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登場!騎士の岸先生⓶

 職員室の時計の針が8時をしめしている。いつもなら教員全体で朝礼が始まる時間だ。


 新学期初日の今日は新人教員の紹介などが行われる予定だ。ところが、さきほど軽やかな足取りで新人教員を迎えに行ったはずの、肝心の向井教頭が一向に戻ってこない。


「どうしたんだろうな。新人が遅刻しているのかなあ?悪いんだけど玉川君、ちょっと玄関まで見に行ってくれないか?」


 3年A組の担任に決まっているベテランの脇屋先生に言われ、僕はしぶしぶ玄関まで向井教頭を探しに行くことになった。


・・・何やってんだ?新人に絡んでいるのか?


 どうにもアクが強い向井教頭は、いかにも新人にウザったく絡みそうなタイプのおじさんだ。そういえば僕も初めて出勤した日にはひどく絡まれた気がする。


 向井教頭自身は相手に気を使っているつもりだが、ウザい、うるさい、うっとうしいとと3拍子揃った粘着質な接し方をするので多くの人に陰で嫌がられている。特に無駄にボディタッチが多く距離が近いので、女性教諭からは激しく嫌われている。


 思い出してみれば僕自身も、はじめてこの学校に来て、向井教頭に絡まれたときは正直逃げ出したい気分になった。

 

 そういえば新人の先生は女の人だって聞いたな・・・。教頭に絡まれたらそれだけで登校拒否になっていしまいそうだ。

 

 そんな失礼なことを思いながら、職員室のある4階から生徒たちの騒ぎ声で騒々しくなっている階段を通り越し、一階まで降りていく。

 そこではじめて僕は異変に気付いた。教員玄関のほうから異様なうめき声が聞こえてきたのだ。


「あ・・・・う・・・・だ、だず・・・だずげてぐだじゃい・・・・」


え・・・!?


 いつもとは全然違う弱弱しい声が職員玄関のほうからわずかに漏れている。その声はずいぶん小さく、しゃがれたようになっているが、さっきまで職員室で元気にしゃべっていた向井教頭の声に聞こえる。


・・・い、今のむ、向井教頭・・


 明らかにこれはやばそうな声だ。これが向井教頭の声だとすれば、何か良からぬ出来事が職員玄関で起きているのは間違いない気がする。


 危険を察知した身体は急に重くなり、足を踏み出すのをためらわせる。

 

・・これは行くべきなのか?・・・逃げるべき!?


 向井教頭のために命を投げ出す気はこれっぽちもないが、さすがに無視するのはまずい気もする。


 僕はスリッパを脱ぎ、忍び足で恐る恐る階段の下から、廊下のつきあたりにある職員用玄関のほうへ移動していく。一歩歩くたびに冷たい汗が脇のあたりにたまっていく。


・・・さっきのは空耳・・空耳でありますように・・。


 現実逃避したい心が、僕の判断力を押し下げようとしている。希望的観測でも考えないと、足を踏み出して職員玄関までたどり着くことも困難そうだ。


 音をださないように気を使っているはずなのに、情けないことに手も足もプルプルと震えうまく歩くことができない。


 なんとか廊下の端までたどり着いたが、首を出してのぞき込むのも勇気が必要だ。


向井教頭、死んでませんように・・・!


 僕は決死の思いで、職員玄関を覗き見るために、そっと顔の半分だけを廊下から出してみる。


「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」



思わず、腰から砕け落ちた。


衝撃の光景を前に、恥ずかしながら少し漏らした。ほんとにちょっとだけ。


「だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、ダレ、だだだだだだ、ダレンダー」


 誰だ!?と聞くだけなのに、池の鯉が餌をもらうかのように無駄に口がパクパク開閉を繰り返す。奥歯がカタカタと震えて、ちゃんと口を閉じることができなくなっている。



 そこには甲冑が立っていた。



 陽光に銀色の光が輝いている。みごとな光沢を持ちながらも重々しい重厚さがある甲冑だ。


 ゲームやマンガで勇者がきているような軽そうなものではない。頭、肩、腰に強固な装甲がはりめぐらされ、顔の部分も鉄仮面に覆われており全く表情は伺えない。さながら上半身は重戦車のようだ。


 よく見ると下半身は上半身に比べ比較的軽装だ。腰回りは装甲が少なくわずかばかりだが身体のラインが見える服装になっている。その下は膝あて、脛当てがつき、足元は先が固いブーツになっていた。


 さらにその腰には装飾が施された長大な剣がさやに収まって装着され、動くたびに揺れている。


「おお、ちょうどよかった。迎えに来たと偽って猥褻そうな変態がきたので、ばっちり退治したところだ」


「あ、あわわわ・・はわわ・・・はにわばば」


 僕は何かしゃべろうとするが、うまく声にすることができない。思考が全く働かず自分自身が何を喋ろうとしているのか全く分からない。


「職員室というところに案内してもらおうか」


 なにごともなかったような口調で甲冑がしゃべりだした。重厚な見た目と裏腹な耳に残る美しい女性の声だ。


 腰を抜かしたままの僕は口をあけて座り込み、コクコクと首を上下させる。もはやただの首振り人形同然だ。踏み台昇降をやるような勢いで僕は首を振り続ける。


「あ、あとコイツをしばらく寝がせてやってくれ。ちょっと2,3回はたいたら泡を吹いてしまった。イヤハヤ泡が出たのでこちらが慌ててしまった。はっはっはっ」


 とんでもないことをしておきながら、ダジャレを言っている異常者に突っ込みをいれるなんてだいそれたことはできず、ただただ僕は甲冑人間を見上げている。


 よく見ると甲冑人間は左手に教頭のシャツの襟をもっていた。教頭は壊れた人形のように膝が崩れ、甲冑にシャツを持たれていなければ、そのまま横たわりそうだ。


「ひ、ひぎい・・・た、たま・・・たま・・がわくん、だずけ・・・・」


しゃべっているので、とりあえず生きてはいるらしい。

かわいそうだが、放置しておこう。アーメン。


「おお、お前が玉川君か、うん、タマちゃんだな。覚えたぞ」


「は、はあ・・」


状況が把握できぬまま、甲冑人間は親しげに僕にしゃべりかけてくる。


お前が玉川君・・?僕のことを知っているのか?いきなりタマちゃん呼びっていったい・・・・。


顔面が見えないのでよくわからないが、どうやら僕に対して敵意はないようだ。この場で斬首されたり、撲殺されたりする未来を予見しかけていた僕は少しだけ落ち着きを取り戻す。


「さあ、タマちゃん!職員室に向かおうか!」









































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