登場!騎士の岸先生④
どうしたものか・・・。
校長は「じゃあ、あとはお若いふたりで・・」
とまるでお見合いを段取りした仲人のようなセリフを残し、校長室に消えていった。校長が仕事のふりをして毎朝お茶を飲みながらスマホで美少女アニメをみているのを僕は知っている。
「え、えと岸先生はその、え、えーと・・・ですので、えーとえーと」
いつ首をはねられるかわからないような恐怖感でもう一回ちびりそうになってくる自分を奮い立たせ、アホの幼稚園児のように話しかけてみる。
とりあえずこのあと教室に一緒に行かねばならないが、こんな甲冑女を連れて行っていいのだろうか。モンスターペアレンツじゃなくたって学校にクレームがはいること間違いなしだ。
どう考えても、ダメに決まっている。なんとか甲冑だけは脱いでもらったほうがいいだろう。あの剣だってどう見ても銃刀法違反じゃないか。
僕はありったけの勇気を振り絞り、何回か口をパクパクさせてから、
「その・・・、これから教室に行くのですが!」
「ウム、一緒に行こう!」
甲冑の中から聞こえる声は、怒っているようには聞こえない。今しかチャンスはない、と自分を奮い立たせる。
「か、甲冑は脱いでもらうことができないでしょうか・・・!、せ、生徒が驚いてしまうので・・!」
へりくだった微笑みを顔に張り付けながら、裏返った声でたどたどしく甲冑女に物申してみる。すごいぞ、僕、頑張った。天国の向井教頭もきっとほめてくれるだろう。
職員室が静まり返り、ほかの先生全員の視線が僕と甲冑女に集中しているのがわかる。
みんなさっきから仕事をしているふりをして、僕と甲冑女の会話を盗み聞きしていたのだ。そりゃそうだ、気にならないほうがおかしい。
おお、意外と勇気あるな、玉川!
殺されたら、夕方のニュースに出るかなあ、キャスターに質問されたときの回答を考えておこう・・
甲冑、カッコエー。
みんなの心の声が届いている気がする。なんだか走馬灯が見えてしまいそうだ。お父さん、お母さん、今まで本当にありがとう。玉川丈太郎はあなたたちの子供で幸せでした。
意外なことに先ほどまで脳筋体質に見えた甲冑女はしばらく黙ったあと、左右に首を振り、何やら思案しているようだ。
「・・・・タマちゃん」
「は、はい!」
甲冑女の言葉に背筋が伸びる。ああ、今死んだら昨夜購入したサバの一夜干しも食べられないな、などとどうでもいいことが心をよぎる。僕の人生で最後に思い出したことはサバだったのか・・。さらば、サバ。
「・・・・着替える場所はあるか?」
甲冑女の言葉に、思わず本当の笑みがこぼれてしまう。どうやら彼女は甲冑を脱いでくれるようだ。そして僕も殺されないようだ。素晴らしい。ビバ人生。涙だって出てしまいそうだ。
「は、はい、今準備いたします!!」
「あと、お前のそのジャージを貸してくれ」
「はい、喜んで!・・・・ん、・・・・えええええ!?」
「さ、更衣室に案内しろ」
僕の回答なんか聞く耳もたず、甲冑女が動き始める。とりあえず甲冑を脱いでもらうことが先決だ。大丈夫。な、なんか僕が着れるものもあるだろう・・・。