表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

未来からのメッセージ

作者: 遠物語

アプリ「書く習慣」で投稿したものと同一内容です。


 変なメールが届いた。


 「10年前の私へ」というタイトルのメールだ。


 「10年前の私から届いた手紙」や「10年後の私へ送る手紙」なら分かる。

 タイムカプセル的なアレだ。


 しかし、「10年前の私へ」というのは何だ。


 リアルタイムトラベルではないか。


 ……。


 まあ、前置きをこの辺にして言ってしまうと、スパムメールだ。

 当たり前だ。

 タイムトラベルなどない。


 本文には、「 高齢の独り身で貯金が減ってきて、、、」などと書いてあり、お金を持っていた友達はこの投資アプリで老後資金を貯めたと言っていたから、あなたも今やって、10年後の私を助けてください、という論調だ。


 まあ、ここ数年パターンが変わらない、私宛に来るスパムメール業界( どんな業界だよ)にしては、頑張った方ではないか。


 そもそも、近年はSNSでのやり取りが主流で、メールは使っていない。


 家族とのやり取りも◯INEになった昨今、メールは自治体の災害メールとスパムくらいなのだ。



 スパムはおいておくにしても、「高齢の独り身で……」のくだりは効いた。


 いや、私とて何も気にしていないわけではないのだ。

 このままいくと、リアルに孤独死だということは、分かっている。



 思い出す光景がある。


 両親が外出し、私が、痴呆の進んだ祖母と二人で留守番をしていた時の話だ。


 足がめっきり弱ってきた祖母は、まだかろうじて歩けるが、立ち上がりは相当気合を入れる必要がある。

 また、長く床に座ると、足の血流が悪くなるのか、揉まないと立ち上がれないようだ。


 そんな祖母は、おおむね椅子に座るか、ベッドで寝ている。

 椅子やベッドなら、床よりも高いので、『 立ち上がる』という行為にそれほど筋力を使わずにすむ。



 その日、祖母は久しぶりに床に座ってテレビを見ていた。


 祖母が興味の有りそうな話題だったので、楽しく見ているのかと思って顔を見ると、私は少しショックを受けた。


 その時の祖母の顔は、ひどく悲しそうだったのだ。


 それも、子どもがする泣きそうな表情。


 そんな表情の祖母は、私はそれまで見たことがなかった。



 最近の祖母は難しい事は喋らないので、こちらが想像するしかない。



 それはもしかすると、毎日、我が子に怒鳴られる現状が情けなかったからかもしれない。

 立ち上がることもつらい体が、話すこともできなくなった頭がもどかしいからかもしれない。

 長生きしても孫がいつまでも独り身で、安心できないからかもしれない。



 あるいは、家族が、自分の死を待っているのではないかと、感じたからかもしれない。



 その姿は、間違いなく将来の私で、それどころかもっと悲惨で孤独な老後を送る可能性は高い。



 その日、久しぶりに鏡をゆっくり見て、目立つようになった白髪を見た。

 ほうれい線も目立つようになった。

 長く働いていると、夜には目もよく見えなくなってくる。


 これらは、老化の兆し。

 私が、10年後の私が、今の私につながるメッセージだ。


 今日は今日のままではなく、老いにつながっているのだと。

 このまま、日々を仕事で暮らしていくことで満足かと、問うているのだ。



 そう。これが本当の、10年後の私から届いた手紙、なのだろう。


 本当の手紙や、メールでなくてもよいのだ。


 私達が、キチンとその未来からのメッセージを受け取れてさえいれば。


 さあ、私はどうしようかな。


 そう思うが、取り急ぎやることは職場に出発することだ。


 このままでは遅刻してしまう。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ