知らないのか。それは国が、もっと言うと世界中の男性が隠蔽しているからなんです」


「……話が大きすぎますよ……」


 真剣に言われれば言われるほど、うんざりしてくる勝臣だった。




 そもそも古代より人類は女性も男性も妊娠し、子供を産んでいたという。男性の妊娠率は低かったものの、ごく当たり前のこととして社会に馴染んでいた。


 だが、男性の出産は尿道を通ってされるため、その狭さと痛みから、父子共に生存率が低かったのだという。



「待って!?尿道!?」


 目を剥く勝臣に、楢崎は冷静に答える。


「はい。尿道が産道となるんです。つまり亀頭の先から子供が生まれてくる」


「ええ!?無理じゃない!?」


「はい。出産時の痛みを耐えきれずショック死したり、あるいは陰茎の裂傷による化膿で亡くなったり。妊夫の死亡率はほぼ100%だったようです」


「ダメじゃん……」


「狭い尿道を通るので、力尽きてなくなる新生児も多かったみたいですが、それでも全員が全員亡くなったわけではない。命がけで産んでくれる妊夫のために、周りも必死になって産ませ、残された子供は集落が一体となって育てたようです」


 男性が妊娠する場合、睾丸の数に合わせてほとんどが双子だという。しかしふたり子供を産んだところで必ず父親が死ぬのであれば、それは種の保存、繁殖行為として効率が悪いと言わざるを得なかった。加えて社会の発達による紛争の増加。妊娠は女に任せ、男は戦争をして領地を増やす方向に社会の舵が切られていった。


「え、でも、男の妊娠って突然なるんでしょ?僕みたいに。信じてませんけど」


 知らないうちに『単為生殖』とやらをしているのであれば、したくなくてもいつのまにやら妊娠しているのでは。


「その頃の男性妊娠に『単為生殖』の記録は無いんです。あくまで男性同士の性行為において妊娠は確認されていました」


「は!?」


「なので男性同士の夫夫(ふうふ)においても避妊さえすれば子供はできなかったのです」


「いや、待って。男性同士?つまりゲイ?」


「そうです」


「は?」


「男性同士の肛門性交ではいったん精子は前立腺に入ります。そこから精巣へと下りてきた精子が受胎する方の精子と結合し、睾丸で妊娠が完了するのです。本来ならば男性妊娠はこのような手順を踏みます」


「手順て……。じゃあなんで僕は。いや、信じてませんけど」


「男性の単為生殖が確認されたのは、実は男性妊娠が禁止されてから、つまり近代に入ってからなんです」


「禁止、されてたんですか?」


「はい。先ほども言いました通り、男性が妊娠すると父親は絶命し、人口が減るというリスクがあった。加えて外国からの宗教や価値観が入ってきて男性優位の思想が広まると、妊娠出産は穢れであり、女性が請け負うものとされました。さらにキリスト教の思想が入ってくれば同性愛すら禁忌の対象とされたのです。男性妊娠は言わずもがなです」


 それでも密かに男性同士の夫夫はいたのだが、妊娠が見つかると連行されたという。


「どこに?」


「国が管理する病院で出産させられ、父親はそのまま行方知れずに。子供もどこかへ里子に出されていたようです」


 パートナーだった父親がどこにどう訴えようとも結局は相手にされず、泣き寝入りだったという。


「男性妊娠、男性妊夫の記録は国によって徹底的に処分されました。特に侵略戦争の際には男に妊娠などされては人手が不足しますから、とにかく国は必死になって男性の妊娠を防いだ。ですが一部の人たちによって資料が残されていたんです。その一人が私の祖母でした。祖母も医師であり研究者で、パートナーを出産によって失くした人でした」


「え……」


 楢崎はにっこり微笑んだ。


「私の父も男性妊娠により生まれた人なんですよ」


 目の前に男性から生まれたと言う人と、男性から生まれた父親を持つと言う人がいる。信じているわけではないが、なんだかまんじりともしない感じがする。絶対自分は大丈夫とか言っておきながら、だんだん詐欺に引っ掛かっていく人ってこんな感じなんかしらと勝臣はぼんやり思った。


「祖母は、祖父を助けられなかったことをずっと後悔していました。『おじいちゃんは私の代わりに赤ちゃんを産んでくれたのに』って。『あの痛みさえなければおじいちゃんは生きていられたのに』って。それで、男性が痛みなく、命の不安なく出産できる方法を考えようと必死に研究していたんです」


「あの、ちょっとわからないんですけど……。『私の代わりに』ってことはおばあちゃんの子供……?」


 失礼に当たらないように、でも本当に単為生殖なのかそれともおばあちゃんの卵子を取り出しておじいちゃんの睾丸に人工授精したのか。真実を知りたくて恐る恐る勝臣が訊くと、楢崎はしっかりと勝臣をみつめた。


「いえ。祖父ひとりの遺伝子。つまり『単為生殖』による男性妊娠だったんです」


「え……」


「そもそも祖母は妊娠しづらい体質だったようで、何年も子供が出来なかったと言います。それでも『まあ、いざとなったらお父さんが』なんて軽口を叩いていたら本当に祖父が妊娠してしまい。その頃はまだ単為生殖の資料が少なかったので祖母も浮気を疑ったのだそうですが、頑として祖父は否定したみたいで。最近になって残されていたサンプルから遺伝子を調べたら本当に祖父のものだけだったんです」


 祖母もあの世でホッとしていると思いますなどと笑う楢崎に、理系の夫婦喧嘩は時代が進むと解決されるもんなんだなと感心した。


「妊夫の命を守る理屈は意外と簡単なんです。陰茎を通らなければいいので、帝王切開をすればいい。つまり睾丸を切り開いて胎児を取り出すわけです。それは理屈的には簡単です」


 勝臣は青くなった。そりゃー理屈で言えば手術なんだからお医者さん的には簡単なことなのだろうが、睾丸切り開かれるこちらとしてはタマが縮みあがる話である。信じてないけど。


「問題は出産まで国に見つからないこと。国に見つかってしまえば妊夫、つまり多田さんは拉致され、出産ののち存在を消されてしまいます」


「消す!?」


「少子化の今は産まれてくる子供は貴重な存在です。でも男性ながら出産してしまった多田さんは、国の秘密をいつ喋るかもわからない危険な存在。出産の痛みで死んだ身体はそのまま海へと捨てられ、国で年間9万人いるという行方不明者のひとりにさせられるだけです」


「ええ……」


「ここでは多田さんの命も多田さんのお子さんの命も保証します。絶対に悪いようにはいたしません。どうかこの病院で産んでいただけないでしょうか」


「えええ……」


 信じていない。男性妊娠など断じて信じていないのだが。


 真摯に向かいで頭を下げる楢崎と松室に、流されそうになっている勝臣であった。


 

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