番外編:非番の影山、パチ屋に現る
──パチンコホール《ダイナミック天国》。
煙たい空気、キラキラしたネオン、耳をつんざくデジタル音。
その中に、ひときわ目立たない男が一人。
影山幸太──Sランク暗殺者。が、自覚ゼロ。
今日は非番。つまり、人が死なないはずの日。
「……今日は平和に終わってくれ……」
彼は天に祈りを捧げながら、そっとパチンコ台に着席した。
⸻
■パチンコ初挑戦
《P・真・北○無双》に座るや否や──
\キュイン!/\激震RUSH突入!/
「……えっ」
1玉目でまさかのラッシュ突入。
背後から歓声が上がる。
「げっ…影山!」
「都市伝説、また更新だ!」
「パチンコ初打ちで……ラッシュて……」
本人は首を傾げる。
「この……光ってるのは……失敗……?」
⸻
1時間後。右隣のおじさんは台を殴っている。
「くっそぉ……なんでこいつだけ……」
左隣のOLは席を立ち、うなだれて出て行く。
「負けるのは良いんです……でもあの人、出てるのに困惑してるんですよ……」
影山は未だにルールを理解していない。
「この『ケン』って人が……ずっと戦ってる……この人、休憩しなくて大丈夫かな……」
⸻
休憩スペースに移動した影山。
自販機で温かいコーンポタージュ缶を買い、ベンチに腰を下ろしたその瞬間──
「よぉ、影山!」
「ひゃっ!?」
驚いた影山は手を滑らせ、コーンポタージュ缶が空中を舞った。
缶はくるくる回りながら──
転がり──
ベンチの奥にいたスーツ姿の男の足元へ。
「うおっ──!?」
スーツ男は足を取られ、バナナの皮のように滑って──
ドゴッッ!
「……ぐふっ」
見事な後頭部強打。即昏倒。
「え、え、えっ!? だ、大丈夫ですか!?すみません!すみませんっ!」
⸻
\ピコン♪/
スマホが鳴る。
《ギルド通知:対象死亡》
《氏名:八坂辰男(ヤミ金・ギルドブラックリスト対象)》
《死因:足元に転がった缶による転倒、後頭部強打》
《関与者:影山幸太》
《評価:事故(高確率)》
《カウント:任務達成扱い(S)》
「……え、え、え、違いますっ!! 俺、ただジュース落としただけで──!!」
周囲を見渡すと、ギルドの小型ドローンが静かにホバリングしていた。
「逃げようとしないあたりがプロ……」
「いや逃げてないですし!!逃げる理由ないし!!」
⸻
■翌日──ギルド本部
「非番で任務完遂……」
会長は深くうなずいた。
「これでSランク事故達成数、歴代トップを更新……ついに《死神》の称号が与えられるな……」
横で書記官がポツリ。
「パチ屋で缶落として死なせたのに……?」
「戦わずして勝つ。それが真の強者というものだ……」
⸻
帰路につく頃。
影山は缶ジュースの自販機の前で立ち止まった。
「もう……今日は何も買わない……絶対に……」
そして翌週。
パチンコホール《ダイナミック天国》には、こんな貼り紙が掲げられた。
『缶ジュース持ち込み禁止(重要)』
※影山幸太さん来店時は、全員ヘルメット着用のこと




