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序章 ――From N

 はてさて皆さん。この世界――人間の生きる世界というのはつくづく理不尽や不条理、不公平に溢れているとは思いませんか? それを見るのは実に滑稽でたまりません。同じ種族だというのに無意味な争いを繰り返し、差別だって日常茶飯事です。我々から見れば団栗の背比べ、なんていいたとえだとは思いますよ。

 それも見る分には実に愉快で見物ですけどね。見飽きない種族、というのもいっそ珍しいですし、そんな彼らが圧倒的な存在を前に為す術もなく散る様も、あらがう姿も実に面白い――いや、尊いというんでしたっけ。

 おっと、少し話が逸れてしまいましたね。今回はそんな人間たちの中で最近私が眺めている人間たちがいましてね。せっかくですから皆さんにご紹介しようと思ったんですよ。

――あぁほら、あそこの住宅街を歩く和服の女性を見てください。

 彼女の名前は織田聖。指定暴力団“織田組”という、どうやら人間たちの中では悪の組織の長だそうで。いやぁ、風格もあって、背も高いですし、それだけでも十分威圧的ですよねぇ。何よりあの頬! 前髪を流して隠していますけど、時折風に靡いて見え隠れしているのは茨のタトゥーだそうですよ。人を殺すことに何のためらいも持たない目なんかも相まって、”恐慌”なんて言われている所も見ましたよ。悪の組織の親玉、というのにはふさわしいでしょうねぇ。あぁ、くわばらくわばら。

 そんな織田聖さん、普段は家にいるのですが今日――正確にいえばここ数か月は良く外に出かけています。会合やら色々あるようですが、少なくとも今向かっているのはそんなきな臭い場所ではないようで。

 ではどこに――と話をしている間に到着したようですよ。

 見た目は何の変哲もないただの一軒家です。しいて言うのなら周囲の閑静な雰囲気も相まって、高級感があるといった様相です。織田聖のような人間の目的地、と言われると少し首を傾げてしまいそうですね。

 でもご安心ください。彼女の行き先はあの家で間違いありませんから。

 慣れた様子で周囲を窺いつつ、人気が無いことを確認してから袖元に忍ばせていた鍵で扉を難なく開けます。

 ――彼女の隠れ家? いい着眼点ですねぇ。あたからずとも遠からず、ですよ。

 その証拠にほら、表札には”金杉”と織田さんとは全く縁もなさそうな名前です。こんなところを隠れ蓑とするのならちょうどいいでしょう。

 そんな彼女が入ってきたことを察知したのか、家主が玄関の方へとやってきました。

 金杉由良。家主の彼女は織田さんの来訪を喜んでいるようで、黄金の蜂蜜酒のような瞳を少し細めて歓迎しています。

 彼女と言えばこの世界で有数の”金杉財閥”の実子だそうで。唯一のお子さんで、とても聡明な由緒正しきお嬢様です。溢れる知性と魅力はその見た目からもわかりますし、白銀の髪も毛先まで丁寧に手入れが施され、スタイルひとつとっても数多の人間を魅了してきたことでしょう。それこそ、男女問わずに。

 ……それにしては一人暮らしなんて珍しいって? いい大人なんですからそれはそう……と言いたいところですが、金杉さんはご実家と折り合いがうまくついていないんですよ。特に父親との関係は絶望的、と言ってもいいです。血縁関係でなければ、と不満を漏らしていることもよく見かけますよ。

 とはいえお嬢様であることは事実で、そんな彼女が織田さんのような悪の組織の人間と関わりがあるなんて知ったら、父親はおろか家総出で猛反対でしょう。

 ではなぜ、そんな彼女たちが同じ屋根の下で、こんな形で会っているのかって?

 聡い方ならおわかりでしょう? これが人間たちの生きる世界での理不尽であり、不条理であり、私にとって何より見ていて飽きない理由ですよ。

 その証拠にほら、完全に外から見えないところまで来た二人が見つめ合っています。何度か言葉を交わしているようですけれども、さすがにその内容までは――私の面白いと思うところではありませんので割愛しますけれども、少なくとも彼女たちの関係は肉体関係以上ではありますよ。


 指定暴力団の親玉の織田聖と、由緒正しきお嬢様の金杉由良。

 二人はそれぞれに惹かれあっているというのに、決して公にすることはできない関係。本来であれば歓迎されるべき二人であるのに、人間たちのつまらないルールや風習、しきたりでそれが決して叶わない。

 あぁ! なんて哀れ! 本当に人間というのは実に哀れでなりませんねぇ!!

 ……おっと、失礼。大筋から話がだいぶそれてしまいました。

 これはそんな二人が出会い、この不条理な世界に翻弄されながらも生きるお話です。

 そして何より、彼女たちはまだ運がいい。我々のような超自然的な存在に邂逅していないのですから。絶対的な存在を前に無様にも足掻き、抗うことの恐怖を知らないのです。

 それでも立ちはだかる人間たちの慣習という名の壁は大きいようにも感じますけどね。



 せっかくですから、彼女たちが出会い、今に至るまでのお話を、私と同じ特等席で一緒に見ようではありませんか。人間たちの醜い感情に翻弄される二人の物語を。


 ん? 私は何者かですか?

 ……世の中、知らなくていいことは星の数ほどありますよ。それでもなおまだ、知りたいというのならそうですね――あなたの傍に這い寄る混沌の観測者、とでも言っておきましょうか。

 もしかしたらこれを見ている人の中には、私の一つの姿に出会っている人もいるかもしれませんし、これから出会う人もいるでしょう。

 まぁ、出逢わない方が幸せかもしれませんけどね。

はじめましての方は初めまして。夏鈴と申します。

この度、クトゥルフ神話TRPGのキャラクターを用いた、長編小説を連載いたします。


詳細については投稿主のツイキャスにて明日12/7の18時にてお知らせいたしますので、そちらも合わせてご覧いただけますと幸いです。


https://twitcasting.tv/karinn5272

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