非番シリーズ: 「ペアルックと暗殺と抹茶ラテ」
「……会長、俺、今日、非番なんですよ?」
影山幸太は、信じられないものを見る目で自分の服を見下ろした。
全身チェックのシャツ、緑のチノパン、そして“笑顔のどら焼き”が描かれたエコバッグ。
隣には、その服とまったく同じ格好をした初老の男が立っていた。
——会長である。
「ふふふ、良いだろう? ピクニックボーイと老舗和菓子店主ペアルックだ!」
「なんですかその謎コンセプト……!」
「幸太くん、今日は街に出るぞ。“暗殺のない休日”というやつを、私たちが体現するのだ!」
「……それ、すでにフラグ建ててません?」
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その日の街は、どこか和やかだった。
会長は「この和菓子屋は100年以上の歴史があるんだぞ」とか、「最近の団子は串のささりが甘い」などと講釈を垂れながら歩く。
影山は完全に置いてけぼりだ。
「(なぜ俺は、休日にこの人と歩いてるんだろう……)」
そのときだった。
屋上の影が、不自然に動いた。
「……!」
影山は反射的に上を見た。
そこには、黒いマスクをつけたスナイパーが銃を構えていた。
「会長、下がって――!」
「お、この抹茶ラテ、濃いなぁ!」
会長が一歩踏み出し、しゃがみ込む。
——パン!
銃弾は会長の頭上を掠め、後ろの看板に突き刺さった。
「(なっ……今の、たまたま……!?)」
会長は抹茶ラテを飲みながら「冷たいのにほっとするねぇ」とか言っていた。
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さらに歩いていると、通りに露店が出ていた。
和スイーツ試食会らしい。
「ここの栗羊羹は、昔ながらの味なんだぞ!」
そう言って会長が差し出したひと口羊羹を食べようとする。
だが影山の目は、その手元に釘付けだった。
(……包装の裏に、何か塗られてる……!?)
「会長、それ食べちゃだめです!!」
「む? おおっと、これは……」
パクッ。
「――と見せかけて、おまえにあげよう!」
会長は、脇にいたハトに差し出した。ハトは美味そうに羊羹を食べた後、即座に気絶して落ちた。
「……ほらな? だから賞味期限は確認せんといかんのだ」
「(違う……たまたま毒菓子をハトにあげたなんて、そんな偶然あるか!?)」
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一日中、暗殺が企てられていた。
しかし、そのすべてが「会長の予測不能な行動」で無効化されていた。
•曲がり角でのナイフ暗殺 → 会長がスマホを落として拾おうとした瞬間にしゃがんで回避
•タイヤパンク狙いの車突進 → 会長が道端の盆栽を見て「見事!」と足を止めた結果、車は自爆
•カフェでの毒注入 → 「このラテはぬるすぎる!」と店を変えた
「幸太くん、今日も生き延びたな」
「俺、なんで毎週命狙われてるんでしょうね……?」
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午後5時。
ギルドの会議室には、緊張した面持ちの幹部たちが集まっていた。
「会長……本日の件、標的だった“某財閥の若社長”から感謝の寄付が届きました。なんと金貨1万枚分の……」
「ふむ……」
会長は団子を食べながら言った。
「——非番の成果としては、まぁまぁだな」
「(どんな評価基準ですか!?)」
影山の心の声は、誰にも届かない。
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会長が振り返る。
「幸太くん。来週も非番だな?」
「……いや、非番って何でしたっけ」
「心の休暇さ。暗殺されない努力をして、街の笑顔を守る、素敵な時間だよ」
「努力してないのに阻止してたの会長だけなんですよ」
「ではまた来週、“寿司職人と弟子のペアルック”で出かけようか」
「俺、暗殺された方がまだマシな気がしてきました」




